Copy link
bookmarked-checked-image

世界よ、これがイタリアのマンマのDNAだ!

Wakapedia

2026.01.23

イタリア料理は世界で最も愛されている一方で、最も自由にアレンジされてきた料理でもある。カルボナーラに生クリームを入れる国があれば、ピザにパイナップルを乗せる国もある。ティラミスに抹茶、ジェノベーゼにアボカド、さらには「カルボナーラはアメリカ発祥だ」という説まで語られるほどだ。


そんな混乱の渦中にあったイタリア料理が、ついに国際的な評価を得た。2025年12月10日、ユネスコはイタリア料理全体を無形文化遺産に登録した。


しかし、ここからが本題だ!今回の登録はニュースとしての価値だけでは終わらない。世界中で誤解され、別物として扱われてきたイタリア料理の本来の姿を国際的に取り戻すための大きな一歩でもある。


では、イタリア人にとって本当のイタリア料理とは何なのか。なぜ彼らはここまで食に誇りを持ち、強いこだわりを貫くのか。そして、なぜ多くのシェフがこのニュースを「誇り」と同時に「責任」と語るのか。ここからは、イタリア人の食文化の核心に迫りたい。


イタリアは2023年から無形文化遺産登録を目指しており、今回の決定で観光業の伸びに期待が高まっている。メローニ首相は「大きな誇り」と述べ、模倣品対策にも効果があると評価。業界団体は観光客が最大8%増える可能性があると試算しているとロイター通信が伝えている。

イタリア人の食へのこだわりは、生活の中心にある

イタリア人にとって食は、単なる栄養補給ではない。一日のリズムをつくり、家族の会話を生み、人生の記憶を形づくる文化の核だ。そのため、食に対するこだわりは驚くほど細かく、そして揺るぎない。


ピザは一人一枚が基本で、シェアという発想はほとんどない。カプチーノは朝の飲み物であり、ランチ後に頼めば「これだからツーリストは」という顔をされるかも?!ラザニアとサラダを同じ皿に盛るのは味の混乱とみなされ、サラダのドレッシングはオリーブオイルと塩とレモンだけで十分だ。


食器にだって哲学がある。パスタ皿の縁の高さ、スープ皿の深さ、前菜皿の余白。「料理は皿の上で呼吸する」という考え方があり、盛り付けは味と同じくらい重要だ。 こうしたこだわりは頑固さではなく、「料理は素材への敬意であり、家族の記憶であり、文化の継承である」 という価値観の表れである。


ユネスコ登録で沸き立つイタリア料理界と星付きシェフたちのリアルな声

ユネスコ登録の知らせは料理界に大きな衝撃と歓喜をもたらした。イタリアにルーツを持つメンバーも多く、これまで数々のイタリア人シェフをインタビューしてきたワカペディアチームにとっても、これは特別な瞬間だった。シェフたちが守り続けてきた味と哲学が、ついに世界に認められたのだ!


イタリア料理の世界では、家庭の味や地域の伝統が料理人の基礎を形づくると言われる。幼い頃から家族の食卓で育まれた味覚や記憶が、後の創造性や技術の土台となる。だからこそ今回の登録は、「自分たちが受け継いできたものが世界に認められた」という重みをもって受け止められている。


そのため、シェフたちの反応には共通して「誇り」と「責任」が語られた。とはいえ、その表現の仕方は実に多彩だ。


たくさんの星を率いるエンリコ・バルトリーニ(Enrico Bartolini)は、『la Repubblica』で、「今日はスプマンテで祝うけど、明日からはまた頭を下げて仕事だ。到達点は新しい出発点なんだ」と語り、浮かれることなく文化を守る姿勢を示した。


シェフのカルロ・クラッコ
カルロ・クラッコ(CARLO CRACCO) 。ワカペディアのインタビューより
https://www.wakapedia.it/ja/carlo-cracco/

テレビでもおなじみのカルロ・クラッコ(Carlo Cracco)も「称号は誇りだ。でも守るための行動が必要だ。肩書きに酔うのではなく、文化を継承し続けるべきだ」とコメント。認定を宿題と捉える姿勢が印象的だ。


ローマの人気シェフ、クリスティーナ・ボウアーマン(Cristina Bowerman)は「まるでスーパーボウルに勝ったみたい!」と笑い、トスカーナの名店を率いるヴァレリア・ピッチーニ(Valeria Piccini)は「影響は少ないと思う。海外で目立つのは模倣料理ばかり」と冷静だ。ナポリの重鎮ジェンナーロ・エスポジト(Gennaro Esposito )は「当然のこと。やっと来たか、という感じ」と皮肉を交えて歓迎した。


そんな声を聞いていると、今は亡きグアルティエーロ・マルケージ(Gualtiero Marchesi)の笑顔が心に浮かんだ。幼い頃から彼の店に連れて行ってもらっていたワカペディアチームにとって、彼は近所に住む、料理上手で、優しくて、どこかユーモアのあるおじいちゃんのような存在だった。もし彼がこのニュースを耳にしていたら、きっとこんなふうに言っただろう。


