2025年秋冬、グッチは新クリエイティブ・ディレクターにデムナ・ヴァサリアを迎え、新章の幕を開けた。ヴェットモンの創設者であり、バレンシアガでは前衛的な美学と社会的メッセージを融合させてきた彼が、グッチに新たな視点をもたらす。
デムナの初のグッチコレクションは「La Famiglia(家族)」と名付けられた。おばあちゃんからティーンの孫まで、家族全員でグッチのロゴ入りニットチョッキで三世代リンクコーデ!?と思ったかもしれないが、このコレクションは、グッチの歴史と歴代デザイナーが築いてきた「グッチらしさ(Gucciness)」を再解釈したもの。GGパターン、ウェブストライプ、バンブー、フローラプリントなど、グッチの象徴的なコードを現代的な感性でアップデートし、 これまで彼の代名詞でだったオーバーサイズやストリート要素から一転、コンパクトでセンシュアルなシルエットへと大胆に転換した。


さらに、発表の翌日から世界10都市の限定店舗で即売会をスタート!その場で買える在庫販売スタイルで、ファッション界のタイムラグに一石を投じた。
というわけで今回は、グッチ新ディレクター・デムナが「La Famiglia」で描くラグジュアリーの再定義とともに、「グッチって、どうしてこんなにも愛され続けているの?」という、今さら聞けない疑問をワカペディアと一緒にひも解いていこう。アイコン、歴史、そしてグッチらしさの正体まで、知れば知るほど、グッチの奥深さに引き込まれていくはず!

グッチの100年と「グッチらしさ(Gucciness)」をつくった語り手たち
グッチの歴史は、時代ごとに異なる語り手によって紡がれてきた壮大な物語である。
すべては1921年、フィレンツェから始まった。創業者グッチオ・グッチは、若い頃にロンドンの高級ホテル「ザ・サヴォイ」でポーターとして働き、上流階級の旅人たちが持つ洗練されたラゲージに触れることで、ラグジュアリーと機能性の融合に魅了された。
その経験をもとに「旅するエレガンス」をコンセプトに掲げたラゲージ専門店を開業。高品質な革製の旅行かばんを中心に展開し、乗馬文化に着想を得たデザインが人気を集めた。代表的なモチーフには、ホースビットや、鞍の腹帯からインスピレーションを得た「緑・赤・緑」のウェブストライプがある。これらは、グッチのアイコンとして今も受け継がれている。
第二次世界大戦中には、資材不足を乗り越えるためにキャンバス地を採用。戦後には、竹素材を使ったバンブーバッグが登場し、グッチは革新とクラフツマンシップの象徴としての地位を確立した。
しかし1990年代初頭、ブランドは一族の内紛や戦略の迷走により低迷。 その流れを変えたのが、1994年にクリエイティブ・ディレクターに就任したトム・フォードだった。 彼はセクシーで洗練されたスタイルを打ち出し、グッチを官能的ラグジュアリーの代名詞へと再生。 マドンナやケイト・ウィンスレットなど著名人の愛用も後押しし、ブランドは再び世界の注目を集めるようになる。
2005年には、フリーダ・ジャンニーニが就任し、社会の価値観の変化を受けて、フェミニンでロマンティックな美学を打ち出す。 柔らかさと優しさを再評価する時代の空気を、グッチのスタイルに反映させた。
2015年にはアレッサンドロ・ミケーレが登場し、ヴィンテージ、ジェンダーレス、カルチャーの断片を縫い合わせたポエティックで混沌とした美を打ち出すことで、グッチを唯一無二の存在へと導いた。

そして2025年、ミケーレの退任後、グッチは短期間の移行期を経て、デムナ・ヴァサリアが新たな語り手として加わる。 グッチは語り手を変えながら、常に時代の気分を映し出してきた。 ファッションを通して文化を語る。その姿勢こそが、グッチを特別な存在にしている。
デムナ・グヴァサリアと新生グッチ
グッチの新アーティスティック・ディレクターに就任したデムナ・ヴァサリアはジョージア(旧グルジア)出身。建築と経済を学んだのち、アントワープ王立芸術学院でファッションに転向する。 マルタン・マルジェラやルイ・ヴィトンで経験を積み、2014年には自身のブランド、ヴェトモンを立ち上げた。

ヴェトモンでは、オーバーサイズや再構築、皮肉を込めたロゴ使いなど、ストリートとハイファッションを大胆に融合。挑発的でありながら鋭い視点を持つそのスタイルは、ファッション界に新たな価値観をもたらした。
2015年からはバレンシアガのアーティスティック・ディレクターとして、ブランドの再定義に挑戦。 ダークで未来的、時に不穏なムードを漂わせながらも、強い視覚的インパクトと社会的メッセージ性を備えていた彼のコレクション。 その挑戦的なスタイルは、従来のファッションの枠組みに揺さぶりをかけ、賛否両論を巻き起こしながらも、ブランドの存在感を再び際立たせる結果となった。
そして2025年、グッチへ電撃移籍。バレンシアガで確立した再構築的なアプローチと、ストリートとラグジュアリーを自在に横断する感性を携えた彼の起用は、グッチにとって単なる交代ではなく、ブランドの価値観を次の世代へと接続するための戦略的転換点と位置づけられている。
グッチの新コレクションを纏えばミラネーゼになれる?!
デムナ・ヴァサリアがグッチで手がけた初のコレクション「La Famiglia」では、コレクションピース1着1着が架空の家族の一員として、ミラノの街角にいそうでいない、でも確かに見たことがあるような人物像を体現している。名前とスタイリングには、都市のリアリティとアイロニーが巧みに織り込まれている。

