ART & DESIGN

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「デザインから捉えるイノベーション。文化の境界線を超えたビジネス価値の創出」を熱く議論する

デザインのプロ4人によるスピーチイベント

イタリア大使館主催により、7月11日(木)虎ノ門ヒルズカフェで「Design Perspectives on Innovation(デザインから捉えるイノベーション。文化の境界線を超えたビジネス価値の創出)」というスピーチイベントが開催されました。
イタリアンデザインとは何か。国や文化を超えたデザインへのアプローチについて白熱した議論が交わされました。その模様をお伝えします。

司会を務めたのは、アメリカで活躍するイタリア人インダストリアルデザイナーGiovanni Pellone。パネラーとして、FabCafeの共同創設者兼LoftworkのCEOの諏訪光弘、さらにデザイン評論の博士号をもつGiovanni Innella、神経科学者でIoT消費者製品を研究するStefano Valenziが登壇しました。

左からGiovanni Pellone、Stefano Valenzi、Giovanni Innela、諏訪光弘
このイベントではイタリアと日本はもちろん、世界の文化を超えたデザイン思考やデザインプロセスに対するさまざまなアプローチ、そしてデザインとさまざまな企業との関係について議論がされました。

デザイン思考がデザインを壊す?

Innella デザイン思考(Design Thinking。デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指すもの)の異なる文化へのアプローチは、結局はデザインを均一にしてしまう問題があると感じています。

諏訪 しかし、デザイン思考は企業が採用するデザイナーのプロセスを理解するのに役立っているのも事実。これによりデザイナーがパワーポイントでのプレゼンテーション以外でもプレゼンテーションできるようになりました。とはいえ、デザイナーおよびデザインとは非常に独創的で多様であります。デザイン思考はそれらを均一にはしていません。

Pellone デジタルがいかに進化しようとデザインはやはり人間が中心になります。

Innella クリティカルシンキング(批判的思考)は、あらゆる革新的なデザイナーの基礎となるはずです。それはデザイン思考に代わるものだと私は考えます。

諏訪 デザイナーは、エンジニアリングと機能性を結び付けデザインを行っています。デザインそれ自体はさまざまなものを比べて作られています。すべてのデザイナーは異なる方法でデザインを行っているのです、デザイン思考に従うかどうかに関わらず。

Valenzi アプローチの種類に関係なく、デザインは人々がさまざまなアイディアを使ってヴィジュアルを識別するのを助け、企業はそれを利用してるともいえますね。

イタリアンデザインを知るためにするべきこと

Pellone ヨーロッパ、あるいはイタリアひとつ見ても文化はひとつではありません。つまりイタリアンデザインのスタイルもひとつではないということです。

Innella イタリアンデザインとは実際に何かと説明することは難しいですね。それを知るためには過去を熟考すべきではないでしょうか。 Droog(無頼漢)なデザインは、カルヴァン主義者のデザインとして区分けされています。これは地方文化のデザインへの影響を示します。例えば、オランダ人は物事へのアプローチに「考える」のではなく「行動」から始めるという印象をもっています。彼らはより実践的なアプローチをするのです。それがオランダのデザインに変換されるのです。

諏訪 それぞれの文化はそれぞれの強みをもっている、という考え方は、想像力を制限するのではないでしょうか。日本のデザインがミニマルで素晴らしいという名声を得たことで、イタリアンデザインまでその影響を受けることは残念です。

会場となった虎ノ門ヒルズカフェは立ち見がでるほど盛況でした
Innella イタリアのデザインはコントラストを念頭に置いて色にアプローチします。日本は逆に調和を求めます。しかし、もっと大事なのは文化や国ということよりもデザイナーの個性にあります。デザイナーはマーケティングチームの一員ではなく、アーティストであり、最終デザインにおいて最も影響力のあるパートなのです。チームワークと販売を重視する現代の企業は芸術家を求めていません。かつてのデザイナーは自身の名を冠した企業やブランドを作りました。なぜ自身の名を企業名に付けたのか、そしてその習慣がなくなったのかを考えるべきです。

Valenzi 現代の企業はファンドとマネタイズにフォーカスしていて、デザインの“ロマンティックな側面”を無視する方向にあります。また、リスク回避の観点から、一人ですべてのデザインを行うことが難しい時代でもあります。それを嘆く一方で、現代のようにコラボレーションやチームでデザインを行うことは、自分とは異なる視点を持つのにいいきっかけになるとも思います。

