ヘヴィメタルをカヴァーしたシリーズも話題のジャズ・ピアニスト 西山瞳が、イタリア音楽を深掘りする大好評連載。今回はイタリアン・ロックを代表するマネスキンについて、音楽家ならではの視点で取り上げます。
彗星のごとく現れたイタリアン・ロック
今回は、イタリア発で世界を席巻しているロックを、ご紹介します。
近年のイタリアのロックといえば、なんといってもMåneskinマネスキン。彼らの大ブレイクは外せないでしょう。
ダミアーノ・デイヴィッド(ボーカル)、ビクトリア・デ・アンジェリス(ベース)、トーマス・ラッジ(ギター)、イーサン・トルキオ(ドラムス)の、1999年から2001年生まれの4人からなるロックバンドで、近年急激に世界的人気を広げ、現代イタリアのロックを代表するバンドとなっています。
2017年にデビューし、2021年が飛躍の年に。
まずはヨーロッパ最大の音楽の祭典”ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2021”で優勝し、一気に国際的なバンドとなります。
同年ヒットした「I Wanna Be A Slave」は、ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」のロックからの回答とも呼ぶべき会心のナンバー。「Bad Guy」とほぼ同じテンポの4つ打ち、シンプルなビートとメロディの繰り返しでありながら、人力でないと出せない身体も心もバウンスする快楽に溢れ、ちょっと不良で、とにかく音色と演奏に色気があるんですね。
最初に聴くなら、この「I Wanna Be A Slave」も収録されているアルバム『テアトロ・ディーラ vol.1』(2021年)をお勧めします。

シンプルなサウンドで世界を魅了
マネスキンが凄いのが、今時珍しいほどのシンプルさで勝負し、それが世界を魅了しているところ。
最新スタジオアルバム『ラッシュ!』(2023年)に収録の「MAMMAMIA」を聴いてみて下さい。ベース、ギターがほぼユニゾンで、時には歌までユニゾン、今時こんなシンプルな作りのロックはかなり珍しく、しかし、とても挑発的なサウンドです。
「GOSSIP(feat. Tom Morello)」などは、コミカルなほど古風なブレイク(バンドの音が一旦止まること)の使い方をしており、遊び心たっぷりでとても良い。
難しいことや革新的なことで勝負をしているのではなく、彼らの好きな様々なロックを組み合わせた結果、とてもシンプルになって濃度を増し、彼らオリジナルの美学を生み出しています。
リフは基本的にクラシックロックなのですが、ほんの少しマカロニ・ウエスタンの音楽ような郷愁もあり、他のバンドにない癖の強さがとても印象に残る。シンプルだけど、中毒性があるんですね。

イタリアのジャズ・ミュージシャンの多くには、ロマン派のような詩情の豊かさが顕著に見られるのですが、ロックバンドのマネスキンにも共通する歌心があると思います。
また、シンプルな8ビートや4つ打ちが多いのですが、少しバウンス感があって、このあたりは現代のヒップホップ世代という若い雰囲気がありますね。
そして、何より、色気です。
Voダミアーノはセクシーで蠱惑的な歌唱、爆発力もあり、パフォーマンス力抜群。ヴィジュアルも危険な香りを纏い、現代のロックスターとして圧倒的なカリスマ性があります。
躍進のきっかけになった、ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2021の映像をご覧下さい。
そして、Gtトーマスの、古風だけれど現代的な締まりのある音色と、Bsビクトリアの逆におおらかに作られた音色が、このバンド全体の独特の音色になっています。
古いものをスタイリッシュに組み合わせ、遊びをもってユニセックスな色気でコーティングし、シンプルなロックで世界中の若者を虜に。
ファッションアイコンとしても注目の的
グッチの広告キャンペーンに採用されるなど、ファッションアイコンとしても注目されており、グッチやヴァレンティノのデザイナーであったアレッサンドロ・ミケーレがバンドに惚れ込み、衣装を手掛けたりもしていて、とにかくお洒落なんですよ。ファッションも注目です。
日本では、2022年にサマーソニックに出演した時に大きく話題になり、2024年にはヘッドライナーとして登場。物凄い勢いで躍進していることが、ここでもわかります。
私はライブを体験したことはないのですが、ライブに行った人が軒並み、「マネスキンはライブ・パフォーマンスが凄すぎる、ライブバンドだ!」と、興奮して帰ってきます。
YouTubeの大人気番組THE FIRST TAKEにも出演。以上に書いた色気とファッションが素晴らしい映像でよくわかりますので、ぜひご覧下さい。
ダミアーノのソロは等身大の魅力
マネスキンは現在バンド活動を少し休止しており、ソロ活動としてダミアーノ・デイヴィッドが2025年5月に『FUNNY little TEARS』をリリースしました。

圧倒的ロックスターだったマネスキンとは打って変わって、優しく繊細で、弱さも曝け出すような等身大の楽曲と歌唱。とてもポップで、ロックはあまり聴かない方は、ぜひこちらから聴いて頂きたいです。リスナーと心の距離の近い、素敵な作品です。
「Next Summer」
アルバムの終盤を飾る「Silverlines」、「Solitude(No One Understands Me)」の流れは、壮大でとても美しく、感動的でした。
ダミアーノは先日、東京で開催された世界最大規模のアニメの祭典「クランチロール・アニメアワード2025」のために来日していました。
https://www.instagram.com/p/DKPlFYGuYMm/?img_index=1
また、今年10月にソロ公演のために来日します。
10月27日東京ガーデンシアター、10月29日大阪Zepp Osaka Baysideで公演予定。日本で初めてのソロパフォーマンスに、期待が高まります。
https://www.creativeman.co.jp/artist/2025/10damianodavid

【西山瞳】
ヨーロッパジャズを背景とした独自の音楽性により、幅広い音楽ファンから支持されているジャズ・ピアニスト 西山瞳は、メタラーとしても有名。2023年『Dot』、2024年『Echo』は、ジャズ、ヘヴィメタル、クラシックを踏まえた活動集大成の連作として発表され、配信サービスで13カ国でチャートイン。
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