アルプスの人々を魅了するフォンティーナチーズを求めてアオスタへ
「L'Azienda Agricola La Croix(ラジエンダ アグリコーラ ラ ラクロワ)へ、アルプスに住む人々を魅了し続ける山のチーズの一角”FONTINA”(フォンティーナ)を求めて~イタリア20州の中で最も小さい州【ヴァッレ・ダオスタ】4つの山の女王と供に造られるその地風味が詰まった滋味深き味わい~」
今回の目的地は、イタリアと日本を繋ぐ玄関口であるミラノマルペンサ空港から北西に約200kmのところに位置するヴァッレ・ダオスタ州。欧州道路E25を通って向かいます。
ヴァッレ・ダオスタ州の州都であるアオスタの街に到着。どこを撮っても壮大な山々が写り込むアオスタ。こちらはアオスタの駅から。
フォンティーナチーズを目指して、どんどん山を登っていきます。上に行くにつれて家と家の間隔も広くなっていきます。
牛と人が共存している感じが伝わって来ます。街中には牛が突如としてよく現れます。牛との生活は日常なんですね。
こちらの黒い牛は、闘牛用の牛とのこと。たくましい筋肉をしておりました。
フォンティーナを造る牛は3種類。
Valdostana Pezzata Rossa(ヴァルドスターナ ペッツァータ ロッサ)
ヴァルドスタナペッツァータロッサは、5世紀の終わり頃にブルゴーニュ人によって導入された北ヨーロッパを起源とするまだらの赤い牛に由来するといわれています。アオスタの風土や気候条件に適応している原生種です。
Valdostana Pezzata Nera
(ヴァルドスターナ ペッツァータ ネーラ)と
Valdostana Pezzata Castana
(ヴァルドスターナ ペッツァータ カスターナ)
もともとはアルプスに生息していた牛。
大きな頭が特徴的。白と黒が混ざっているのがヴァルドスターナ ペッツァータ ネーラで、黒と赤が混ざっているのがヴァルドスターナ ペッツァータ カスターナ。
牛とアオスタの人々の絆を感じる道を進んで行くと、いよいよ今回の目的であるフォンティーナチーズ工房のL'Azienda Agricola La Croixに到着しました。
作業用のバケツ。牧場らしいデザインの可愛らしいバケツです。牛舎の作業の水撒き等に使います。個人的にこういう職人さんの‟道具”に心を奪われます。ずっと長年使われ続けたきた風格に早速心を奪われて来てしまいました。
庭先で、Torretteというアオスタ特有のワインの銘柄を造るうえで欠かせないPetit Rougeという土着品種である葡萄も育てています。ワイン用の葡萄ですが、非常に食べやすく、甘い味わいや香りが特徴的でした。アオスタ渓谷の土着のブドウで、アオスタ渓谷でのみ栽培されています。Torretteの歴史は1800年代初期に遡るほどの歴史があり、それだけ愛されて来た葡萄でもあります。
ここは餌を保存している倉庫。夏の時期は山に自生する新鮮な草を食べ、冬は夏の間に干しておいた干し草を貯蔵しておき食べさせます。厳しい冬を乗り越える為の山の生活の知恵ですね。
チーズ工房の入り口にはカウベルがズラリ。アルプス山脈一帯の酪農の特徴のひとつで、放牧中は、牛の場所を知る為に使われていました。
フォンティーナチーズの作り方とは?
工房内は水が撒かれて、湿度が調整されています。チーズ造りには湿度コントロールがとても大切。最新のシステムを導入して機械で湿度調整をするところもありますが、このようにアナログで、職人さんの感覚による湿度調整をしているところあります。
壁からも水がポタポタしていて、壁からも湿度調整がされています。
床は一面水浸し。常に循環されているため綺麗な水でした。
こちらは出来たばかりの1日目のフォンティーナチーズ。フォンティーナチーズらしい煉瓦色はまだなく、ミルク自体の色が前面に出ています。アオスタの山の牧草が持つエネルギーが詰まった素朴な色彩。
CTFは、生産者を識別コードです。854がL'Azienda Agricola La Croixのコードです。
フォンティーナチーズの上面に刻印されています。Consorzio Tutela Fontinaが正式名称となり、フォンティーナチーズ保護協会となります。
DOC取得1955年10月30日。DOP取得1996年6月21日。
サラモイアと呼ばれる塩水。熟成中のフォンティーナチーズをこの液体で洗います。サラモイアで洗い続けていくうちに、空気中の乳酸菌や、身近な物だと納豆に通ずるリネンス菌と呼ばれる菌達の働きで次第にフォンティーナチーズ特有のレンガ色に近づいていきます。なんと1日に何百個も洗う人もいます!
こちらは順調に熟成が進んだフォンティーナ。3ヶ月の熟成を経ると完成です。しっかりとしたレンガ色に仕上がっています。
こちらはパルミジャーノレッジャーノでもお馴染みのマルテッロと呼ばれるチーズの検査道具。叩いて音を聞いたり、チーズに刺して熟成がうまくいっているかを判断する為に風味をチェックします。実際に熟成中のフォンティーナチーズに刺して風味を体験させていただきましたが、ナッツやキノコのような複雑な香りを放っていました。
フォンティーナチーズの断面。豪快に一刀両断。かなりデカイです。
3ヶ月の熟成を経たばかりのフォンティーナを試食させていただきました。
切りたて、しかも生産者さんを前にして食べるフォンティーナチーズは最高でした。今回試食させてもらったフォンティーナは夏の時期に山の高地に牛を放牧させて、良質な草を食べさせたいわゆるアルペッジョと呼ばれるスタイルの逸品。このアルペッジョで造られたフォンティーナはミルクの風味やコクが非常に強く、大変人気がありすぐに売り切れてしまうそうです。実際に試食させてもらったフォンティーナは滋味深く素晴らしいチーズでした。
イタリアの原産地名称保護制度であるDOPのマークも見ていってねということで見せてもらいました。本物の印。フォンティーナはそのままでも充分美味しいですが、加熱するともっと美味しくなるとの事で、寒さの厳し冬の山にはかかせないそうです。ミルクを保存する為にチーズにして、厳し冬を乗り越える食料にしていたんだそう。
アオスタ名物フォンティーナ料理を味わう
こちらはSeuppa Valpellinentze。フォンティーナ、ちりめんキャベツ、全粒粉のパンをズッパにしたもの。身体が温まる素朴で滋味深い料理。
こちらはPolenta Concia con Fontina。アオスタ名物フォンティーナとポレンタの組み合わせ。アオスタのレストランには必ずあると言っても過言ではないこのエリアのご当地グルメ。
今回、フォンティーナを通してヴァッレ・ダオスタ州の厳しい山での生活を、たくましくも豊かに生きる術を教えていただきました。ミルクが取れない時期の保存食として生まれた大型の山のチーズ。何故大きいのか、何故熟成タイプなのか。チーズは人々の生きてきた歴史を色濃く反映し、その自体に生きてきた人々の歴史を現在へと繋ぐ魅力的な食べ物だと私は思います。イタリア食文化を学ぶうえで、チーズはとても重要な位置にいるといえるでしょう。
1つのチーズに1つの歴史あり。
日本の寒さも益々厳しくなるこの季節、山の文化に倣ってフォンティーナ料理を食べて温まりましょう!
大人気レストラン「ペペロッソ」総料理長・今井和正さんの記事はこちら