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ジャズ・ピアニスト 西山瞳がイタリア音楽を深掘り!⑤世界の名ピアニストを魅了するFAZIOLI

Hitomi Nishiyama

2025.07.23

ヘヴィメタルをカヴァーしたシリーズも話題のジャズ・ピアニスト 西山瞳が、イタリア音楽を深掘りする大好評連載。今回は、自身のレコーディングでも使うことの多いイタリアのピアノメーカー「FAZIOLI ファツィオリ」について熱く語ります。



瞬く間に世界トップに躍り出た革新的なピアノ

イタリアのピアノメーカー、「FAZIOLI ファツィオリ」。
ショパン国際ピアノコンクールなどで度々話題になっているので、ご存知の方も多いでしょう。
1981年創業とヨーロッパのピアノメーカーとしては新しいメーカーですが、伝統あるメーカーに勝るとも劣らない素晴らしい音色と、楽器としての革新性と品質により注目され、現在、世界のトップメーカーとして広く認知されています。
近年、日本のホールにも常設されることも増え、この素晴らしい楽器の音に触れる機会も増えました。


私自身、ファツィオリの音色が大好きで、自分のアルバムは可能な限りファツィオリを使って録音しており、これまで10作品でファツィオリを使用して録音しました。 私とファツィオリとの出会いは、2000年のEnrico Pieranunzi エンリコ・ピエラヌンツィの作品『Racconti Mediterranei』。
同年、ピエラヌンツィは同じイタリアのEGEAレーベルから『Canto Nascosto』というソロアルバムも発表しているのですが、こちらは4台のメーカーの違うピアノを使って音色を比較するように録音されており、音色の比較ができる作品でした。


この作品で、ファツィオリは個性的で良い音がするなと認識し、EGEAの他の作品を見てみたら、ほとんどがファツィオリで録音されている。EGEAレーベルは、おそらくファツィオリを聴いて欲しくて、このような企画をしたのだと思います。


エンリコ・ピエラヌンツィとセットでこの楽器に注目していたところ、栗東芸術文化会館さきら(滋賀県)にファツィオリが常設されていることを知り、ファンの方がこちらでコンサートを企画して下さって、2006年に初めてこの楽器に触れました。


なんということでしょう! 暖かく芯の通った音、精巧な精密機械でありながら、生き物のように柔軟で、今まで経験したことのない楽器体験。
ミュージシャン同士では〈良い車に乗るには良い運転手が必要〉というように、楽器を弾くことを車を乗りこなすことに例えることが多いのですが、〈ファツィオリは車ではなく馬だ、生き物のようにしなやかで、朗らかに寄り添ってくれる〉と思ったことを、よく覚えています。



奥深い音色同様、仕上げの美しさも出色

外見でわかる大きな特徴としては、まず目に入ってくるのが、現代的でシャープなロゴ。未来を想像させる、非常に特徴的なロゴです。


そして、楽器の内側を少し覗き込むと、木目と仕上げが非常に美しい。
艶やかで、照明が当たっていない時でも輝きを放っており、惚れ惚れします。


ファツィオリF278の内部
F278の内部

そして、ピアノの下に潜り込んでみましょう。
このような角度でグランドピアノを観察したことのある方は、少ないかと思いますが、メーカーによって、結構違うんですよ。響板を支える支柱が、まるで高級家具のように木目が整っており、非常に美しく、頑丈に張り巡らされています。

ファツィオリF278の響板と支柱
F278の響板と支柱

伝統のあるメーカーは伝統を守らないといけませんが、新興メーカーは新しく歴史を作るべく、どんどん技術革新ができるのが大きな強み。


F308というモデルは、通常のコンサートグランドピアノが270cm強の長さなのに対し、308cmという長さ。楽器の響く部分が大きいということは、豊かに鳴り、音量も大きいということです。

通常のグランドピアノより長いファツィオリF308
通常のグランドピアノより長い308cmのF308

そして、通常のピアノのペダルは3本ですが、4本ペダルの楽器があることも有名です。(全ての楽器に装備されているわけではありません)
一番左に追加されている4本目のペダルは、音質を変えずに弱音にする効果があり、またアクションの位置を変え、ハンマーと弦の位置を近くすることで、速いパッセージが弾きやすくなります。

ピアノのペダル
4本ペダルのモデル

家具工場から世界屈指のピアノメーカーへ

ファツィオリの創業者であるパオロ・ファツィオリは、家業が家具工場を営んでおり、家業を継ぐためにローマ大学で工学を学んでいました。
この美しい楽器のフォルムに、楽器メーカーとして以上の特別な美学を感じるのは、木材のエキスパートとしての矜持、また、家具という観点からの、生活を豊かにし共に生きていくパートナーという、優しく長期的な目線があるからだと考えます。


ファツィオリのピアノは、サチーレの工場で少数精鋭の職人によって製造され、年間に製造されるのは、なんとわずか150台ほど。
ショパンコンクールで一躍有名になっても、品質にこだわり、大幅に生産拡大することなく、サチーレの工場にて日々丁寧に技術革新のための研究を積み重ね、楽器が製造されています。この工場を出る全ての楽器をパオロ・ファツィオリがチェックしてから出荷しており、一台一台愛情がかけられて、世界へ旅立っていくのです。


ファツィオリ創立40周年を記念しての、ファツィオリのドキュメンタリーのビデオを、ぜひご覧下さい。


少し古いものですが、ファツィオリの工場見学ツアーのビデオがありますので、こちらもぜひご覧下さい。(英語)


次回は、ファツィオリが聴ける場所、弾ける場所、録音物などをご紹介したいと思います。

ファツィオリジャパンのショールーム
ファツィオリジャパン株式会社のショールーム(東京田町)

取材協力:ファツィオリジャパン株式会社 https://fazioli.co.jp/


西山瞳「Vibrant」のジャケット

西山瞳ピアノ・ソロ・アルバム2作目。全曲オリジナル曲で構成され、静かにピアノと自身と向き合った一枚。弾いているのはFazioli F212です。


【西山瞳】
ヨーロッパジャズを背景とした独自の音楽性により、幅広い音楽ファンから支持されているジャズ・ピアニスト 西山瞳は、メタラーとしても有名。2023年『Dot』、2024年『Echo』は、ジャズ、ヘヴィメタル、クラシックを踏まえた活動集大成の連作として発表され、配信サービスで13カ国でチャートイン。


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