ミラノ・コルティナ 2026 パラリンピックもいよいよ佳境!
オリンピックでは、開幕直後から数々の名場面を生み出した。日本で大きな注目を集めたのが、男子スノーボード・ハーフパイプだ。平昌で銅、北京で銀と五輪で連続してメダルを獲得してきた優勝候補、オーストラリア代表スコッティ・ジェームズ選手を抑え、日本の戸塚優斗選手がついに金メダルを手にした。涙を浮かべながら戸塚選手を祝福するジェームズ選手の姿は、国境を越えて多くの人の胸を締めつけた。
フィギュアスケートでは、「りくりゅう」ペアがショート5位からの大逆転で金メダルを獲得。世界最高得点とともに勝ち取ったその演技は、二人の強い絆と信頼を証明し、日本中が朝から感動の涙に包まれ、世界からも祝福の声が寄せられた。
そしてイタリア中を震わせたのが、スピードスケート女子3000m。出産後に現役復帰した35歳のフランチェスカ・ロロブリジダ選手が、五輪新記録で金メダルを獲得した。しかもその日は彼女の誕生日。地元開催ならではの熱気と祝福ムードが会場を包み込み、その後の5000mでも金メダルを手にするという快挙で、イタリア中が歓喜に沸いた。
こうしてミラノ・コルティナ2026は、アスリートたちの努力と情熱が生み出した数々のドラマによって、多くの人の心に深い感動を残した。
そんな涙と歓喜の舞台を支えていたスポンサーのひとつが、まさかの「プロセッコ」だった。

プロセッコがスポンサー?!スポーツとアルコールの「禁断の関係」
オリンピックのスポンサーといえば、FIFAでもスポンサーを務める Coca‑Cola のようなスポーツとの結びつきが強い飲料メーカー、 Samsung のようなグローバルテクノロジー企業、国際決済・保険が必須の大会で必ず目にする VISA や Allianz、観客の宿泊を支える Airbnbなどの企業を思い浮かべるはず。ところが、ミラノ・コルティナの会場でワカペディアチームが見つけたのは、スポーツとは対極にありそうなアルコール飲料の名前だった。それがプロセッコDOC(Prosecco DOC)だ。
「なんでプロセッコがオリンピックのスポンサーに?」
「スポーツとアルコールって、対極じゃない?」
そう思ったのはワカペディアチームだけじゃないはず。実際、日本開催のオリンピックで獺祭やアサヒ・麒麟・サントリーのビールが「公式スポンサー」になったことはない。(会場販売はあっても、公式パートナーとは別物だ)オリンピックでは、健康イメージを重視しているだけでなく、若年層へ
の影響や国ごとのアルコール規制の違いもあり、アルコールスポンサーを避けるのが一般的だ。では、なぜイタリアではプロセッコがその座についたのか?

プロセッコは「文化」であり、ミラノ・コルティナの「地元の味」だった。
プロセッコの歴史は17世紀末、スロヴェニアとの国境近くの小さな村「Prosecco」から始まる。2009年にはヴェネト州とフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の9県が結束し、プロセッコDOC(統制原産地呼称)が誕生。生産地域や製法、ラベル表示まで厳しく管理され、プロセッコという名前そのものを守る巨大な共同体が生まれた。つまりプロセッコは、単なるワインではなく地域文化そのものなのだ。
そして今回の五輪会場のひとつ、コルティナ・ダンペッツォは、そのプロセッコDOCの生産地域の中心に位置する。言い換えれば、今季のオリンピックの舞台そのものがプロセッコの故郷だったのである。

プロセッコDOC協会のジャンカルロ・グイドリン会長はこう語る。
「冬季オリンピックがイタリアに戻ってくるのは稀です。この機会に参加しないということは、世界が私たちの故郷を見ている瞬間に背を向けるようなものです。」
地元の文化を世界に届ける絶好のチャンス、それが今回のスポンサー就任の背景にある。
自然と共に生きるワイン。プロセッコのサステナブル革命
プロセッコDOCは、世界的なスパークリングワインの産地として知られる一方で、自然環境を守り、地域文化を育み、スポーツを通じてその価値を世界へ届けるサステナブルブランドとして独自の存在感を放っている。

