米国フロリダ州マイアミ。「デザイン・ディストリクト」は、アートギャラリーやハイエンドなデザイナーズショップ、そしてレストランが集まる近年最も話題のエリアだ。そこで2024年12月、イタリアのラグジュアリー・ブランドのひとつ、FENDIのブティックがリニューアルオープンした。
店舗デザインのコンセプトは、ブランド創業の地でもあるローマ。いにしえの古代都市に敬意を表し、イタリア文化や職人技を投影している。
そこでFENDIが什器として選んだ園芸用コンテナがある。フィレンツェの老舗テラコッタ工房『ポッジ・ウーゴ POGGI UGO』による「イドラ・コレクション」だ。

ヒントは古代ローマの雨どい
ご存知の方も多いと思うが、「テラコッタ(terra cotta)」とはイタリア語の「土(terra)+焼いた(cotta)」に由来する言葉で、素焼き製品を意味する。
イドラ・コレクションは、ポッジ・ウーゴがフィレンツェ出身のデザイナー兼クリエイティブディレクター、サブリナ・スグアンチ・バローニとのコラボレーションで実現した製品シリーズである。

最大の特徴は、植物に最適な湿度を供給する仕組みである。脇に備えられた円筒状のタンクが水分の維持・給水の双方を行う。形状の着想源は、なんと古代ローマのテラコッタ製雨樋(あまどい)というから驚きだ。
そもそもテラコッタが多孔性(目に見えない無数の小さな穴が開いている)であるため、植物に適切な潤いを徐々に行き渡らせることができる。さらに、耐寒性に優れたポッジ・ウーゴ製テラコッタは零下30℃にも耐えうる。深刻化する地球温暖化の影響を受けやすい植物を守るのにも適していると、ポッジ・ウーゴは強調する。

冒頭のマイアミ店舗用は、2024年ミラノ・デザインウィークでポッジ・ウーゴのブースを視察に訪れたFENDI関係者の目にとまったのがきっかけという。FENDIの刻印を加えると共に、メゾンのカラーパレットにしたがった特別な色彩で製作した。



ルネサンス建築を支えた村で
ポッジ・ウーゴの工房はフィレンツェの南約10キロ、インプルネータ村にある。
一帯で採取される良質な土は古代ローマ以前のエトルリア時代から知られ、オリーブオイルやワインを保存する壺づくりに使われていた。
やがてルネサンス期、フィレンツェの繁栄をきっかけに建築需要が高まりをみせる。建築家フィリッポ・ブルネレスキは、自身が手掛けた1436年の「サンタ・マリア・デル・フィオーレ(花の聖母大聖堂)」のクーポラに、400万個のインプルネータ製煉瓦を使用した。

ポッジ・ウーゴは1919年、そうした輝かしい郷土の歴史を背景に設立された。
創業4代目のアントネッラ・アンドレイさんによれば、今日、工房で働く職人は20人。うち半数は若手で、熟練職人から作業を通じて技を習得しているという。
「私たちの仕事には特定の専門学校が存在せず、技の伝承には努力と忍耐が伴います。しかし、伝統を維持し、繁栄し続けるためには不可欠なことです。幸い、我が家では5代目の世代も成長しています」
真裏にある自社採掘場の土を運び込み、丹念に手で捏ねて粘土にしていく。そこには106年前の創業時のような、ゆったりとした時間が流れている。
「いっぽうで現代の生活様式が求めるものに応えなればなりません。素材を尊重しつつ、持続可能性や新しい形やラインを常に模索しています」とアントネッラさんは語る。
彼らによる最新の提案は、テラコッタの自然な色合いを保ちつつ、特殊な酸化物を加えて粘土を暗く仕上げる「グリージョ・ラーヴァ」だ。「アート&デザインの世界とも密接に関わりながら、プロジェクトに応じた新しいものを制作していきます」と、彼女は結んだ。

先人たちから受け継いだ職人技と、過去に甘んじない進取の気性。あのFENDIが惚れ込んだ理由がわかってくる。これからもインプルネータのテラコッタが挑戦を重ねながら、メイドイン・イタリーの優秀性を広めていくことに期待したい。

ポッジ・ウーゴ POGGI UGO