Copy link
bookmarked-checked-image

ジャズ・ピアニスト 西山瞳がイタリア音楽を深掘り!⑦天才ピアニスト ステファノ・ボラーニ

Hitomi Nishiyama

2025.09.24

ソロアルバムの発売ライヴも大好評のジャズ・ピアニスト、西山瞳がイタリア音楽を深掘りする連載の第7弾。幅広い分野で活躍するピアニスト「Stefano Bollani ステファノ・ボラーニ」の魅力をプロの視点から探ります。



ジャズ、クラシックの枠を超えて活躍

イタリアの名ピアニスト、ステファノ・ボラーニStefano Bollani。
情熱的なピアニズムを全面に出したピアノトリオのアルバムで日本デビューし、その後、ドイツのECMレーベルではフリーで耽美的な作品群を発表、ブラジル音楽にも精通し、クラシックの分野でも管弦楽団との共演や、作曲家としてピアノ曲を発表するなど、驚異的に幅の広い天才ピアニストです。
おまけに、テレビやラジオ番組の司会や制作も務め、演劇でも大きな舞台に立ち、小説家でもある。信じられないほど多岐にわたる活躍で、Commander of the Order of Merit of the Italian Republic(イタリア共和国功労勲章)も授与されている、規格外のアーティストです。


1972年にミラノで生まれたボラーニは、15歳でプロデビュー。フィレンツェのルイジ・ケルビーニ音楽院を経て、すぐに様々なジャズフェスティバルや大きなステージで演奏するようになります。師匠であるイタリアの世界的ミュージシャン、エンリコ・ラヴァ(トランペット)との共演をはじめ、フィル・ウッズ(サックス)、チック・コリア(ピアノ)、ジョン・アバークロンビー(ギター)など、アメリカの様々なジャズ・ジャイアンツとの共演があり、マーク・ターナー(サックス)などのニューヨーク第一線のコンテンポラリーミュージシャンとの共演も多く、国際的に活躍しています。


日本で大きく紹介されたのが、2002年『Volare』。日本のヴィーナス・レコードから出た作品で、一曲目「In Cerca Di Te」は1944年にナタリーノ・オットーが歌ったイタリアの歌謡曲。情熱的なイントロから入り、メランコリックなメロディを入り口に、最後まで気持ち良くスイングします。



イタリアのジャズミュージシャンがよく演奏するスタンダード「Averti Tra Le Braccia」(ルイジ・テンコ作曲)など、日本の我々の心にもストレートに響く美しいメロディのイタリアン・ポップスが収録されています。「Angela」(ルイジ・テンコ作曲)のアレンジも素晴らしい。


私が個人的に大好きなアルバムは、翌年2003年に発表された『Falando De Amor』。ボサノバの巨匠アントニオ・カルロス・ジョビン作品集で、「おいしい水」、「ワン・ノート・サンバ」などの有名な曲もありつつ、タイトル曲「Falando De Amor(愛の語らい)」など、知る人ぞ知るジョビンの名曲を取り上げています。メランコリックに、しかし慎みをもって叙情に流されすぎないのが、とても素晴らしい。



生命の輝きとエネルギー溢れる演奏

ドイツのECMレーベルは、独自のSilenceと透き通った音色を貫徹するレーベルですが、そのECMから発表された2009年『Stone In The Water』は、透明感溢れる傑作。これまで、日本企画のものでは、偉大な作曲家の佳曲を演奏している作品ばかり聞いていたので、ボラーニの静謐で美しいサスティンの効いた音色、多くを語らずたっぷりと呼吸をとった演奏は、これまでと違う官能があります。


エンリコ・ラヴァとの共演作、2008年『New York Days』は、マーク・ターナー(テナーサックス)、ラリー・グレナディア(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)という、ジャズファン垂涎の布陣。緊張感の高いアンサンブルが繰り広げられます。



クラシック方面では、リッカルド・シャイー&ゲヴァントハウス管弦楽団との共演盤が2枚出ており、ガーシュインのラプソディ・イン・ブルーを取り上げた作品、それから、ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調を中心に、ストラヴィンスキーなども収録した作品があります。
この2枚は、大名盤と言っていいでしょう。
ボラーニのピアニズムが全開。素晴らしい演奏です。


ボラーニのピアノは、まるで命が芽吹くような生命の輝きと新鮮さに溢れ、未知の世界に足を踏み入れる愉悦に溢れ、誰の耳にも明らかな素晴らしいエネルギーなのです。新風を吹き込むとは、こういうことを言うのだなと思いました。
ラプソディ・イン・ブルーは菅楽団も大袈裟にならず軽妙で、ボラーニと一緒に笑い合っているようです。


多幸感に満ちたピアノデュオのライブ盤

最近の作品としては、フィンランドの名ピアニスト、イーロ・ランタラとのピアノデュオのライブ盤が素晴らしいです。
イーロ・ランタラは、とても人気のあった”トリオ・トゥアケット”というピアノトリオのピアニスト。現在はバンドは終了しておりソロ活動していますが、ユーモアに溢れ、クラシカルな演奏も得意なランタラとボラーニとの相性は、抜群。
音楽の喜びに溢れており、どの曲も美しく、演奏は多幸感に溢れ、聴きながら自然と笑みがこぼれてしまいます。


ジャズは自由とユーモアが大切ですが、ジャズにおいての自由はただのフリーダムではなく、他者への共感と思いやり、ジャズを創った先人への敬意の上に成り立ち、ユーモアは知的な積み重ねが十分すぎるほどあり、それを取捨選択するセンスと運動能力の高さで成り立ちます。


二人の演奏は、積み重ねと思いやりの上で二人で楽しく踊っているようで、多幸感を会場いっぱいにし、そして音源を聴く私たちにまで届け、ジャズにおける自由とユーモアを強く実感させてくれる、本当に良いアルバムだと思います。
本人たちと観客の両方の笑い声が沢山入っているのも、とても楽しい作品ですよ。



Songs / Hitomi Nishiyama 3,520

西山瞳初期のオリジナル曲を、ピアノソロで収録した「Songs ソングス」。秘めやかに紡がれる、珠玉のピアノ・コレクションが10月1日に発売されます。ライヴでは先行発売しているので、一日でも早く聴きたい方はライヴへ。

西山瞳 公式サイト https://hitominishiyama.net/


◼️おすすめ関連記事
ジャズ・ピアニスト 西山瞳がイタリア音楽を深掘り!⑥スタンダード・ジャズの巨匠ダド・モロニ


ジャズ・ピアニスト 西山瞳がイタリア音楽を深掘り!④ついに登場!ロックスター マネスキン


ジャズ・ピアニスト 西山瞳がイタリア音楽を深掘り!③ジブリソングも話題のミラバッシが熱い!


ジャズ・ピアニスト 西山瞳がイタリア音楽を深掘り②日本でも人気のアレッサンドロ・ガラティに迫る!