芸術と観光の大国イタリアは、フィレンツェ、ローマ、ミラノ、ナポリの大都市を巡れば、世界的に有名なアートを一挙に観ることができます。それはすばらしいことだけど、たった1枚の絵、1つの聖堂を観るためだけに知られざる街を訪れることも、かけがえのない旅の醍醐味。さぁ、ガイドブックには載っていないイタリアの小都市へ出かけましょう!
ルイーニのフレスコ画が彩る「奇跡の聖母マリア聖堂」
ベルナルディーニ・ルイーニという名前を知っている方は、かなりのアート通。ルネサンス期に活躍し、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受けた画家として知られ、数多くのフレスコ画を残しています。そのルイーニが1520〜1532年にかけて手がけた傑作が、ミラノ近郊の「Saronno サロンノ」という街にあります。

ミラノから電車で30分ほどの距離にあるサロンノ駅は、3つの鉄道路線が分岐する乗り換え駅でもあり、ミラノのベッドタウンとなっている郊外の街。そこで暮らしている人が多い普通の街で、観光客はほぼいないと言ってもいい印象です。

その中で唯一、アートファンを惹きつけてやまないのが「Santuario della Beata Vergine dei Miracoli」。日本語にすると「奇跡の聖母マリア聖堂」という美しい教会で、駅から聖堂までは、その名もベルナルディーニ・ルイーニ通りを歩いて行くと到着します。外観は1498年に完成したルネサンス時代の優美な建築で、ジョバンニ・アンソニー・アマデオが設計したもの。ファサードの屋上を彩る奏楽天使が洗練されたアクセントとなっています。


扉の中に足を踏み入れると、三廊式ラテン十字型の空間が広がっています。ルイーニはこの内部のフレスコ画の多くを手がけていますが、とくに美しいのが後陣のフレスコ画。「神殿での神学問答」「聖母の結婚」「神殿奉献」「マギの礼拝」と、色彩も鮮やかな傑作に目が奪われます。

聖母のモデルが画家に贈った杏のリキュール
実は、この「奇跡の聖母マリア聖堂」のフレスコ画には、興味深い逸話が残されています。1525年頃、奇跡の聖母マリア聖堂のフレスコ画を依頼されたベルナルディーノ・ルイーニは、旅籠の若く美しい女主人をモデルに聖母マリアを描きました。長い年月をかけて制作する間、お互いに惹かれ合い、彼女の肖像画も描いて贈ったと伝わっています。肖像画を贈られた女主人も、自らの想いを託したリキュールを作り、画家に贈ったそうです。もちろん、その後もふたりは結ばれることなく、ルイーニは次の制作のために旅立ちました。

時代を経て1807年、そのリキュールのレシピの権利を買い取ったのが、サロンノの街の食料品店の主人、カルロ・ドミニコ・レイナ。杏仁豆腐にも使われる杏の種を使用したリキュールは大評判を呼び、「DISARONNN ディサローノ」と名付けられ、アマレット・リキュールの代名詞となりました。
200年以上も世界中で愛され続けるアマレットの元祖「ディサローノ」は、ほのかにアーモンドとアプリコットが香る、甘くほろ苦い琥珀色のリキュール。「サロンノと言えばアマレット・ディサローノを生んだ街」と呼ばれるほど、街を象徴する代名詞となっています。

画家と旅籠の女主人の秘められた想い
ロマンティックでせつない逸話ですが、「聖母の結婚」に描かれている聖母マリアは、その旅籠の女主人を映しとったものなのでしょう。ルイーニはダ・ヴィンチの影響を受けたと言われていますが、どちらかというとラファエロを思わせる、やさしく女性らしい面差しの聖母マリア。ルイーニの想いが込められた唯一無二のフレスコ画は、500年の時を超えて、現代の私たちに語りかけてきます。

この1枚を観るために足を運ぶのにふさわしい、郊外の街にある美しいフレスコ画。北イタリアの旅で、ぜひ訪れたいサロンノの街のヒストリーをお届けしました。
奇跡の聖母マリア聖堂
Santuario Beata Vergine dei Miracoli
Facebook https://www.facebook.com/santuariosaronno
Instagram https://www.chieseapertesaronno.it/
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