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イタリアの冬に寄り添う “飲むチョコレート”

大矢 麻里 Mari Oya

2026.02.09

いよいよヴァレンタイン・デー。冷たい風が吹く中、心までふんわり暖まる甘い一杯が恋しくなる季節です。イタリアの家庭で長く親しまれてきた、冬の味わい豊かな飲み物を紹介します。



バールの味を家庭でも

冬になると思い出すのは、私がイタリアに住み始めてまもない頃の、ある一日です。親しくなったばかりの知人が、「今日は冷えるから温かいものをご馳走するわ」とバールに誘ってくれました。


差し出されたカップに入っていたのは、一見日本で親しんでいたホット・チョコレートでしたが、それはスプーンですくえるほど濃厚なものでした。


「チョコラータ・カルダ(cioccolata calda)っていうイタリアの冬の定番。元気がでるわよ」。ドリンクというよりはデザートに近い感覚のその飲み物の甘さは、慣れない暮らしに戸惑っていた私の身体も心も癒してくれました。


そのチョコラータ・カルダを、家庭でも簡単に再現できる商品があります。名前は「チョバール(Ciobar)」。cioccolata(チョコレート)+ bar(バール) を組み合わせた造語です。家庭用デザートやスイーツミックスなどで知られるイタリアの食品メーカー・カメオ社が1960年代から製造しているロングセラーで、寒い時期における家庭の常備品として親しまれてきました。

スーパーのPOP UPで売られているチョバール
スーパーではコーヒーなどと同じ棚に売られていますが、こうしたポップアップに並べられることも

作り方はシンプルです。小鍋にチョバールの粉末を入れ、牛乳を少しずつ加えて混ぜます。ダマがなくなったら火にかけ、好みのとろみになったらカップに注ぐだけです。電子レンジで徐々に加熱しながら作ることもできます。初めてのチョバールには、甘さとカカオのバランスがよい定番の「クラッシコ」がおすすめです。

チョバールにひたしたクッキー
クッキーにつけながら味わうのも楽しみ方のひとつです

姉妹品の「ビアンコ(ホワイトチョコ)」は、カスタードクリームのようなミルキーでやさしい味わいです。よりカカオの風味を感じたい人向けの「フォンデンテ(ブラックチョコ)」、甘さを控えたい人向けに砂糖不使用の「ゼロ」もあります。

チョバールビアンコ
ビアンコにはグラノーラをひと匙プラスするだけで、香ばしいアクセントとなります

そればかりかチョバール風味の焼き菓子をつくるキット「クオール・ディ・チョバール Cuor di Ciobar」も販売されています。箱にはミックス粉のほか、粉砂糖やアルミカップまで入っているため、用意するのは卵だけ。粉と卵を混ぜ、型に流し込んでオーブンで焼いて、仕上げに粉砂糖をふれば完成です。チョバールらしい濃厚な味を、違ったかたちで楽しめます。

チョバール風味の焼き菓子手作りセット
クオール・ディ・チョバールは製菓菓子コーナーに置かれています。これは箱の中身を出したところ
中からチョコレートがあふれ出すチョバール風味の焼き菓子
焼きたての温もりが残っているうちにフォークを入れると、中からとろりとチョコレートがあふれ出します

貴族も愛飲していた

今日チョコレートといえば固形を思い浮かべるのが一般的ですが、始まりが異なる形だったことはイタリア半島におけるその歴史が教えてくれます。


16世紀、北部トリノ一帯を治めていたサヴォイア家のエマヌエーレ・フィリベルトは、ハプスブルク家のスペイン王カール5世に忠誠を誓い、北イタリア戦線で武勲を立てました。その際、恩賞として受け取ったのは、彼らの植民地からもたらされるカカオでした。


エマヌエーレ・フィリベルトがトリノに持ち帰ったカカオから作るチョコレートは、たちまち貴族たちを虜にしました。ただし彼らにとって、それは飲む嗜好品でした。当時はカカオを固める製法が存在しなかったためです。


それからおよそ1世紀後、サヴォイア家は地元トリノのチョコレート職人にホット・チョコレートの製造販売を認めます。これをきっかけに、トリノには欧州各地から菓子職人が集まるようになり、カカオを固めて、食べるチョコレートにする技術ももたらされました。


つまりイタリアにおけるチョコレートの起源は、「食べる」ではなく「飲む」だったのです。


日本では残念ながら未発売のチョバールですが、もし手に入れる機会があったら、バレンタインの贈り物に“チョコレートのルーツ”のお話を添えてプレゼントしてみてはいかがでしょう。