パンの好きな私が、「つくば」にあこがれ、ため息をつく理由。
酒・料理そしてイタリアパンという三つ巴を120%満喫できる店「ダ ダダ」があるからに他ならない。
この堂々たるパンを見よ。
土から掘り出してきたような、あるいはエジプト時代からタイムスリップしてきたような、素朴で味のある肌。
つくばの近く石岡市に薪窯をかまえるパネッツァのパン。ローマ近郊の薪窯パン屋で修業した角谷聡さんの手によるものだ。
ダ ダダは、哲学をもったすばらしいワインの作り手を日本に数多く紹介してきたインポーター「ヴィナイオータ」の直営店舗。マニア垂涎のカーヴからワインが買えて、その場で飲めて、料理まで食べられる、夢の店。
ワインをはじめ、供される素材がどんな自然の中で、どんな作り手によって育まれているか、しっかりと伝えてくれる。
シェフ加藤慎也さんの作る料理もまた然り。素材の力を大切にした、プロシュートやチーズ、パンだから、ワインの最高のパートナーとなる。
トスカーナの白「サンタマリーア」とともに登場したのは、柿バター。
マルサーラ(シェリー酒に似たシチリアの食後酒)の原型といわれる「ヴェッキオサンペーリ」で、つくば産の柿を漬け込んだものをバターにまぜている。柿の甘い香りと熟した酒のまろやかな香りがバターからとろけてたまらない気持ちにさせる。
つくばを代表するパン屋「ベッカライブロートツァイト」のパンとともに。
次に、パネッツァのパンが登場。厚くスライスしたものを強めにトースト。
届いてから1週間たったというが、まるでへこたれず、強靭なままだ。パンの上に滝のようにどっと垂れ落ちているのは、菜の花の溺れ煮。春の香りまで溶け込んだ油をパンに吸わせて食べると止まらない!
野獣のようにがつがつ食べた。
そして肉の盛り合わせがどうだ!とばかり登場。
山椒をきかせた「いのししと鹿のテリーヌ」に、いのししのロースの燻製、馬肉のカルパッチョ、カール・マーコのサラミ、いちばん手前は岐阜ボンダボンのペルシュウ(パルマハム)。
脂のとろけ、吹き出す獣の香り…どれもこれも狂わせてくれるものばかりじゃないか!
それらと、パネッツァのパンは対峙して一歩もひかない。
パンからさまざまな息吹を感じた。炎、小麦の草とそれを育てる土、水、そして酵母や乳酸菌の働き。
人間のコントロールを超えた複雑さがあるから、おおらかに懐深く他の素材を受け入れるのだろう。まさに自然そのもののようなパンだ。
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ダ ダダ
茨城県つくば市西平塚334-1
029-858-0888
13:00~23:00 (22:00L.O.)
飲食は17:00~
月曜・火曜休み(祝日の場合は翌営業日が休み)
初出:この記事は2018年2月11日、公開されました@AGARU ITALIA