「やっと世界が気づいたね。イタリア料理は芸術なんだ。でも認定が金箔のリゾットみたいに飾りにならないように。大事なのは中身だよ」そして最後には、あの笑顔できっとこう付け加えたはずだ。「料理には作り手の心が映るんだよ。自己満足ではなく、誰かを思う気持ちが大事だ。ユネスコが認めたのは、そのマンマのような愛情なんだよ」と。

シェフのグアルティエーロ・マルケージ
グアルティエーロ・マルケージ(Gualtiero Marchesi)。ワカペディアのインタビューより

イタリア料理の歴史と文化

イタリア料理の起源は古代ローマまでさかのぼり、オリーブオイル・ワイン・小麦という三つの食文化がその基礎をつくった。南イタリアには古代ギリシャの影響も強く、オリーブやワインづくりの技術もギリシャ人がもたらしたものだった。


中世からルネサンスにかけてアラブ世界との交流が進み、砂糖やスパイス、柑橘類、米、乾燥パスタなどが広まった。さらに16世紀以降、新大陸からトマトが伝わり、18世紀にナポリで食材として定着すると、イタリア料理の象徴となった。

シチリアのパスタ
シチリアで愛されているピスタチオと魚そして、乾燥パスタのブジアーテを使用した「メバチマグロとピスタチオクリームのブジアーテ」写真はDEAN & DELUCAから

イタリア料理の魅力は、何より地域ごとの個性の豊かさにある。北ではバターやリゾット、南ではオリーブオイルとトマト、中部では羊乳チーズや素朴な農村料理が中心で、同じ国とは思えないほど多様である。これは地形や気候の違いに加え、外から来た文化を地域ごとに独自の形で受け入れてきた歴史があるからだ。


19〜20世紀には多くのイタリア人が世界へ移住し、どこへ行っても故郷の味を再現しようと料理を作り続けた。それがイタリア料理が世界中に広まる大きなきっかけとなった。シンプルで再現しやすく、誰にでも好まれやすい味であることも、世界で愛される理由のひとつだ。

パスタを作るイタリアのマンマ
長靴型のイタリア半島のかかとに位置するプーリア州で生まれた、 「小さな耳」を意味するショートパスタ・オレキエッテ。 おばあちゃんから母へ、母から娘へと受け継がれる手作りの伝統が息づく一品で、その形状はソースをしっかり抱き込み、Cime di Rapa と合わせるのが定番。

世界のイタリア料理・なんちゃって編

世界中で愛されるイタリア料理は、各国で独自の進化を遂げてきた。 日本ではカルボナーラに生クリームが入り、「ミラノ風ドリア」が国民食として定着。アメリカではパイナップルをのせたハワイアンピザが定番となり、イギリスではカチョ・エ・ペペにバターを加えるレシピが家庭料理として紹介されている。フランスの学生は、茹で過ぎたパスタにケチャップとチーズをかけた節約パスタを食し、ドイツではコーンとツナのピザが冷凍食品として広く流通。 韓国では甘辛トッポギ入りのロゼパスタが大流行し、ブラジルではチョコレートとイチゴのデザートピザが人気だ。イタリア人が見たら「もう世も末だ」と膝から崩れ落ちそうなアレンジばかりである。

チョコレートとイチゴをのせたデザートピザ

こうした各国版イタリアンはすべて実在し、イタリア人を驚かせることも少なくない。今回のユネスコ登録には、こうした世界に広がった誤解に対し、イタリア料理の文化的価値を国際的に明確に示すという意味合いも込められている。



EU議会の売店で販売されていたベルギー産カルボナーラソースが物議を醸した。伝統的なカルボナーラはペコリーノ、卵、黒胡椒、グアンチャーレで作るが、この商品にはクリームが使われ、肉もパンチェッタに置き換えられていたため、カルボナーラ発祥と言われるローマ出身のイタリア農業大臣、フランチェスコ・ロロブリジーダ (Francesco Lollobrigida)が「最悪の商品」と反発し、商品は撤去されたとTBSが報道している。

ユネスコ無形文化遺産とは?

ユネスコの無形文化遺産制度は、建物ではなく、食文化や音楽、祭りといった形のない文化を守るために2003年に生まれた仕組みだ。和食やキムチ文化、フランスのパン作りなど、世界中の多様な伝統が登録されている。もしかすると、 いつか「イギリスのブラックジョーク」「イタリア人の大ぶりな身振り手振り」 「フランス人のスノッブ気質」「オランダ人の食への淡白さ」 「ドイツ人の合理主義」なども登録される日が来るかもしれない?!文化とはそれほど多様で奥深いのだ。


イタリア料理が今回登録されたのは、単なるレシピではなく、 素材・土地・家族・歴史・作り手の心が重なり合う生きた文化として評価されたからだ。


イタリア人にとって料理は「食べるための芸術」であり、「生きるための哲学」。 食卓は家族がつながり、自分が何者であるかを確かめる小さな儀式でもある。ユネスコ登録は、彼らが守り続けてきた食べることは生きることという思想が、世界に正式に認められた瞬間だった。