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カルチョの国のサッカー少年はどんなトレーニングをしているのでしょうか?

子どもに過度な練習をさせないイタリアの育成哲学

イタリア国立ジャーナリスト協会会員、イタリア代表、セリエAから育成年代まで現地で取材を続ける記者兼スカウトである宮崎隆司の著書『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』を読むと、なぜイタリアのサッカーは強いのか? その答えの片鱗がうかがえます。

カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる

イタリア生まれ、イタリア育ちの著者の長男(2003年生まれの14歳)の1週間のスケジュールがこちらです。
「イタリアでは育成年代の練習は週2回(平日)、練習時間は1回90分が基本。週末はホーム&アウェイ方式のリーグ戦1試合を戦い、練習はしない。つまり、イタリアの一般的な子どもたちの活動ペースは「蹴球3日」である。「蹴球6日」も珍しくなく、朝練や居残り練習もいとわない日本の多くの部活チームと比較すると、イタリアの子どもの負荷は圧倒的に軽い。
3カ月という長い夏休み期間中、ほとんどのイタリアのクラブでは、練習が1度も行われない。その間、よく遊び、よく眠るイタリアの子どもは、夏を境に見違えるほど身体が大きくなるケースが多い」と書かれています。

カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる

2017-2018シーズンのエンポリU-17指導スタッフ
プロの下部組織も練習量は控えめだといいます。
「子どもに過度な練習をさせないイタリアの育成哲学は、プロクラブの下部組織にも共通している。「育成の名門」として知られるエンポリFCでも、13歳から15歳までの各カテゴリーの練習は週3日、練習時間は90分、長くても100分がリミット」。
「これに週末の試合が加わることを考えれば、これ以上増やすべきではありません」とエンポリFC専属フィジオセラピスト(理学療法士)のフランチェスコ・マリーノ氏は言います。

本書についてネット上では、「練習量が足りないからイタリアはロシアW杯に出場できなかった」「没落したイタリアに見習う点はない」といった反論も寄せられたといいますが、イタリアは5月のUEFA U-17欧州選手権で準優勝を果たすと、続く7月のUEFA U-19欧州選手権でも決勝に進出。延長戦の末惜しくもポルトガルに敗れましたが、「蹴球3日」の草の根に支えられたイタリアサッカーの未来が明るいことを印象付けました。

会費の相場は年間4万円代、13歳からは無料

カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる

子どものサッカースクールに月額1万円以上の費用をかける例も少なくない日本の親からは、イタリアの少年サッカーの活動費の安さに驚きの声が上がった、といいます。
イタリアの一般的な街クラブの年会費の相場は300から350ユーロ(約4万円から4.6万円)。つまり1カ月3,500円程度。これだけ払えば、誰もが毎週2回以上の練習と年間最低30試合のリーグ戦(ホーム&アウェイ方式)、さらにはリーグ戦終了後の各種大会に参加することができるといいます。この年会費には保険代、登録料、ユニフォーム代も含まれます。なお、これはあくまでも12歳までの子どもたちの親が負担する費用。13歳以上になると選手の保有権をクラブが持つことになるため、年会費は無料に。

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日本の子どもたちは果たして幸せなのだろうか……。
大きな共感を呼んだのが、日本の育成年代で伝統的に行われる「走り込み」「筋トレ」といった指導状況についてレクチャーを受けたうえで、「過剰なトレーニングの弊害とは?」という著者の質問に答えたエンポリFC専属フィジオセラピスト、マリーノ氏の言葉でした。
「国ごとに文化も違えば、考え方、個々のトレーニング手法も異なります。ましてや私は日本の指導現場を目にしたことがない者ですから、そのサッカー環境について正確な意見を述べることはできません。ただ、こうして日本のトレーニング環境を説明してもらいながら私が思うのは、『それほどの量のトレーニングを毎日こなしている子どもたちは、果たして幸せなのだろうか……』という疑問です。彼らはそれを自分の意思でやっているのでしょうか。それともやらされているのでしょうか。試合に出られない子どもたちは、いったい何をモチベーションにそれほどの距離を走っているのでしょうか」。

カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる

エンポリFC専属フィジオセラピスト(理学療法士)のフランチェスコ・マリーノ氏
マリーノ氏の言葉の通り、文化の違うイタリアと日本を単純に比較することはできないと筆者。たしかに「よく休み、よく遊べ」というイタリアの文化は、日本流の「よく働き、よく走れ」とは対極とも言えるもの。しかし、子どもに決して無理をさせないイタリア人の「愛情と情熱」が、子どもの成長とスポーツ指導における安全を願う日本の親や指導者に、1つの新鮮な視点を与えてくれることは間違いないでしょう。

カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる

『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』

著者:宮崎隆司
定価:1,040円+税
体裁:電子版
発行:内外出版社
【Kindle】https://www.amazon.co.jp/dp/B07GZDFXDP/
【amazon】https://www.amazon.co.jp/dp/4862573738/
【楽天ブックス】https://books.rakuten.co.jp/rb/15521628/

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