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再びロックダウンに入ったイタリア、コロナ禍がもたらした2つの変化

二度目のロックダウンを迎え、レストラン、バール、ほとんどのショップが再び閉店。美術館や劇場、映画館なども全て営業停止、通りを歩いている人もほとんどいなくなってフィレンツェの街は再び静まり返っています。この光景は前回の3〜5月のロックダウンとほぼ同じで、フィレンツェは再び砂漠のようになりました。

今年もクリスマスイルミネーションの飾り付けは健在

午後5時、すっかり日が沈み暗闇が訪れると、街を歩いている人はほとんどいません。そんな状況ではありますが、毎年美しいクリスマスイルミネーションの飾り付けが行われるトルナブオーニ通りには今年も例年通りイルミネーションが飾り付けられ、ロックダウン最中の11月下旬に点灯が行われました。

こうしたイルミネーションに市民たちからは「今年はそんなことをしている場合ではない。お金の使いみちはもっと別にあるはず」という批判の声と「こんな時だからこそせめてイルミネーションぐらい灯して街を明るくするのは悪くない。そもそも税金が使われているわけではない。(※企業支援団体によって賄われている)」という肯定の声が上がっています。

フィレンツェは11月末時点、一番規制が厳しいレッドゾーンのロックダウン中で、緊急性や必要性のある用事以外の外出は禁止、市外への移動も禁止といった状態ですが、近所の住民たちが少しは華やいだ雰囲気を味わおうとトルナブオーニ通りを訪れ、各自イルミネーションを眺めたり写真撮影を行なったりして、束の間の「コロナ前のような日常」を楽しんでいました。そうはいっても、例年は通りが通行人で覆われるほど多くの人が訪れるトルナブオーニ通りですが、ロックダウン中は比較にならないほどまばらな人出ではありました。

コロナがもたらした変化①eコマースが大躍進、前年比24%増加

コロナがもたらした変化は、これまで何度も書いてきた「マスク着用」「手洗い・消毒ジェルの使用」「他人と距離を保つ」ですが、それ以外にもフィレンツェでは様々な変化が起きているのを感じました。

イタリアでもここ数年はブラックフライデー(11月最後の金曜日〜月曜日にかけてのセール)が行われるようになりましたが、今年のブラックフライデー期間は多くの地域でロックダウン規制により多くの路面店において営業ができないため、オンラインでのセールが主流となっています。コロナ禍になってから、オンラインショップに力を入れるようになったショップを多く見かけるようになりました。

実は、イタリアは非常に「現金主義」の人が多い国。例えば、高速道路の料金所で長い行列になるのはきまって現金支払いのブース。クレジットカード決済のみのブースが空いていても、好んで現金支払いを選ぶ人が多いイタリア。そんな背景があるため、コロナ前のイタリアのeコマースは、ヨーロッパで最もeコマースが発達している英国、それに続く2位と3位のドイツとフランスから大きく後れを取っていました。

「adnkronos」というイタリアの通信社によると、ロックダウンが始まった3月からオンライン購入が一気に伸び、その急激な変化に対して各企業は緊急の対応をする必要があったということ。e-コマースは昨年の2019年に比べて24%増加していますが、これは2018年と比較して10%の伸び率だった2019年の増加率と比べると2倍以上の伸び率となっているとのことで、今後もこの傾向は続いていくと見通しを述べています。

例えば、イタリアの最大手のスーパーマーケットチェーン「エッセルンガ」では、オンラインでスーパーの商品を購入し、自宅まで送り届けるサービスを始めましたところ、ロックダウン中にたちまち大ブームとなりました。一週間ほど配達を待たなくてはならないほど人気となり、街中のいたるところでエッセルンガの配達トラックを見かけるようになりました。

コロナがもたらした変化②賃貸マンションが軒並み大幅賃下げ

もうひとつ大きな変化があったのは、フィレンツェにおける賃貸マンション事情です。フィレンツェの中心地では、2015年頃からエアーB&Bなどの民泊ブームが起こり、賃貸マンションの家賃は年々増加の一途をたどっていました。

出典 不動産サイトimobiliare.it、1平方メートル辺りの家賃の平均価格グラフ出典 不動産サイトimobiliare.it、1平方メートル辺りの家賃の平均価格グラフ

家賃が値上げする一途をたどるだけでなく、フィレンツェ中心地のマンションの多くが観光客へ貸し出されるようになり、住民票が取れて長期契約が結べるような市民にとって普通に暮らせるマンションが減少しました。3〜4年前、フィレンツェ支社へ赴任したある日本企業の社員が賃貸マンションを探したところ、ほとんど選択肢がなくて非常に困っていたのを覚えています。

私自身もここ数年、フィレンツェ中心部にて引っ越しを考えていたのですが、ほとんど賃貸マンションの選択肢がなく、窓もなく設備もひどい家の家賃がとんでもなく高かったりするような状況が続いていて途方に暮れていたくらいです。

ところが、コロナウィルス感染の拡大後、ロックダウンを経てフィレンツェには観光客が来なくなる時期が長く続き、いつ観光客が戻ってくるようになるかわからない状態が続いていることにより、この賃貸住宅を巡る事情が大きく変わりました。これまで観光客向けに貸し出されていた民泊用マンションが一気に放出されて、これまででは考えられない数のマンションが不動産サイトに掲載されるようになりました。賃貸マンションバブルのような状態が弾け、賃貸料も急激に下がり始めました。

たとえば、これまでフィレンツェ中心部で650〜800ユーロ(約8万円〜10万円)程度のマンションをひとつの賃貸マンション検索サイトで検索した場合、見つかるのはほんの数件程度で最悪の場合4〜5件程度であったのが、11月末現在に同じ条件でざっと見ただけでも800件はあります。しかも観光客用にオシャレな内装だったり立地が良かったり、エアコンがついているような物件ばかり。これほどの数のマンションがコロナ以前のフィレンツェでは観光客向けに貸し出されるようになっていた現状が明るみになったことで、中心部に住む一般市民が減り、観光客しかいないようなフィレンツェのテーマパーク化が進んでいた状況を実感しました。

現時点でもまだ観光客が戻った場合は民泊として貸し出せるよう、最高1年のみの期間限定契約や住民票不可などの物件は多いですが、それでも市民向けに貸し出されるようになったことには変わりありません。コロナ禍は、結果的にフィレンツェのテーマパーク化に歯止めをかけるに役割を担っていると言えます。

家賃下落の背景にはもうひとつ理由があります。それは実家へ戻る大学生たちが増えているという点。ロックダウン以降、大学生たちはオンラインで授業を受けるようになりました。リモート学習が強いられるようになったコロナ禍、学生たちは大学の近くに住む必要性がなくなり、さらにアルバイト先だった飲食店やショップなどが閉鎖となったためバイトを失って家賃が支払えなくなる学生が増え、賃貸マンションを解約してフィレンツェを去る学生が増えているためです。

コロナによる累計死者数が5万人を超え、英国に次いで欧州で2番目にこの大台を超えたイタリア。世界でも6番目に死者数が多く、被害が深刻な状態が続いています。この先、このような状態が続けばイタリアにおいて、また新たな変化が生じるのかもしれません。

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