ART & DESIGN

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ヴェネチアで大注目の新イベント、「ホモ・ファーベル」に行ってみた!

水の都ヴェネチア。新鮮な魚介を使ったグルメ、 狭い水路を流れる運河のロマンティックな雰囲気で大人気の旅行先だ。今回は、2018年に始まった注目のイベント、ホモ・ファーベルを通して一味違ったワカペディア流・ヴェネチアの楽しみ方をご紹介!


ヴェネチアで大注目の新イベント、「ホモ・ファーベル」
©Michelangelo Foundation

ヴェネチアには人一倍思い入れのあるワカペディア。2年に一度行われる現代アートの展覧会、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(過去のヴェネチア・ビエンナーレの記事はこちらから)には欠かさず参加しているくらいだ。なんと今年はビエンナーレの開催に先立って、職人の繊細で歴史ある技術にフォーカスした、ホモ・ファーベルが4月10日から5月1日まで開催された。今回のテーマは、「ヨーロッパと日本の人間国宝」。職人の技術を継承し、守っていくことを追求していく過程で、日本の人間国宝の概念に辿りついたそうだ。 人間国宝と言えば、国から重要無形文化財保持者に指定されている、日本のものづくりの第一人者だ。そんな日本の文化や工芸の伝統は、ヨーロッパにどんな影響を与えたのだろうか?バックグラウンドの全く異なるヨーロッパと日本、両方の国の文化や視点が融合された面白い展示になっている。


ヴェネチアで大注目の新イベント、「ホモ・ファーベル」
©Michelangelo Foundation

見逃してしまったあなたのためにも、イタリアと日本、両方の視点を併せ持つワカペディアが展示を解説! 今年のホモ・ファーベルのハイライトをチェックしよう!


「ホモ・ファーベル」ってなに?

ホモ・ファーベルは、今回が2回目の開催となる、比較的新しい展覧会だ。優れた職人技を保存し、デザイン界との結びつきを強化することに力を注いでいる非営利団体、ミケランジェロ財団が主催を務め、「より人間らしい未来をつくる」ことを目的としている。


サン・ジョルジョ・マッジョーレ島
© Fondazione Giorgio Cini

会場となるのはサンマルコ広場の向かい側に見える、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島。


サン・ジョルジョ・マッジョーレ島
©Michelangelo Foundation

もともとはカトリック教会最古の修道会であるベネディクト会の修道院として建てられ、16世紀に新しく建て直されたサン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂で有名だ。そんな歴史ある場所で15のテーマに分かれ展示が行われた。実際に職人技術を間近で見ることができるブースや、イマーシブ・エキシビジョンまであり、丹念な手作業で作られた作品の数々を通じて、職人の才能を促進し、様々な素材、技能や技術を紹介する、見所満載の展覧会だ。(さらに詳しく知りたい方はこちらをチェック!)


日本の人間国宝が集結した圧巻の「12石庭」

ヨーロッパと日本の人間国宝に敬意を示した今回のホモ・ファーベル。中でも注目だったのは、国際的に大活躍中のデザイナー、深澤直人とMOA美術館や箱根美術館の館長である内田篤呉が共同キュレーターを務めた「12石庭」だ。日本人の私たちでも、なかなかお目にかかることができない、備前焼、色絵磁器、木工芸、蒔絵、友禅など様々な分野における道を極めた人間国宝と呼ばれる職人の匠の技を感じられる展示となっている。 


国際的に大活躍中のデザイナー、深澤直人とMOA美術館や箱根美術館の館長である内田篤呉が共同キュレーターを務めた「12石庭
©Michelangelo Foundation

会場となったのは、サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂の大食堂。ヴェネチア派の画家ヴェロネーゼが描いた「カナの婚礼」の複製が飾られ、盛大で神聖な雰囲気で包まれている。それと一変し、展示からは、日本の繊細で奥深い美学である侘び寂びを感じた。12個の石庭の石をイメージしたという白いシンプルなテーブルの上には、それぞれの作品が畏まったように、ちょこんと置かれている。見た目が豪華なヨーロッパの芸術に比べ、少し物足りなく感じてしまうかもしれないが、作品のディテールを見ようと近づくと、その思いは一気に払拭される。丁寧に細部までこだわり抜いて作り上げられた職人芸が凝縮されているのだ。そんなヨーロッパと日本の職人、それぞれが持つ特有の視点や美学が互いに引き立て合いながらも、一つに融合された見事な展示だ。


まるで、職人技術の宝箱「ディテール:装飾の系譜」

さらに、ワカペディアが楽しみにしていたのは、ロンドン芸術大学のファッションと博物館学の教授であり、ファッションに関わる展示のキュレーターとしても活躍中のジュディス・クラークがキュレーションを担当した 「ディテール:装飾の系譜」と呼ばれるセクション。「エルメス」、「カルティエ」、「ドルチェ&ガッバーナ」、「ヴァンクリーフ&アーペル」といった名だたるラグジュアリーブランドが各ブースで披露する、洗練された独自の職人技術を間近で見ることができる貴重な展示だ。


ロンドン芸術大学のファッションと博物館学の教授であり、ファッションに関わる展示のキュレーターとしても活躍中のジュディス・クラークがキュレーションを担当した 「ディテール:装飾の系譜」と呼ばれるセクション
©Michelangelo Foundation

なんと、そこにはワカペディアに馴染みの深い、「ピアジェ」のブースも。1874年に工房を設立したピアジェは、ジュエリーのように煌びやかでエレガントな腕時計で知られている。常に金やプラチナなどの最高級の素材のみを使用することに専念し、時計製造とジュエリーの専門知識を融合した独自のスタイルを確立してきたブランドだ。


ピアジェはブランドのトレードマークとも言える金細工に関する職人技を披露
©Michelangelo Foundation

今回はブランドのトレードマークとも言える金細工に関する職人技を披露していた。時計に使われるゴールドチェーンを一つ一つ形作り、繋げていく作業や、エングレービングという技術を用い、 金を異なった深さに彫ることにより、世界に一つしかない腕時計が出来上がっているということを実感させられる。そんな職人さんの作業を眺めて食い入るように見つめているうちに気づけばあっという間に閉館時間に。見所はまだまだ盛り沢山だけれども、展示を後にしたワカペディアだった。



ホモ・ファーベルはいかがだっただろうか?テクノロジーの進歩により、生産速度や精密さ、均等さなどが重視されがちな現代だからこそ、機械には真似できない、繊細で洗練された職人技術に価値を置くことで、「人間らしさ」がいかに私たちにとって大切だか思い出させてくれる展示でもあるのではないか。残念ながら、今年の展示は既に終わってしまったが、次回の開催に乞うご期待!