圧倒的な歌唱力・表現力を磨き上げ、イタリアを代表する女性歌手のひとりとなったFiorella Mannoia(フィオレッラ・マンノイア / 現66歳→もうすぐ67歳)が、2月初頭に26歳年下の男性との結婚を発表し、バレンタインデーの直前という時期も相まって、大きな話題となりました。
気になるお相手の男性は?
お相手の男性はCarlo Di Francesco(カルロ・ディ・フランチェスコ / 現41歳)というミュージシャン&音楽プロデューサーで、数多の著名アーティストのプロデュースを務めるのと並行して、フィオレッラのバックバンドでも演奏してきた人物です。 そして、タレント発掘番組Amici(アミーチ)*の2014年大会でヴォーカル・コーチを務めたことで、大衆にも顔が知られるようになりました。
*当サイト過去記事参照
このハンサムなコーチには恋人はいるのか?と当時騒がれました。 今にして思えばその頃既にフィオレッラとの関係はあったのですが、無事隠し通したようです。 そう、彼らの関係は10年もの間、秘密にされていたのです。 フィオレッラが彼との関係を告白したのは2017年のサンレモ音楽祭に出場中(結果は惜しくも準優勝!)の時でした。
私たちのことは公にし、隠さないわ。だからもう私たちは疲弊することはないでしょうね。誰もが自分の情熱を守ることには自由でしょ。自由があれば、孤独ではないし不幸じゃないわ。
60歳を過ぎて欲望が変わってしまったら? パワーはもう同じという訳にはいかないわ。でも大事なことは億劫にならないことね。遊び心を忘れずに。“老い”とは身体の、筋力の問題であって、その他のことは気持ち次第。“老い”なんて存在しないのよ。
確かにここ10年のフィオレッラが、年を重ねるごとに神々しく輝きを増していたのは、この愛を育みながら培った気位のお陰だったのですね。
フィオレッラ・マンノイアの奇跡の来歴
今では大歌手として輝いているフィオレッラですが、実は彼女の芸能界デビューは、14歳の時、映画界でのスタント女優として始まっています。 実父がスタントマンだったので、同じ道を歩み始めたのです。
女優Lucia Mannucci(ルチア・マンヌッチ)を皮切りに、世界的に有名な女優Monica Vitti(モニカ・ヴィッティ)のスタント役まで務めるようになり、1970年代になると、いわゆるマカロニ・ウエスタン映画(イタリア製作のアメリカ西部劇の日本語呼称、世界的には“スパゲッティ・ウエスタン”と呼ばれています)で端役を演じるようになりました。
並行して1968年に若手歌手の登竜門カストロカーロ音楽祭で音楽界にデビュー。 時代は既に世界的なカンツォーネ・ブーム終焉の頃で、イタリア国内ではシンガーソングライターでなければ業界に残れない大変革の時代が始まりつつありました。 まだ駆け出しで、自分で曲を書かない彼女にスポットライトが当たることはありませんでした。
そう、実は1960年代に一世を風靡した歌手でも、その多くが70年代以降は歌手業で食べていくことができなくなり、俳優などに軸足を移す者、廃業に追い込まれる者に分かれていきました。 この試練を乗り越えて現役の歌手活動を続けていけたのは、ごく一握りとなります。 現在のイタリア音楽界に大ベテランの(曲を書かない)歌手、とりわけ女性歌手が少ないのは、この試練のせいであることは想像に難しくありません。
フィオレッラはこの苦難の時代に “鳴かず飛ばず”であったのにも関わらず、10年超もの間、地道な歌手活動を通して研鑽を重ねていったのですが、凄い忍耐力が必要だったと思います。 スタント業で培った根性の賜物かもしれませんね。 1981年(26歳)になってようやく晴れの舞台サンレモ音楽祭に初出場して11位と、まずまずの結果を残し、ようやく少しずつその存在が知られるようになりました。
1983年に敏腕プロデューサー・作曲家・ミュージシャンのMario Lavezzi(マリオ・ラヴェッツィ)と出会い、彼女の歌手人生が開き始めます。 1987年に再々度サンレモ音楽祭に出場し、「Quello che le donne non dicono(意:女性たちが言わないこと)」を歌い、順位は8位に留まったものの栄誉ある批評家賞を獲得し、彼女の名刺代わりとなる代表曲となっただけでなく、イタリア音楽史上にも残りうる名曲となりました。 当時既に30歳を過ぎていた(32歳)フィオレッラが、少し年齢を重ねた女性の心境を歌った歌詞がぴったりとハマったようです。
それ以降のフィオレッラは様々な音楽界のカリスマたちとコラボを重ねて、歌ウマ歌手としての存在感をどんどん高めていきます。 一方ではその歌唱力の高さ故、聴いていると眠くなってしまうことから、その名を茶化されて“Fiorella m’annoia(発音は同じ“フィオレッラ・マンノイア”/ 意:フィオレッラは私を退屈させる)”などと揶揄されたこともありました。
