FOOD

FOOD

「自家製サルーミの喜び」林由紀子の土着的イタリア田舎暮らし日記第六話

皆さんこんにちは!
今日は、イタリア田舎暮らしのイベントの中でも、長い歴史のある大切な行事である豚の解体作業についてご紹介します。

イタリアで中世から続く大切な風習

“豚の解体”…と聞くと、グロテスクな響きがあるように感じられるかもしれませんが、この風習は中世から続く大切な保存食作りの1つ。日本で人気を博す生ハムも、今でこそ製造工場が大量にももの部分だけを農家から購入し、生ハムを仕込んでいるわけですが、もともとは家庭内で1頭の豚を解体、加工し、生ハムやサルーミ(熟成肉の総称)を仕込み、1年間のタンパク源として少しずつ大切に食べていたのがこの食習慣の始まりです。
動物タンパク、いわゆる肉は高級品でしたので、そうそう食卓に登っていたわけではありません。
生ハムやサルーミは、そんな暮らしの中で食生活を支えていた大切な食材だったのですね。

豚を解体するイタリア人男性の写真 昔から伝承されてきた農家での解体は、麦狩りに次いで大切な行事ともいえます

私はイタリアに住み20年になりますが、冬になると友人達と一緒に、半身の解体から始める自家製のハム、サルーミ作りに参加しています。
安全で美味しいものを家族と食べたいという思いから参加しましたが、命をいただいてこうして食べ物にあやかっているんだ、という敬意の念を再確認するための、大切な儀式のようにも感じています。
スーパーでカットされ包装されたお肉を調理する時とは違い、分かち合いの喜びや謙虚な気持ちをこの時ほど強く感じることはありません。私にとって田舎暮らしに欠かせない習慣となりました。

では、実際にどのように豚の解体を行われているのかご紹介します。

自然に応じた豚の解体日の決め方

天気が良いイタリアの山の写真程よい太陽、寒さ、湿度が揃うと解体日和!

豚の解体日は、12月末から2月の上旬くらいにかけて、月の満ち欠けや気温、湿度などを見計らって決められます。
昔からの言い伝えで、月が満ちてゆく時期または満月の日は、肉に水分が溜まる期間なので、この時期を避けて解体するのが好ましいと言われています。え?!そんな事まで?と思われそうですが、大量生産され、保存料によって質が安定している商業用のものと違い、塩と胡椒のみを保存料とし作られる農家の自家製サルーミは、小さな差も出来上がりに大きな違いを生むと言います。
水分が多いと肉の酸化が早まることもあり、長く美味しく食べるための工夫は不可欠だったようです。

塩コショウで味付けされた中部イタリアの伝統に従い、塩と胡椒だけのシンプルな調味、肉本来の味が勝負

美味しいサルーミを作るには、適度な寒さと適度な湿度が重要で、天気予報を見て「この日だ!」と思ったらすぐに屠殺(とさつ)場に連絡し、屠殺(とさつ)と血抜きをお願いします。
内臓検査で病気などの異常が確認されず、保健所から健康な豚であると太鼓判を貰ったら、半身の状態で家に到着します。気温の低い小屋または冷蔵庫で1日しっかり冷やし、脂肪を固くした状態でやっと解体を始められます。

助け合いと団結力を生む解体作業

家族で豚の解体作業を行う様子家族でそれぞれのミッションを手際よく進めていく姿は頼もしい

豚はいわゆる農家の家庭内で解体出来るMAXの大きさの家畜だったわけですが、それでも2、3人の家族の場合だと人手が足りないので、近所の人や親戚が解体作業を手伝ったものです。
長年の経験がある人かノルチーノと呼ばれるプロの解体人を中心に作業が進められます。手際よくパーツに分けたあと、生ハムや塊で仕込むパンチェッタカポコッロなどのサルーミは一定期間塩漬けされ、のちに熟成、サラミやサルシッチャ用の肉は塩胡椒したあとミンサーで挽いて腸詰めにされます。

腸詰めされた豚肉綺麗に詰められた腸は、熟成を待つのみ

背脂はラルドと呼ばれる塩漬けにしたり、一度挽いてから火にかけて精製ラードにしたりと、やることは本当に山ほど!

背脂を一度挽いたものを火にかけ精製ラードを作っている鍋背脂を一度挽いたものを火にかけ精製ラードを作る

忙しく作業するみんなにご飯を用意してくれるのはやっぱりマンマ。切り出したばかりのお肉をささっと炭火焼きにしたり、痛みやすい内臓を先に食べるために煮込み料理にしたりします。

肉を炭火で焼いて休憩の腹ごなしを用意する女性切り出されたばかりの肉をさっと炭火で焼いて休憩の腹ごなしにするのは最高に美味

私の大好物は、新鮮なレバーをローリエの葉と豚の網脂で包み、炭焼きにした”フェガテッリ”というメニュー。
ローリエの香りとレバーの甘さが絶妙な美味しさです。
こうして日が暮れるまで、それぞれが与えられた仕事を進めるのですが、一緒に作業する時間を分かち合うのが、解体の醍醐味。こうして昔から助け合ってこの作業をやってきたと思うと、さらに絆も深まります。

ローリエと網脂でレバーを包む様子ローリエと網脂でレバーを包む作業

いよいよ熟成後のサルーミが我が家に届く日

熟成を必要とするサルーミは、一番大きいものが生ハムです。カポコッロやロンザまたはコッパと呼ばれる中くらいのものや、一番熟成の早い、サラミや乾燥サルシッチャなどがありますが、早くて1ヶ月半後くらいから食べ始めることが出来ます。
我が家の場合、熟成庫を持っている友人が熟成期間管理をしてくれ、ちょうどいい時期になると「~がいい感じだよ!」と連絡をくれます。
明日は出来上がったサラミが届く!という日はいそいそとパンを焼き、翌日届いたサラミと頬張るのが何よりもの幸せ。
その喜びはなかなか言葉にはできません。

完成した手作りサルーミまずは切って味見、自分が作ったものは美味しさもひとしお

こんな風にして、我が家にすっかり定着した自家製サルーミ。
自然の中でドングリをいっぱい食べて育った豚さんに「ありがとう」と感謝する瞬間を、これからも家族や子供とも分かち合いたいと今年もしみじみと思ったのでした。

イタリア田舎暮らし情報が満載の林由紀子さんの記事はこちら

イタリアの情報が満載のメールマガジン登録はこちらをクリック