LIFESTYLE 11 Jun 2021

イタリア男子御用達のシェービング・アイテム


かみそりとその箱

120年続くナイフショップで

日本では、まもなくやってくる父の日。ギフト選びに頭を悩ませている人は少なくないでしょう。今回はそうした機会にちょっと参考になる、イタリア男子御用達のシェービング・アイテムを紹介します。

私が訪ねたのは世界遺産の町、トスカーナ州シエナにある刃物専門店『コルテッレリア・アロッティーノ・ディ・シエナ COLTELLERIA ARROTINO DI SIENA』です。

まずはオーナーのドメニコ・ルチアーノさんに、店の歴史を聞いてみました。
旧市街の一角にある店舗は、少なくとも1898年にまでその歴史を遡れます。ところが数年前、後継者不足を理由に、以前の持ち主は廃業を決意します。

その知らせを聞いたドメニコさん。「120年以上も続いてきた歴史ある店が閉じるのは忍びない」と、研ぎ師として働く傍らで店を引き継ぐことにしたといいます。

かみそりの店舗
刃物店『コルテッレリア・アロッティーノ・ディ・シエナ COLTELLERIA ARROTINO DI SIENA』。店の脇を通るメインストリートは、中世の時代の巡礼路です。

カミソリ派の貴方へ

自らも髭をたくわえたドメニコさんに、さっそくおすすめ商品をセレクトしてもらいました。

まずはフィレンツェ郊外スカルペリーアの町で作られたL字型髭剃りです。
歴史を遡ること15世紀、フィレンツェとボローニャを繋ぐ旧街道が通るスカルペリーアは、人々の往来にともない、宿場町として栄えました。
旅人たちは、地元住民が自作して農作業や食卓で用いていた刃物の質と携行性に着目。彼らが買い求めて各地を旅してくれたことで、ナイフの評判は各地に広まりました。20世紀初頭、町には46もの刃物工房が軒を連ねたといいます。
匠の技を継承したスカルペリーア産の刃物、とくにカスタムナイフは、今日でも世界のコレクターにとって垂涎のアイテムとなっています。

「バーチャミ スービト」は、その刃物の町で作られた髭剃りナイフの1ブランドです。Baciamisubitoとは“すぐにキスして”の意味。「ツルツルに剃れるからですよ」とドメニコさんは笑います。

フォンタニよりのかみそり
スカルペリアの刃物工房フォンターニが手がけた髭剃りナイフ「バーチャミ スービトBaciamisuibto」。

次に見せてくれたのは、同じL字型髭剃りでドメニコさんのショップ・オリジナル「ペルフォルマンテ」でした。刃物のプロとして、自らのこだわりを投影したプロダクトです。

performanteは“実力を示す能力がある”という形容詞。緩やかでありながら躍動的なカーブもみせるハンドルは、同様にペルフォルマンテの名を冠した高級スポーツカー・ランボルギーニのサイドを貫くシャープなキャラクターラインを彷彿とさせます。

かみさりを見せるドメニコ・ルチャーノさん
店のオリジナル髭剃り「ペルフォルマンテ」とドメニコ・ルチアーノさん。「剃り心地の良さはもちろん、L字型は剃る部分が見えやすく、好みの髭スタイルに整えやすいメリットがあります」

かみそりとその箱
ペルフォルマンテのハンドルは、環境に配慮したリサイクル可能素材。7色のバリエーションがあります。

ファティップのかみそり
こちらは1950年にミラノで誕生した「ファティップFatip」の髭剃りフォルダー。クロームやゴールドメッキを施した重厚感のあるデザインが特徴です。

思わず抱きつきたくなる

そのような話を聞いていると、ひとりの若者が店の扉を開けてやってきました。「何かおすすめのシェービング・ソープはありますか?」。そう相談する彼にドメニコさんがすかさず差し出したのは、1899年にミラノで創業した「チェッラCella」のプロダクトです。

19世紀末のミラノは、おしゃれなカフェや劇場が次々誕生し、粋な男たちが闊歩する活気に溢れた町でした。理髪店は髪を整える場所のみならず、紳士たちが政治やスポーツ談義に花を咲かせるサロン的役割も果たしていました。傍らでは、石鹸や香水なども取り揃えていたといいます。