プロセッコDOCは、ミツバチを生態系の指標として守るブランド。養蜂家と協力しながら、在来植物を植えた生物多様性コリドーの整備や、農薬を減らすIPM(環境に配慮した防除)、S.Q.N.P.I.認証(ミツバチに優しい農法の証)を通じて、自然と共生する畑づくりを進めている。
その根底にあるのは、「自然と地域を守る」という揺るぎない姿勢だ。畑では農薬の使用を極力抑え、害虫をフェロモンで寄せ付けない生態学的手法を取り入れている。畑の周囲には、生き物が自由に行き来できる生物多様性コリドーを整備し、土地そのものの生命力を守り続けている。また、輸送時のCO₂排出を減らすために軽量ガラス瓶を採用するなど、ワインが消費者の手に届くまでの環境負荷にも目を向ける徹底ぶりだ。
2019年からはMotoGP™のオフィシャルサプライヤーとして表彰台を彩り、2021年のコルティナ世界スキー選手権ではイタリア代表色アズーロ(青)の特別ラベルで大会をサポート。2014年からは女子バレーボールの強豪Prosecco DOC Imoco Volleyのインスティテューショナルスポンサーを務め、現在はネーミングスポンサーとしてチーム名にも冠される存在となった。

さらに、トリエステで開催される世界最大級のヨットレース「バルコラーナ」を6年間支援し、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州を巡る新しいマラソンシリーズ「MYTHO MARATHON」とも提携。ベネトン・ラグビーのジャージメインスポンサーにも就任し、地域スポーツの幅広い領域で存在感を示している。
そして今、プロセッコDOCはミラノ・コルティナ2026冬季五輪のパートナーとして新たなステージに立つ。大会理念には、環境配慮、地域文化の尊重、既存施設の活用といった、プロセッコDOCが長年大切にしてきた価値がそのまま息づいている。
自然、文化、スポーツを守り育ててきた地域ブランドが、地元で開かれる世界最大の舞台に立つことは、もはや必然の流れだったと言える。


世界の潮流も後押し。アルコールスポンサー解禁の時代へ
実は2024年、アルコールスポンサーの常識を変える大きな出来事があった。バドワイザーなどを持つ世界最大のビール企業AB InBevが、史上初めてワールドワイドパートナーに就任したのだ。前面に出したのはノンアルコールブランド「Corona Cero」。これがスポーツ × アルコールの新しい形として注目され、以降、世界的にアルコールスポンサーが再評価され始めた。
プロセッコも同じ文脈にある。「アルコール」ではなく「スパークリングワイン」という文化的カテゴリーで扱われ、地域ブランドとして観光・文化振興の文脈で語られる。イタリアではワインは食文化であり、スポーツと対立しないという社会的認識も大きいのかもしれない。

五輪の裏側で、プロセッコは何をしていたのか
プロセッコDOCは、五輪期間中に多彩な文化発信を行った。600㎡の巨大ラウンジ「San Babila Sparkling Hub」では、アート、ミクソロジー、料理、テイスティングを通じてイタリアのホスピタリティを体験できる空間を展開。ミラノ市内のVia Manzoniの870mにわたるLEDインスタレーションでは、「Passione(情熱)」「Inclusione(包摂)」「Territorio(地域性)」など、五輪と共有する価値を光で表現した。
さらに、イタリア選手団の拠点Casa Italiaでは、イタリア共和国大統領マッタレッラも出席する公式レセプションで提供され、13の競技会場と6つのファンゾーンでもプロセッコが振る舞われた。加えて、世界のメディアを生産地へ招く「Educational Tour」を実施し、アメリカ、カナダ、日本、中国などから記者を招いてヴェネトとフリウリの畑を巡るプロセッコの旅を開催した。

オリンピックの乾杯は、イタリアの物語を世界へ届ける瞬間
グイドリン会長はこう締めくくる。「オリンピックの乾杯は、競技の緊張から祝福へと移る象徴的な瞬間です。 一杯のプロセッコDOCの背後には、守るべき土地とコミュニティがあります。」
スポーツの祭典に、ワイン。 一見ミスマッチに見える組み合わせは、 実はイタリアという国の本質を映し出している。スポーツ × 文化 × 土地 × 歴史 × 祝祭 これらが一つに溶け合ったとき、ミラノ・コルティナ2026は、イタリアという国の価値観とライフスタイルを象徴する存在になったのだ。
