FOOD

FOOD

パルマの『パスタ博物館』

行くだけで「次のスパゲッティ」が美味しくなる!? 

世界随一のパスタ大国イタリア。一人当たりの年間パスタ消費量は23kgに達します。国内生産量は約360万トンで世界1位です。輸出も好調。過去25年間で3倍に増加し、世界に流通するパスタ4箱のうち1箱はイタリア製というから驚きです(データは2022年。ローマ「世界パスタデー2023」発表)。


長旅や飢餓も救った

そのパスタについて知識を深めたい人におすすめなのは、北部エミリア=ロマーニャ州パルマ郊外にある『パスタ博物館 Museo della Pasta』です。すでに本サイトで紹介した『トマト博物館 Museo del Pomodoro』に併設されています。


エミリア=ロマーニャ地方は、トルテッリーニをはじめとする手打ちパスタゆかりの地です。また、パスタを主力とする大手食品会社「バリラ」が1877年に創業したのもこの地。そのため博物館の展示品も、地元コレクターからのものに加え、バリラから寄贈されたものが多数含まれています。


パスタ博物館は、かつて修道院や農産物作業所だった建物の中にあります
いにしえに使われたパスタ製造機の数々。中央の捏ね機は、臼がカッラーラ産大理石、本体がクルミの木で作られています。19世紀半ばのものとみられます

博物館の順路は、人類がパスタを生み出す過程に沿って続きます。今から九千年前、農耕の発達とともに誕生した人類最古の食物のひとつは、豆や穀類を砕いて水と混ぜ合わせたものでした。古代ローマ時代になると、現在のラザーニャの原形といえる食べ物も作られていました。


やがて人々は、小麦に軟質小麦と硬質小麦(デュラム小麦)の2種類があることを発見します。後者を原料としたパスタは、乾燥させると長期保存に適することもわかりました。その乾燥パスタは長旅を強いられる船乗りや、飢饉の際の重要な食品として役立ちました。地域別にみると、軟質小麦の栽培が盛んな北部では生パスタが、硬質小麦が成育しやすい南部では乾燥パスタが作られるようになっていきました。


円形パスタ「コルツェッティ」のスタンプ型は19世紀のもの
「パスタ無しでは生きられないのがイタリア人です」と話す案内役のマウロ・リッツァさん

ダイスという“魔法”

パスタ作りは14世紀まで主婦の仕事でしたが、その後パスタ専門の職人が誕生。ギルド(職業組合)も結成されます。工房における職人の労働を軽減するために、効率の良い機械や器具も生み出されました。

その流れを受けて、15世紀頃になると、練ったパスタ生地を「ダイス」とよばれる円盤状の型から押し出す製法が普及します。生地に圧力をかけてダイスの穴を通したのち、切断するものです。異なる形の穴をもつダイスに交換することによって、スパゲッティのような長いパスタから、ペンネのような短いパスタまで、さまざまな形状を生み出すことが可能になりました。ダイスの材質も当初の木製に代わり、19世紀にはより耐久性がある鋳鉄製となりました。ダイスによる生産は、20世紀に乾燥パスタの量産が本格化する際にも活かされ、今日に至っています。


パスタ博物館でも、圧巻はダイスのコレクションです。脇にある写真や実物を見ずにダイスだけを見て、どのような形のパスタを製造するものか当てられる人は稀でしょう。逆に考えれば、ファルファッレ(蝶形)やコンキーリエ(貝殻形)用のダイスを考えた人の天才ぶりにも舌を巻きます。ダイスは、まさに魔法に見えてきます。


パスタを絞り出すダイスのコレクションは圧巻。こちらはより良い舌触りが実現できるブロンズ製です
ダイスから押し出された生地は回転カッターで切断されたのち、乾燥工程へとすすみます
ダイスの穴を拡大した解説パネル。一見シンプルな穴が美しい貝殻型を生み出すとは!

今日、パスタは500種類以上も存在するといわれます。各形状や刻まれた溝は、食べたときの弾力や、ソースがいかに上手く絡むか、さらに生産のしやすさまで緻密に計算されています。イタリアでパスタ作りに携わる人々の情熱に想像を馳せると、日頃何気なく口にしているパスタもさらに味わい深くなるのです。


バリッラ社が1930〜1940年に使用していた5kg入り布製袋。箱入りパスタが誕生する以前、工場から小売店に至る流通に使われていました
イタリアのパスタ会社は、早くから広告のもつ力に着目。著名な広告プロデューサーやグラフィックデザイナーを用いて、知名度の向上を図りました

INFORMATION:パスタ博物館 Museo della Pasta

詳細は以下サイト参照

https://pasta.museidelcibo.it