チェッラのシンボルである赤いパッケージには、髭を剃るおじさんの姿が描かれています。1950-60年代のテレビCMで放映されたこのキャラクターは、ユーモラスな表情で一躍お茶の間の人気者になったそうです。

ドメニコさんはクリームの蓋を開けて、お客さんと私の鼻先に近づけました。配合されたアーモンドオイルによる、優しく甘い香りでした。
毎朝父親がこんな香気を漂わせていたら、小さな子どもは思わず抱きつきたくなるに違いありません。いいえ、女性のうぶ毛剃りにも良さそう!思わず顔に塗りたくなる衝動に駆られた私でした。
その若者も購入を即決したのは、いうまでもありません。

チェッラのアフターシェーブ・ローションとクリーム
“髭剃りをするおじさん”がシンボルのシェービングケア用品「チェッラCella」。丸い容器がアーモンドオイル配合の髭剃りクリーム。柔らかなテクスチャーで、スムーズな剃り心地を味わえるそう。

チェッラのシェービングクリーム
シェービング・ブラシを使わずに塗れるクイックタイプ。透明なので刃の当たる部分が見やすく、剃り残しも防げます。こちらもアーモンドオイルの甘い香り。

長靴半島に美容男子急増中

電気シェーバーが主流となった今日でも、ドメニコさんの店が扱う、昔ながらの髭剃りに愛着を抱くのは、どのような顧客なのでしょうか?

「先程のお客さんのように、最近は若い世代ほど、髭剃りにゆっくり時間を費やしたり、スキンケアに関心を抱く人が多くなりました。」とドメニコさんは証言します。

背景にはいくつかの理由が考えられそうです。
第一は「スキンケアは女性だけにあらず」という思考がイタリアの若者にも浸透し、その基本となる髭剃りを重視するようになったこと。第二は、髭のスタイルにもトレンドがあることから、流行に敏感な世代ほど、手入れを惜しまなくなったためです。

コロナ禍による変化もありました。
ミラノの老舗理髪店で身だしなみ用品も手掛ける「バルベリーノス」によれば、ロックダウン中における男性用スキンケア製品のネット販売は78%も増加しています。なかでも、髭用シャンプーは114%、コンディショナーは93%の増加を示したとのこと。
彼らによると、髭スタイルにおけるキーワードは、ずばり「ハイジーン(衛生)」。長くてふさふさではなく、マスク着用中でも鼻・口を適切に覆うことができる、クラシックでシンプルなスタイルが主流になると予想しています。

髭との良き関係を続け、かつ毎朝の所作をより上質なものとするために、イタリアのシェービング用品は最高のきっかけとなりそうです。

様々なアフターシェビング・ローション
アフターシェビング・ローションも豊富。左からパリ生まれの「クラブマン・ピノー」、トリノのブランド「エクストロ」、アメリカ生まれの「ラッキー・タイガー」。右端はローション専用のディスペンサーです。

シェービングブラッシュ
フィレンツェ発のブランド「モンディアル」のシェービング・ブラシ。最も良質とされるアナグマの毛は、肌を柔らかくして刃の滑りを良くするため、赤みや炎症を防げます。

オーナーのドメニコさん(左)とスタッフのクラウディオさん
オーナーのドメニコさん(左)とスタッフのクラウディオさん。「男のロマンをくすぐるアイテムを揃えてお待ちしています」

インフォメーション/https://arrotinodisiena.it

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WRITER PROFILE
大矢 麻里 Mari Oya

イタリアコラムニスト。東京生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、大手総合商社勤務を経て1996年からトスカーナ州シエナ在住。現地料理学校での通訳・アシスタント経験をもとに執筆活動を開始。NHKテキスト『まいにちイタリア語』『朝日新聞デジタル』などに連載多数。NHK『マイあさラジオ』をはじめラジオでも活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)、『意大利工坊』(馬云雷訳 華中科技大学出版社)、『ガイドブックでは分からない 現地発!イタリア「街グルメ」美味しい話』(世界文化社)がある。