諏訪 私がやっているFabCafeでは、デザイナー間のコレボレーションを積極的に展開しています。デザイナーひとりではすべてのデザインアプローチ、スタイル、文化を学ぶことはできません。だからさまざまな個性を持ったデザイナー同士が共同でデザインすることが大事なのです。

イタリアと日本のデザインの違い

Pellone デザインに問題が生じた場合、最初のDraft(提案書)に戻ることが一般的になっているようです。

Innella デザイナーがビジネスと密接に関連しているのがその理由でしょう。イタリアの自動車メーカーは、デザインを外注することが多い。だから面白いデザインが生まれる。デザインを内製化することはデザイナーの心を和らげますが、面白い発想を出にくくさせる危険性もあります。

Pellone テクノロジーの世界でのイタリアのアプローチではどうですか?

Innella 「Arduino」というPCで使われる基盤があります。作成者であるイタリア人のMassimo Banziは、自分のデザインを試すことができるプラットフォームは自分自身で作るべきだと考えました。デザインはイノベーションによっても進化するのです。

諏訪 多くのデザイナーの共通は、彼らが新しい何かを見つけたいと考えている点にあります。自分のデザインを使う新しい方法、新しい技術を身に着けたいと考えているのです。好奇心旺盛なのです。既存のものと創造的なもの、両者へ挑戦し、答えを見つけることこそデザイナーがするべきこと。

Valenzi 混沌とした日本のデジタルデザインと、ヨーロッパのシンプルなデザインの対比についてどう感じていますか?

Pellone ヨーロッパのデジタルデザイナーは長い単語や文章を要約するためにアイコンを使いますが、日本では漢字がその役目を長い歴史の中で負ってきています。しかし、日本のデジタルデザインがカオス的または雑然と見えるのは、その漢字によるところが大きいのではないでしょうか。

諏訪 イタリアに浸透している美に対する追求はどこから来ているのですか?

Valenzi イタリアは異なる共和国、文化が混在していて、常に大量の刺激を受けてきました。またイタリアは天然資源があまりないので、デザインというものを最大限に活用してきました。デザインとは美を追う部分が大きいのでそうなったのでしょう。

Pellone 今日はありがとうございました。

Giovanni Pelloneローマで育ち、ニューヨークのパーソンズスクールオブデザイン&プラットインスティテュートでデザインを学びました。彼は、ブルックリンを拠点とする製造業のベンチャー企業Benzaの共同創設者であり、手頃な価格のデザインオブジェクトの製造におけるコンピュータ制御プロセスの使用を先駆けて開発しました。現在は東京を拠点とする多文化的で学際的なデザインスタジオであるGiovanni Pellone Designのクリエイティブディレクターを務めます。

諏訪光弘(右)1971年に米国のサンディエゴで生まれました。慶應義塾大学政策管理学部(SFC)を卒業後、 “InterFM”の立ち上げに参加。1997年、ニューヨークでデザイナーとして働いていました。彼はクリエイティブな才能のための新しいインフラストラクチャを作ることを目的として2000年に新しいスタイルのクリエイティブエージェンシーLoftwork Inc.を設立し、彼はクリエイティブネットワーク “loftwork.com”を立ち上げました。デジタル製作ツールのあるカフェであるFabCafe、素材とクリエイターのための世界的なプラットフォームであるMTRL、そしてクリエイターとの共創を促進するためのプラットフォームであるAWRDもマネージメントしています。 Giovanni Innella(中)トリノのPolitecnicoでインダストリアルデザイン、デザインアカデミーEindhovenでコンセプトデザインを学び、Northumbria大学でデザイン批評の博士号を取得しました。 Giovanniの専門知識は、学術機関向けの研究、美術館やギャラリー向けの作品の構想と制作、企業向けのコンサルタントサービス、デザイン雑誌向けの重要な執筆にまで及びます。現在、Giovanniは、実践デザイナー、東京の産業技術総合研究所の助教授、およびシカゴのスクールオブアートインスティテュートの客員芸術家です。 Stefano Valenzi(左)ヘルスケアとウェルネスの専門知識を持つ先見の明のある技術開発者。ローマで生まれ育ち、2008年に彼は理研脳科学研究所で神経科学者として働くために日本へ。 2014年に、彼は研究開発スペシャリストとして学界から産業への彼の移行を始めました。2016年に最初のスタートアップを共同設立し、特許に彼の研究のアイデアを移し始めました。 Stefanoは最近、イタリアのデザインと日本の技術を融合させて革新的なIoT製品を生み出す企業を共同設立。

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