2月末にエミリア=ロマーニャ州Palazzo di Varignana(パラッツォ・ディ・ヴァリニャーナ)で開催された、A.I.R.O.(Associazione Internazionale Ristoranti dell’Olio(国際オイルレストラン協会))主催のオリーブオイルづくしのイベント「Taste the Difference」。
前編では、オリーブオイル業界の中でも、他に類を見ないオリーブオイルのテイスターコンテストの様子をお届けしましたが、今回の後編では、コンテストを含むイベント「Taste the Difference」を企画された、A.I.R.O.代表のフィリッポさんへの独占インタビューをお届けします。
A.I.R.O.代表フィリッポ・ファルジャーニ氏インタビュー
―――なぜオリーブオイルの世界に入ったのかお聞かせください。
大学卒業前に、アルゼンチンに住んでいたのですが、外国に住んでいても、特に何かの料理が恋しいってことありませんでした。アルゼンチンの肉は最高だし、ワインもおいしい。パスタはまあまあだけど、自分で調理すれば満足のいくものが食べられました。そんな中、僕が一番辛いと感じたのが、高品質のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルがなかったこと。
イタリアに戻って、姉や従兄弟たちと一緒に家業であるレストラン「La Trattoria del Pesce(ラ・トラットリア・デル・ペッシェ)」を切り盛りし始めた時、オイルのコース、そして、オリーブ業界のカリスマMarco Mugelli(マルコ・ムジェッリ)氏に出会ったのです。彼のテイスターコースを受講して、オリーブに対する情熱がどんどん高まり、オリーブオイルの道へと歩み始めました。
すでに友人となっていたマルコ氏が亡くなった時、僕は喪失感を感じ、彼の死を厳かに弔うコンテストを開催しました。そして、彼の子どもで、現在もA.I.R.O.の柱となってくれているMarta(マルタ)とMatteo(マッテオ)と一緒に協会を作ることにしたのです。
―――オリーブオイルのどこに魅力を感じますか?
純粋さ、味、栄養分の高さ、そして、オリーブが象徴する「平和」ですね。エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルは、全ての人のためのものであり、全ての人のものなのです。
―――どうしてテイスターのコンクールを主催しようと思ったのですか?
ここ数十年、オイル業界は激変しています。商品の価値を高めていくことよりも、製品分類にこだわる公式鑑定の制約に悩まされているのです。オイルテイスターたちは、消費者やレストラン関係者に比べれば、孤立した小さな世界に住んでいると言えるでしょう。オイル業界のニーズや時代に適応しようとせず、頑なに従来のやり方にこだわり続ける人々によって築き上げられた、制度的な壁に行手を阻まれているシステムを刷新する必要があると思っています。
オイルは、俗語、つまりダンテ*1の言葉、大衆の言葉で語られなければなりません。自己利益のためか、自己顕示欲のためかわかりませんが、オイルが皆んなのものであるということを阻止するような人々ではなく、発展を象徴するロールモデルたちが必要なのです。
*1: Dante Alighieri(ダンテ・アリギエーリの)こと。人々が理解できるイタリア語で「神曲」を書き、イタリア語の父と言われる。
―――コンクールを通して、参加者にどのような経験をしてもらいたいですか?
コンテストは、何よりも「楽しんでもらうこと」を大切にしたいと思っています。結果が全てという厳粛なスタイルから抜け出して、みんなで楽しみたいのです。また、議論を深める重要な機会でもありますし、「品種(cultivar)」を当てるといった、これまでに扱ったことのないテーマの基礎を培っていく訓練の機会でもあります。
―――コンクールを主催する上で難しかったことは?
大変だったことは沢山あります。テストの運営にはとても苦労しました。テイスターごとにテスト内容を変えているので、準備と採点だけでも骨の折れる作業でした。また、テイスターの数がとても少なく、このようなコンテストに参加する動機付けが乏しい業界で、40人の参加者を見つけるのは簡単ではありませんでした。実施することができて、本当に心の底から満足しています。
―――コンテストは今後も継続される予定でしょうか?
もちろんです! 僕たちは、テイスターという存在が重要だと思っていますし、テイスターに光が当たるまで土台を底上げしていきたいと思っています。
来年に向けて、とても重要なお知らせが1つあります。専門家委員会の設立です。オリーブオイルテイスティングの権威であるBarbara Alfei(バルバラ・アルフェイ)、Marino Giorgetti(マリーノ・ジョルジェッティ)、Alfredo Marasciulo(アルフレド・マラシューロ)、Franco Pasquini(フランコ・パスクィーニ)、Alessandro Parenti(アレッサンドロ・パレンティ)という、そうそうたるメンバーにより構成される予定です。すでに今回の大会から、彼らとともに多くの議論を重ね、あらゆる方向からコンテストをより良いものにするように検討しています。
―――今後、国内外でどのような活動を行なっていきたいですか?
プロジェクトやアイデアなど、やりたいことは山ほどあるのですが、時間が足りません。また、AIROは、協会会員からの会費と企画・運営している活動への参加費によってのみ成り立っているということもお知りおきいただきたいです。この数年手がけてきたコンテストやイベント、コースの継続はもちろんのこと、もっと海外にも(可能なら日本にも)進出できればいいなと思っています。
―――最後に、あなたにとってオリーブオイルとは?
愛、味、純粋さ、そして何よりも情熱ですね。
情熱を込めて手がける。そうでないと、すべてがありふれたものになってしまいますからね。
最後に
前編と後編にわたるオリーブオイルの世界、いかがでしたでしょうか?
フィリッポさんのお話を伺って、品質を二の次とする利益追求型の大量生産ではなく、我が子のように心を込めて育てられるイタリア産エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルへの愛、そして、テイスターや生産者を大切にしたいという想い、イタリアのオリーブオイル業界を高め、さらに魅力的なものにしていきたいというワクワク感をいっぱい感じました。
この記事を読んでくださった皆様が、ほんの少しでもオリーブオイルの世界に興味を持っていただけたなら幸いです!
イベント主催者
A.I.R.O.(アイロ)