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キリストのパパは「揚げ物店主」? ローマっ子に愛される父の日のお菓子

イタリアではまもなく父の日がやってきます。日本で「父の日」は6月の第3日曜日ですが、イタリアでは毎年3月19日です。カトリック教会の聖人暦で、イエス・キリストの養父「聖ジュゼッペ(聖ヨセフ)の日」であることに由来します。


今回はイタリアならではの「父の日のお菓子」についてレポートします。


聖母に比べて地味ですが

まずは聖ジュゼッペ信仰について振り返ります。その始まりは中世でした。キリスト教の布教にともない、聖ジュゼッペは多くの町で守護聖人として祀られ、命日に祭りが催されるようになりました。


そして1479年、ローマ教皇シクストゥス4世が、聖ジュゼッペの日をローマ暦に組み込みました。聖ジュゼッペが揺るぎない信仰心をもって、息子イエスに愛情を注いだ姿を模範的父親像と捉えたのです。同時に、質素を善しとする労働者であり、かつ貧しい人々に寄り添ったことも讃えられました。


さらに1871年には「カトリック教会の普遍的な守護聖人」、1956年には「労働者・大工・孤児の守護聖人」とされます。ちなみにイタリアでは1968年から1977年まで、3月19日は国民の祝日でした。


聖書や宗教画でイエスとともに登場する頻度がマリアより少ないジュゼッペですが、イタリアのカトリック信者にとっては親しみやすい聖人なのです。


ローマの「パンテオン神殿」にて。16世紀の彫刻家ヴィンチェンツォ・デ・ロッシによる「聖地の聖ジュゼッペと幼子イエス像」

同じくローマにある「アラコエリのサンタ・マリア聖堂」に置かれた幼少のキリスト像。オリーブの木を彫って作られたもので、病気平癒が叶うと信じられています。その左傍にも、聖ジュゼッペの姿が

イタリアの父の日が3月なのはなぜ?
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イタリアの父の日が3月なのはなぜ?

ワダ シノブ / 2022.03.16


聖人の意外な職業

イタリアで父の日といえば、ずばり「揚げ菓子」です。「ゼッポレ zeppole」、「フィリッテッレ frittelle」、「トルテッリ tortellri」などと呼ばれるもので、地域ごとに製法や具が異なりますが、共通するのはフライであることです。なぜこの日に揚げ菓子なのでしょうか。


ひとつは古代ローマの風習が由来という説です。3月が1年の始まりである彼らの暦で、春分前日の3月19日は豊穣と大地の再生を祝いました。その際、小麦粉と水を混ぜて蜂蜜を加えた揚げ菓子を食べていたため、というものです。


もうひとつは、聖書物語から発展した俗説です。救世主イエスの誕生を恐れたユダヤのヘロデ大王は幼児の大虐殺を企てます。そこで父ジュゼッペはマリアとイエスを連れてエジプトへ逃れます。その際、母国では大工であったジュゼッペが異国で家族を養うため、なんと揚げ物屋台で生計を立てていたという説です。これらのふたつが結びついて、父の日イコール揚げ物となったと考えられています。


ローマの遺跡群フォロ・ロマーノの隣に建つ「聖ジュゼッペ・デル・ファレニャーメ教会」。父の日には、彼を守護聖人と祀る大工さんたちによって、揚げたお菓子が振る舞われてきました

イタリアで父の日に必ず食べるお菓子のお話
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イタリアで父の日に必ず食べるお菓子のお話

奥田 マリア / 2019.06.10


ローマっ子に愛されるシュークリーム

ローマでは聖ジュゼッペのことを、親しみを込めて「フリッテッラーロ(揚げもの職人)」と呼びます。古代遺跡に囲まれながら毎日暮らす人々の、独特の歴史感ならではといえましょう。


父の日にどのような揚げ菓子が売られているのか、地元の老舗「パスティッチェリア・レーゴリPasticceria Regoli」を訪ねました。


創業3代目のカルロ・レーゴリさんが「ローマの父の日ドルチェといえば、これ」と言いながら最初に紹介してくれたのは、「ビニェ・ディ・サンジュゼッペ bignè di San Giuseppe」。握りこぶしより、ひとまわり大きい揚げシュークリームで、中身にはカスタードクリームがたっぷり詰まっています。

パスティッチェリア・レーゴリのオーナー、ラウラ&カルロ夫妻。「ビニェ・ディ・サンジュゼッペ」はローマの父の日に欠かせません

定番はカスタードクリーム入りですが、店によってはリコッタチーズやチョコレートクリームを詰めたものもあります

やがて店内にカルロさんの妻ラウラさんの大きな声が響きました。「カルロ、もうショーケースのゼッポレが品切れよ!」。それを聞いた彼が厨房から運んできたのは、「ゼッポレ・ディ・サン・ジュゼッペ Zeppole di San Giuseppe」。発祥の地は南部ナポリとされていますが、今日では他の地方でも親しまれています。こちらは揚げたシュー生地の上にカスタードクリームを絞り出して、アマレーナ(チェリーのシロップ漬け)を載せたものです。


感激するのは、どちらも揚げたシュー生地+カスタードでありながら、味わいがまったく異なること。前者は素朴な見た目ながら、クリームの濃厚さが直接伝わってきます。いっぽう後者は、「生地の上にのせたクリームが、アマレーナの甘酸っぱさと溶け合うよう、柔らかめに調整しています」とカルロさんが説明するように、優しく溶けるような口当たりが魅力です。


いずれの揚げ菓子もカルロさんの店では、毎年1月17日から3月19日まで店頭に並べています。


見た目にも愛らしい「ゼッポレ・ディ・サン・ジュゼッペ」。揚げたシュー生地は想像するより軽い口当たり。お菓子にもカルロさんの几帳面さと誠実さが感じられます
パスティッチェリア・レーゴリは、カフェも併設しています。その場で出来たてを味わってみて!

お菓子さえあれば

パスティッチェリア・レーゴリは、1916年にカルロさんの祖父母が始めた店に遡ります。時は第一次世界大戦の只中。彼らが作るお菓子は、耐乏生活を強いられていたローマ市民に安らぎをもたらしたに違いありません。


ラウラさんいわく「いつの時代もお菓子は幸せの象徴です」。そして、こう結んでくれました。「父の日も立派なプレゼントを贈る必要はありません。家族がひとつテーブルに集って伝統菓子を味わいながら、父親に感謝する。これこそローマ流・聖ジュゼッペの日の過ごし方なのです」


ローマ屈指の人気菓子店ゆえ、父の日には100メートルほど離れた広場まで列が達してしまうとか。「私も父親ですが、3月19日は1年で最も働く日なのですよ」とカルロさんは笑いました。


左の入り口がテイクアウト専用、右がカフェ。人気商品は午前中に売り切れてしまいます

年間を通じて人気があるローマの名物菓子「マリトッツォ」。本場風はこのように巨大ですが、ペロリと平らげてしまう美味しさです


INFORMATION:
パスティッチェリア・レーゴリ  Pasticceria Regoli
http://www.pasticceriaregoli.com


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大矢 麻里 / 2021.02.23