「ジロ・デ・イタリア」をはじめ、数々のロードレースが開催されるイタリアは自転車大国。スタイリッシュなメーカーから職人気質の工房まで、こだわりのブランドが揃っています。今回は、NHK BSの人気番組「にっぽん縦断 こころ旅」のエンジニアとしておなじみの「水さん」こと水﨑ユタカさんに、個性ゆたかなイタリアの自転車についてうかがいました。
イタリア人にとって自転車とは?
俳優の火野正平さんが、自転車に乗って手紙の送り主を訪ねるNHK BSの人気番組「にっぽん縦断 こころ旅」は、14年にわたって日本各地を駆け抜けた人気番組。その番組にエンジニアとして参加し、最後尾を走っていた水﨑さんは、埼玉県で「シクロ工房スピットガレージ」という自転車ショップを経営しています。ショップを訪ねると、店内はヴィンテージフレームや自転車パーツが所狭しと並び、ファン垂涎の逸品やイタリア車もたくさん!まずはイタリア人にとって自転車はどんな存在なのかうかがいました。
NHK BS「にっぽん縦断 こころ旅」 火野正平さん時代のエンジニア、水﨑ユタカさん
毎年、5月に3週間にわたって開催される「ジロ・デ・イタリア」は、イタリア最高峰のプロ自転車ロードレース。「プロのレースに限らず、イタリアは町おこしでレースがいっぱいあって、子どもたちが乗るお祭りのレースで賞金が出ることもあります。昔は結構ハングリースポーツだったと言えるでしょうね」。日常の足であり、スポーツとして楽しみ、賞金稼ぎという現実的な目的もあったイタリアの自転車事情。スポンサーがバックアップするフランスのレースとは違う草レースのような形で、イタリアでは自転車に親しんできた歴史があります。
人々の暮らしに身近だった自転車は、デザイン的にはどんな特徴があるのでしょうか?「イタリアはやっぱり機能美の追求ですね。風洞実験をして空気抵抗を減らしたり、ずっと努力を重ねているメーカーが多いです」。色へのこだわりもイタリアらしさのひとつ。「BIANCHI ビアンキ」のチェレステ(天空)、「GIOS ジオス」のジオスブルーなど、ブランドを象徴するカラーが人気のメーカーもあります。
火野正平さんが乗っていたTommasini
スチールフレームを溶接から塗装までイタリアの自社工場で行う「Tommasini トマジーニ」。エレガントな細身のメッキラグのスチールフレームと多彩なカラーリングが、自転車ファンに支持されています。創始者のイリオ・トマジーニは、現役の選手だった1948年にフレームビルダーとなり、その後ミラノで名匠ジュゼッぺ・ペラに師事し、フレームビルディングのすべてを受け継いでトマジーニを設立しました。世代を超えて受け継がれた職人たちの技術と経験は、フレームのディテールや自転車の性能に大切なジオメトリーに活かされています。
細身のスチールフレームがエレガントな 「Tommasini Sintesi」
「にっぽん縦断 こころ旅」で休憩中の火野正平さん
「ニッポン縦断 こころ旅」で火野正平さんが乗っていたのは、トマジーニの「Sintesi シンテシー」。スチールの中でもしなやかでそこそこ軽く、乗りやすいモデルで、火野正平さんに「トマジーニ シンテシー」を選んだのは水﨑さんでした。「多くのサイクリストやプロレーサーに熱く支持されている理由は、実際に乗って走ってみると、よくわかります」。
火野正平さんの愛車「Tommasini Sintesi」
装飾的なラグが美しい「Tommasini Diamante」
イタリア生産にこだわるCASATI
モンツァにあるイタリア屈指の歴史あるブランド「CASATI カザーティ」。1920年の創業以来、イタリアでの生産にこだわり続け、現在でも溶接をはじめとした工程はすべて自社工場で行なっています。溶接痕が見えないフィレットブレイズ工法やネジを隠す特許のヒドゥンシートバインダーなど、ハンドメイドならではの優れた技術により、プロダクトというよりアートと呼びたくなる美しさです。
クラッシックで美しい復刻版「CASATI」
ジャンニ・ブーニョをサポートしたブランドとして有名ですが、イタリアのU23チームにフレームを供給していたこともあり、レースから得たノウハウを製品にフィードバック。多くのブランドが生産拠点をアジアに移したいまも、カザーティはMADE IN ITALYの「CICULI」自転車工房のスピリットを継承しています。
「CASATI」創業時のヘッドマーク
名門コルナゴの美しいヴィンテージ
「Asso di Fiori」クローバーのマークで知られる「COLNAGO コルナゴ」は、ミラノ近郊の街カンビアーノで、エルネストとパオロのコルナゴ兄弟が始めた自転車工房。数々のロードレースで優勝を重ね、常に有力プロチームに自転車を供給し、名門としての地位を築き上げました。2024年には、タデイ・ガルチャがジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、世界選手権で優勝し、トリプルクラウンを達成。現在、ロードレースのトップを疾走するブランドですが、クラシカルなヴィンテージ自転車も完璧な美しさを誇ります。
クロモリ=クロームモリブデン鋼 鉄フレームのクラシカルなロード自転車
1970年、ミケーレ・ダンチェッリの ミラノ〜サンレモ優勝を機にマークがAsso di Fioriに
一時期、軽さからカーボン素材が支持されていましたが、「溶かして再生できるので、サステナビリティという意味で、ヨーロッパでは鉄が見直されていますね」。自転車素材として、鉄の良さが見直されている現在、イタリアの職人の手仕事が、再び脚光を浴びそうです。
初心者におすすめはGIOS MISTRAL
これからスポーツ自転車に乗りたいと思っている方におすすめのモデルは?「やっぱりジオス ミストラルあたりがいいんじゃないかな。非常にしっかり造ってあるし、その割にリーズナブル。小柄な人に合うサイズもあります」。ちなみに筆者は自転車通勤しているのですが、愛車は「ジオス ミストラル」。とても乗りやすいお気に入りなのですが、街乗り自転車から乗り換えた当初は、Shimanoのブレーキの効きが良すぎて、急ブレーキをかけて自転車ごと1回転してしまったことがありました。幸いかすり傷ですみましたが、スポーツ車に初めて乗るときはご注意を!
筆者の愛車「GIOS MISTRAL」
自転車を愛し、自転車で走ることをエンジョイし、レースに熱狂し、モノづくりにこだわるイタリア。頼もしい相棒になる自転車と出会って、イタリア流に毎日を楽しんでみませんか。
シクロ工房スピットガレージ
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