50歳を過ぎた頃からは歌唱力だけでなく表現力が格段に豊かになり、実に聴き応えのある歌唱をするようになり、近年は自分で作詞も手掛け始め、他者に提供するまでになり、シンガーソングライターとしての才能を発揮するようになりました。
「Perfetti sconosciuti(意:完全に知らない人々)」(2016)は同名映画『おとなの事情(邦題)』の主題歌で、映画は世界中でリメイクが作られるほど大ヒットし、2019年には世界一リメイクされた映画作品としてギネス記録に認定されました。 日本はトレンドに乗り遅れたものの2020年に『おとなの事情 スマホをのぞいたら』というタイトルでリメイク作品が製作され、2021年初頭にようやく公開されました。
同時に数々の女性向けチャリティ企画の中心人物のひとりとなるようになってからは、いわば女性の代弁者的な存在となり、大きな人望も集めるような存在となって今日に至ります。
音楽特番『La music che gira intorno』の企画&主催
2021年1月15日とその翌週1月22日の2週に渡りイタリア公共放送RAIで放映された音楽特番『La music che gira intorno(ラ・ムジカ・ケ・ジーラ・イントルノ / 意:周囲を廻る音楽)』は、フィオレッラ・マンノイアによって企画され、フィオレッラ自身が進行役を務めました。
なんといっても、パンデミック下のために多くのアーティストたちが個々の活動を大きく制限されていたことが、逆にTV番組のために一堂に会する絶好の機会となったのです。 その顔ぶれは1970年代に活動を始めてからずっとトップスターであり続ける大物シンガーソングライターの面々から、若手の注目株、そしてイタリアならではの歌好き・歌ウマ俳優たちがこぞって出演し、自身の曲だけでなく過去の名曲のカヴァーなど、この番組でしか見られないような共演で音楽ファンを魅了したのです。
以下はその出演歌手のリストとなります。 年齢と業界での立ち位置を基準に3つのグループに分けています。 イタリア音楽界はいかに70歳以上の現役が多く、その次の中高年層も分厚いことが判ると思います。
重鎮(約70歳~)
Claudio Baglioni(クラウディオ・バリォーニ)、Antonello Venditti(アントネッロ・ヴェンディッティ)、Francesco De Gregori(フランチェスコ・デ・グレゴーリ)、Ornella Vanoni(オルネッラ・ヴァノーニ)、Riccardo Cocciante(リッカルド・コッチャンテ / サンレモ優勝歴あり)、Zucchero(ズッケロ)
大物(概ね40歳~60歳代)
Giorgia(ジョルジア / サンレモ優勝歴あり)、Andrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)、Gigi D’Alessio(ジジ・ダレッシオ)、Samuele Bersani(サムエレ・ベルサーニ)、Ligabue(リガブエ)、Tosca(トスカ/ サンレモ優勝歴あり)
若手(概ね40歳未満)
Marco Mengoni(マルコ・メンゴーニ / サンレモ優勝歴あり)、Achille Lauro(アキッレ・ラウロ)、Alessandra Amoroso(アレッサンドラ・アモローゾ)、Emma(エンマ/ サンレモ優勝歴あり)、Tommaso Paradiso(トンマーゾ・パラディーゾ)、Pinguini Tattici Nucleari(ピングィニ・タッティチ・ヌークレァーリ)、Brunori Sas(ブルノリ・サス)
過去の名曲のカヴァーも多く(中には30歳の歌手が1950年代の曲をカヴァーするシーンも!)、やはりイタリア音楽には世代を超えて歌い継がれている楽曲が多いことが判ります。 楽しむ側も、特定のアーティストだけでなく幅広く聴くことで、よりイタリア音楽が楽しめるようになることも判る、良い例となる番組だったと思います。
該当の番組は、今のところ日本からでも無料でアーカイヴ映像を見ることができます。 通常、しばらくすると動画が消されてしまうことが多いので、早めに視聴いただくのをお勧めいたします。 リンクはこちら
無料で聴けるSpotifyプレイリスト – フィオレッラ・マンノイア特集
この記事には無料で聴けるSpotifyプレイリストが付録されています。 フィオレッラ・マンノイアの50余年に渡る歌手生活の中で発表されたシングル曲を年代順に収録しています。 最初期の楽曲や途中の年代でもところどころSpotifyに登録がありませんでしたので、それらを除く1972年から2020年まで網羅しました。 フィオレッラが他のアーティストに客演した楽曲でシングル化されたものも納めています。
Buon ascolto!(ブォン・アスコルト!/ 楽しんで聴いてね!)