LIFESTYLE

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実は若いクリスマス・マーケット vs 17世紀前の聖女の鈴 

共通する「心」とは?

まもなくやって来るクリスマス。イタリア各地の新潮流と、シエナの伝統的お祭りを紹介しながら、ふたつに共通するコトを探ります。

中世の館にプロジェクション

ヨーロッパの冬といえばクリスマス・マーケット。「イタリアでも古くからの伝統行事だろう」と信じている人は少なくないでしょう。でも実際は異なります。長年それは同じ国内でも、北部アルプス地方を中心とした行事でした。


広く各地で催されるようになったのは、ここ十数年のこと。背景には“町おこし”があります。多くの自治体が、冬の閑散期における観光客増をクリスマス・マーケットに託し始めたのです。各地の開催回数をみれば、それはわかります。2023年は、ジェノヴァが第13回、アレッツォは第8回、そして南部サルデーニャ島のカリアリは、ようやく第7回目です。


評判はおおむね良好で、それは数字にも表れています。18歳から74歳のイタリア人約千人を対象に実施した調査によると、「(一度は)クリスマス・マーケットを訪れたことがある」と答えた人は全体の94%、「リピーターとして何度も訪れている」と回答した人も60%にのぼりました(データ出典: AstraRicerche)。


訪問する理由としては「雰囲気が楽しめる(62%)」、「料理・ワインなどの名産品が味わえる(49%)」、続いて「手工芸品を購入できる(34%)」、「食品や贈答品などを手がける小規模生産者との出会いがある(17%)」などが寄せられています。


モンテプルチャーノのクリスマス・マーケットは『Natale a Montepulciano モンテプルチャーノのクリスマス』と名付けられています。(以下写真は2022年撮影)

中部シエナ県南東部モンテプルチャーノのクリスマス・マーケットも、そうした町おこしとして始まった一例です。2023年には10回目を数えます。


町は、周囲にオリーブやブドウ畑が広がる標高約600メートルの丘の上にあり、人口はわずか1万3千人。普段は中世で時間が止まったような、落ち着いた佇まいです。


ところが11月中旬のクリスマス・マーケット開始とともに、町の様子は一変。巨大ツリーの向こうには約60軒の屋台が並び、期間中約20万人の人々で賑わいます。


中心部にあるグランデ広場には、電球に照らされた屋台が並びます。各地におけるクリスマスマーケットの多くは、毎年11月中旬から、教会暦でクリスマスが終わる1月6日前後まで開かれます

屋台の多くは、ツリーのデコレーションなどですが、ご当地色も加えられています。地元産の極上チーズやサラミをはじめ、イタリア製ワインの最高級格付けDOCG認定の「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノ」を味わえる屋外テラスも設けられます。ローカルなグルメがクリスマス・マーケットに個性を加えているのです。


さすがはワインの里。サンタクロースがほろ酔い加減でお出迎え
さすがはワインの里。サンタクロースがほろ酔い加減でお出迎え
ヤギや羊のチーズ、トリュフやフェンネル風味のサラミなどを売る屋台。生産者の顔が見える安心感も魅力です
ヤギや羊のチーズ、トリュフやフェンネル風味のサラミなどを売る屋台。生産者の顔が見える安心感も魅力です
プレゼピオはキリスト生誕場面を再現したミニアチュア。暖かみ溢れるテラコッタ製です
プレゼピオはキリスト生誕場面を再現したミニアチュア。暖かみ溢れるテラコッタ製です
スパークリングワインも祝いの食卓に欠かせません。年越しにボトルを開けたとき、勢いよく飛んだコルク栓に当たった人には幸運を授かるといわれます
スパークリングワインも祝いの食卓に欠かせません。年越しにボトルを開けたとき、勢いよく飛んだコルク栓に当たった人には幸運を授かるといわれます

夜になると、建物に映像を投影するプロジェクション・マッピングが始まります。スクリーン代わりは13世紀に歴史をさかのぼる市庁舎。CGテクノロジーと歴史的建築物の幻想的なハーモニーに酔いしれます。


INFORMATION: 

