いよいよ閉幕まで1カ月をきった大阪・関西万博。なかでも5時間待ちと言われるほど多くの来場者を集め、話題をさらってきたイタリアパビリオンを体感できるチャンスも、あとわずかです。開幕から5カ月を迎え、新たに登場したアートやキャラクターなど、イタリアパビリオンの「いま」をレポートします。
数奇な運命を辿ったミケランジェロのキリスト
バチカン市国のパビリオンの手前に展示されている美しい白い立像は、5月18日から展示されているミケランジェロの「復活したキリスト」。右手に十字架と縄を持ち、脇腹にはロンギヌスの槍の傷跡があることから、復活後の姿であることがわかります。

この彫像は、ローマのサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会に設置するため、1514年にミケランジェロが創作した最初のキリスト像として特定されています。ところが、創作中にキリストの顔に黒い筋が現れたため、ミケランジェロはこの大理石を放棄。その後、1638年頃に、若きジャン・ロレンツォ・ベルニーニによって完成されたという数奇な運命をもつ彫像です。

現在では、ラツィオ州バッサーノ・ロマーノのサン・ヴィンチェンツォ・マルティーレ教会が所蔵している高さ約2メートルの大理石像。ルネサンスの巨匠ミケランジェロからバロックの巨匠ベルニーニと、100年にわたって受け継がれた作品として、イタリア芸術の奥深さを物語る傑作となっています。
ペルージャに伝わる聖母子の絵画
8月末からイタリアパビリオンでの展示が始まった作品が、ルネサンスを代表する画家の一人、ピエトロ・ヴァンヌッチの「正義の旗」。一般的にはペルジーノと呼ばれ、ラファエロの師でもある画家の大作は、現在、ペルージャのウンブリア国立美術館が所蔵しています。
聖母子が二人の踊る天使に囲まれ、絵の下方には、アッシジの聖フランチェスコと聖シエナのベルナルディーノが、フードをかぶった修道士と信者たちとともに祈りを捧げています。もともと聖ベルナルディーノ信徒会が行列用のゴンファローネ(旗)として依頼したもので、豊かな地方色を感じさせる作品です。城門や塔、プリオーリ宮殿、サン・ロレンツォ大聖堂の鐘楼、そして破壊されたサンタ・マリア・デイ・セルヴィ教会など、当時のペルージャの町の景色が描かれています。

筆者はキリスト教絵画が好きなのですが、この作品には現在のイラストにも通じるデザインの美しさを感じました。旗として依頼されたことが影響して、遠くから見ても目立つ色彩などが取り入れられているのかもしれません。

105年ぶりに日本に降り立った飛行機
パビリオンのフロントエリアは、紀元前から現代まで、時代を超えてイタリアのアートが集う贅沢な空間。天井を見上げると、クラシックな美しさの木造飛行機が展示されています。実はこの飛行機、1920年に飛行家アルトゥーロ・フェラーリンがローマから東京への初飛行に使用した飛行機のレプリカ。飛行した際に使用したSVA9型機を、オリジナルの技術図面に基づいて忠実に再現したものです。

イタリアの航空工学の象徴である SVA 9 が、木製の骨組みをむき出しにしたことで美しいアートへと変身。100年の時を超えて、再び日本の地に降り立った飛行機は、イタリアと日本の絆の象徴でもあります。


「キリストの埋葬」にこだわったフランシスコ前教皇
イタリアパビリオン内にあるバチカン市国のパビリオン。ここには、カラバッジョの「キリストの埋葬」が厳かに展示されています。万博開幕以来、筆者は何度もこの絵の前に立っていますが、そのたびに静謐な感動に包みこまれます。
「キリストの埋葬」は、バチカン美術館が所蔵する唯一のカラヴァッジョの作品として、同館の絵画コレクションの中心をなす重要なもの。4月に逝去された第266代ローマ教皇フランシスコが、世界平和を願い続け、この作品を大阪・関西万博に展示することにこだわっていたことが伝わっています。

“L’Arte Rigenera la Vita”(芸術が生命を再生する)”をテーマに、価値ある本物のアートを集めた美術館のような空間。最後のチャンスに、いましか体感できないイタリアパビリオンを訪れてみませんか。
イタリアパビリオン公式サイト
https://www.italyexpo2025osaka.it/ja/itariaguan
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