オープニングを飾るのは「L’Archetipo(原型)」と名付けられた新型トランク。GGパターンが施されたこのアイテムは、創業者がホテルで働いていたグッチの原点を想起させ、ブランドの記憶を再構築するというデムナの意志を象徴している。
「Incazzata(怒れる女)」は、真紅のコートにホースビットのヒール、フローラのスカーフ、そして「グッチ バンブー 1947」を携えた完璧な装い。彼女が怒っている理由? それは、生息地とも言えるラグジュアリーブランドが軒を連ねるモンテナポレオーネで、VIPだけが手にすることを許されるプレミアバッグを目当てにブティックを訪れたところ、「完売です」と告げられたからかもしれない。 彼女は冷静を保ちながら、サングラス越しに店員たちへ冷たい視線を送り、ミラネーゼの間で洗練されたペットの象徴として人気のイタリアン・グレーハウンドを従え、何事もなかったかのようにその場を後にするのだろう。 内心では、真紅のコートのように静かに燃えているはずだ。

「Cocco di Mamma(ママのお気に入り)」は、大好きなマンマに買ってもらったかのような大きめロゴのバッグを前にかけ、黒のタートルネックにセンター分け、カラー付きメガネという70年代風スタイル。マンマの美学に染められたボンボン感がにじみ出ているルックだ。
「La VIP」は、GGパターンやグッチを象徴するダブルGなどグッチのアイコンを全身にまとい、ブランドを着ることがステータスだと信じる人物像への皮肉を込めたルックである。ラグジュアリーを誇示するその姿は、ブランドの記号性がいかに消費されているかを示している。

対照的に、ゆったりとしたジーンズにグッチのロゴ入りベルトやホースビット付きのパターンシューズ、緑・赤・緑のストライプが印象的なニットなどをさりげなく取り入れ、ブランドのアイコニックな要素を日常の装いに自然に溶け込ませている「Ragazzo della porta accanto(隣の部屋に住む男)」。彼は、ミラノ中央駅周辺にふらりと現れそうな、親しみやすく身近な存在であり、コテコテのラグジュアリーとは一線を画すスタイルを持っている。その姿は、ラグジュアリーが都市生活の一部として軽やかに混ざり合う、現代の空気感を象徴している。「L’Influencer(インフルエンサー)」は、リザード風のブラウンレザーのボンバージャケットに緑赤緑のストライプ入りニット、大ぶりのサングラスを合わせた現代的なルック。SNSでの存在感を武器にするミラネーゼ像を体現し、「スプレッツァトゥーラ(計算された自然体)」というイタリア的美学をアップデートしている。

「Bastardo(クソ野郎)」「Ragazzo(若い男)」「La Bomba(超ホットな女)」「Narsicista(ナルシスト)」「Figo(イケてる男)」というキャラクターたちは、若者のスラングから名付けられた存在であり、現代の若者カルチャーをファッションで体現している。
「Bastardo」と「Ragazzo」は、ぴちぴちのブーメランパンツ一枚で鍛え上げた肉体を誇示する。 「La Bomba」は、お尻ぎりぎりの丈のアウターを羽織り、パンツを履いているかどうかすら曖昧なスタイリングで、通りの視線を独り占めにする。 「Narsicista」は、トムフォード期を彷彿とさせる大胆なカッティングのシャツで胸元を妖艶に開き、ホストのような色気を漂わせる。 「Figo」は、裸にレザージャケットを羽織ることで、イケてるという記号を極限まで演出する。彼らのルックは、ファッションと変態は紙一重という言葉を、改めて思い出させてくれる。

「Miss Aperitivo」は、毎日18時にスプマンテを飲むことだけを楽しみに生きる女性。ギラギラと輝くタイトなミニドレスは、まるで乾杯の瞬間のスパークそのもの。ちなみに、一般的にスプリッツがアペリティーボの定番として知られているが、こだわり派のミラネーゼはスプマンテをチョイスするはず。

グッチがなぜこんなにも愛されるのか。その理由は、歴代のデザイナーたちが築いてきたブランドのアイデンティティと、その遺産を時代の感性に合わせて柔軟に再構築してきた姿勢にある。
「La Famiglia」はその象徴として、物語性に加え、SNS世代が共感するキャラクター性や映像表現、即売スタイルなど、現代カルチャーに響く要素を巧みに取り入れている。
グッチは、ネームバリューを誇示するブランドから、感情に寄り添い、参加を促す共感型ラグジュアリーへと進化し、過去の美学を抱きしめながら「リアル」を纏う存在として、次世代の感性ともつながっている。
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