Natale a Montepluciano ナターレ・ア・モンテプルチャーノ

2023年の開催は11/18から年明け1/7まで

詳細は以下サイト参照 

https://nataleamontepulciano.it

プロジェクション・マッピングが映し出された市庁舎。13世紀にゴシック様式で建てられたものを、15世紀になってルネサンスの建築家が改修した、という歴史があります。
プロジェクション・マッピングが映し出された市庁舎。13世紀にゴシック様式で建てられたものを、15世紀になってルネサンスの建築家が改修した、という歴史があります。

「眼の守護聖人」のお祭り

いっぽうでイタリア各地では、古くから続く伝統行事もこの時期にみられます。毎年12月13日にシエナの旧市街で催される、『聖ルチアの祭り』も、その一例です。


聖ルチアは紀元3世紀シチリアに生まれました。当時のローマ皇帝はキリスト教への弾圧を強めていました。ルチアの婚約者は、彼女がキリスト教徒となったことに失望し、密告。捕らえられたルチアは両眼をえぐり取られましたが、なお信仰を捨てませんでした。そうしたことから没後の彼女は「人々の眼の守護聖人」となりました。

聖ルチア(283年-304年)は拷問によって両眼を失いました。絵画や像では、たびたび自身の眼を盆に載せている姿で表現されます(以下写真は2022年撮影)
聖ルチア(283年-304年)は拷問によって両眼を失いました。絵画や像では、たびたび自身の眼を盆に載せている姿で表現されます(以下写真は2022年撮影)
シエナの聖ルチア教会にて。ミサでは信者たちが神父から祝福を授かります
シエナの聖ルチア教会にて。ミサでは信者たちが神父から祝福を授かります

彼女が殉教した12月13日、イタリア各地で今も記念のミサが行われます。シエナでも同様ですが、特徴的なのは人々が教会近くの屋台で陶器製の鈴を買い求めることです。


これは14世紀に「聖ルチアこそ信徒の姿」と考えたシエナ出身の聖カテリーナが、それを人々に知らしめるべく、町中の教会の鐘を鳴らしたという伝説に基づいたものです。シエナの陶器職人たちは、眼病の回復祈願とともに、健やかな暮らしを願うお守りとして鈴を作るようになったのです。


聖ルチアの鈴は大小さまざまあります。絵柄は町内会の紋章をアレンジしたものです
聖ルチアの鈴は大小さまざまあります。絵柄は町内会の紋章をアレンジしたものです
陶器屋台には、鈴とともにツリーにふさわしいボール型デコレーションも
陶器屋台には、鈴とともにツリーにふさわしいボール型デコレーションも

ミサ当日、人々が鳴らす鈴の温かい音色は、冬の石畳の路地に優しくこだまします。絵柄はシエナに17地区ある町内会の紋章が描かれています。


絵付け陶器職人のエリザベッタさんは、40年以上も聖ルチアの鈴を作り続けています。日頃は絵皿などを手がけていますが、祭りの数ヶ月前からは鈴に専念。2023年は約900個に絵付けしたというから驚きです。


INFORMATION:

Festa di Santa Lucia 聖ルチアの祭り 

毎年12月13日、シエナの聖ルチア教会に面した通りで開催


絵付け陶器職人のエリザベッタさん(右)と、助っ人の弟ロレンツォさん。「私たちが幼い頃も、鈴の屋台があったものですよ」と振り返ります
絵付け陶器職人のエリザベッタさん(右)と、助っ人の弟ロレンツォさん。「私たちが幼い頃も、鈴の屋台があったものですよ」と振り返ります
聖ルチア教会前に並ぶ屋台。12月の張り詰めた空気をつたって、鈴の音が煉瓦色の町に響きます
聖ルチア教会前に並ぶ屋台。12月の張り詰めた空気をつたって、鈴の音が煉瓦色の町に響きます

人気急上昇中のクリスマス・マーケットと、はるか昔の聖人にちなんだ伝統的な祭り。歴史の長さは異なりますが、両者で買い物をする人々を観察していて伝わるのは、自分のためよりも、大切な人を想う気持ちです。


モンテプルチャーノにやって来る人々の多くは、例のプロジェクション・マッピングを楽しみながらも、食卓を共にするゲストの笑顔を見たさに食材選びをしています。シエナの鈴は、家族や仲間の幸せを願ってお互いに贈り合います。


いずれも根底には、キリスト教の教え「自分を愛するように隣人を愛しなさい」という精神が流れていることが窺えます。イタリアで冬の催しは、隣人への思いやりを再認識するきっかけなのです。