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絶対に見ておくべき日本ロケのMV!サンレモ音楽祭優勝者Diodato(ディオダート)

Diodato特集プレイリスト

サンレモ音楽祭2020優勝者のDiodato(ディオダート)。優勝曲はもちろんのこと、イタリア好き日本人ならチェックしておくべき東京ロケのミュージックビデオを紹介いたします。

2020年 – ディオダート大躍進!

Diodato(ディオダート)ことAntonio Diodato(アントニオ・ディオダート)は、サンレモ音楽祭2020年で優勝を遂げただけでなく、イタリア映画界の栄誉ある大賞、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞およびナストロ・ダルジェント賞のW受賞をも獲得して大躍進した、今年で39歳になる大注目株のシンガーソングライターです。

Diodato / Sanremo2020

写真: Sanremo2020

サンレモ音楽祭2020年優勝!

優勝曲「Fai rumore(ファイ・ルモーレ / 意:君が物音を立てる)」は70周年記念大会となったサンレモ音楽祭らしい、オーケストラサウンドが美しい、次第に盛り上がっていくスケールの大きい楽曲です。

「君が物音を立てる」という変わったタイトルもポイントで、同居している人の生活音を題材にしています。騒音とも感じられる一方、その人の存在を感じさせる生活音。イタリア語タイトルの「Fai rumore」の“Fai(ファイ)”は、主語がtu(トゥ / 君)の現在形でもあり、tuへの命令文であるとも捉えることができるので、「君が騒いでいる(= 騒音)」と「物音を立ててくれ(= 願望)」の両方の意味を感じ取ることができます。

ディオダートと2年ほどの交際後、別れて数か月という女性歌手Levante(レヴァンテ)が同じサンレモ音楽祭2020出場者の中に居たこともあり、この楽曲はレヴァンテとの関係を歌っており、彼らが別れた原因(= 騒音)と、同居者の生活音が無くなった寂しさ(= 願望)が混在しているのでは? という解釈が成り立ちます。

彼がサンレモで優勝した1か月後、新型コロナウイルスの蔓延により、外出禁止令が敷かれたイタリアですので、家の中では同居人がたてる物音に日常的に触れることになり、この「Fai rumore」はまさにコロナ禍のライフスタイルを象徴するような歌にもなったようです。

サンレモ音楽祭優勝者は基本的に同年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストの決勝戦にイタリア代表として出場するのですが、2020年はコロナ禍で中止となりました。しかしイタリア代表としてディオダートは同大会用のミュージック・ヴィデオ(以下、「MV」)を製作。これは無観客のアレーナ・ディ・ヴェローナ(ローマ時代に建造された野外円形劇場)で撮影された美しいものとなりました。

栄誉ある映画賞のW受賞に輝いたMVは東京ロケ!

サンレモ音楽祭2020優勝の3か月前となる2019年11月、YouTubeに公開されたディオダートの公式MV「Che vita meravigliosa(ケ・ヴィータ・メラヴィリォーザ)」は、なんと東京ロケで製作されていたため、日本のイタリア音楽愛好家の間で瞬く間に話題となりました。しかも日本でリリースの予定もないのに、「なんて素晴らしい人生だ」という邦題までMV中にクレジットされているのです。

Che Vita Meravigliosaタイトル

ディオダート自身はこの東京ロケの理由について次のように語っています。

「僕が今まで旅した中で、最も冒険的で美しい旅となった映像を使いたかったのです。数百万もの運命が交わる、この惑星の中で最も素晴らしい都市(= 東京)の。」

Che Vita Meravigliosaスクリーンショット

そのMVのリリースの3週間後、名匠フェルザン・オズペテク監督の映画『La dea fortuna(ラ・デア・フォルトゥーナ / 意:幸福の女神)』が公開され、いくつかの楽曲と共にこのディオダートの楽曲もサントラに使われていました。映画のストーリーはオズペテク監督作品のお約束である同姓愛がモチーフにされており、男性カップルのもとに、2人の子供が預けられるという七転八倒が描かれています。

そしてサンレモ音楽祭優勝の3か月後の5月、イタリア・アカデミー賞となるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀オリジナル楽曲賞に輝き、さらに2か月後の7月には、もうひとつのイタリア映画界の大賞ナストロ・ダルジェント賞でも最優秀オリジナル楽曲賞受賞と、映画界でも大絶賛されたのです。

タイトルから一般的にイメージするような幸せ溢れるような状況が歌われてはおらず、人生の詫び錆びを感じさせる点が、映画の設定とマッチしたことも、この受賞につながったと思われます。

[サビの歌詞]

なんて素晴らしい人生だ
この人生は辛くて
魅惑的で 奇跡的
海の真ん中に僕を導く人生
僕を泣かせ 踊らせる
君と一緒の狂人みたいに

La Dea Fortuna映画タイトルバナー

ディオダートの来歴

さて、今まで紹介して来たディオダートの来歴を最後にざっと紹介しておきましょう。

ディオダートはイタリア最北西部のアオスタで1981年に生まれましたが、両親はそれぞれプーリァ州ターラント生まれとローマ生まれとのことで、むしろ南部の血筋が強いようです。またプロとして音楽の仕事を始めたのはスウェーデンという変わった経歴の持ち主。

2013年(32歳)でようやくソロとしてメジャーデビューを果たします。最初のシングルはイタリア音楽界のレジェンドたるファブリツィオ・デ・アンドレ(1940-1999 / 58歳没)の「Amore che vieni amore che vai(アモーレ・ケ・ヴィエニ・アモーレ・ケ・ヴァイ / 意:やって来る愛 過ぎ去る愛)」(1966)のカヴァーで、いきなりダニエレ・ルケッティ監督映画『ハッピー・イヤーズ(Anni felici)』(2013)のサントラに採用され、2014年のファブリツィオ・デ・アンドレ賞を受賞するという幸先の良いスタートを切っています。

翌2014年にはサンレモ音楽祭新人部門への出場権を得て。これまたスケールの大きな「Babilonia(バビロニア)」を披露して惜しくも2位となっています。

これらの楽曲を収録したのが1stアルバム『E forse sono pazzo(エ・フォルセ・ソノ・パッツォ / 意:そして多分僕はイカレてる)』(2013)です。

2ndアルバム『A ritrovar bellezza(ア・リトロヴァール・ベッレッツァ / 意:美を探しに)』(2014)が主に1960年代のイタリア語曲のカヴァーアルバムだったのも注目すべきポイントです。(Spotifyには登録がありませんでした)

彼ら世代のイタリアのミュージシャンは多かれ少なかれ英語圏のミュージックシーンの影響を受けているのですが、ディオダートの楽曲からイタリア伝統の良質なエッセンスがにじみ出ているのは、彼の60年代カンツォーネ愛がなせる技といっても過言ではないでしょう。

この頃までのディオダートという存在は、一般大衆には今ひとつ印象付けられることは無かったようですが、同業者の、特にサウンド・クリエーターたちの目に留まったようで、ベテラン・シンガーソングライターのDaniele Silvestri(ダニエレ・シルヴェストリ)のアルバムや、カルト的人気を誇るバンドSubsonica(スブソニカ)のキーマンBoosta(ブースタ)のソロアルバム、ラッパーのGhemon(ゲーモン)のアルバムにゲストとして呼ばれています。

3rdアルバム『Cosa siamo diventati(コザ・シァーモ・ディヴェンターティ / 意:僕らは何になったのか)』(2017)をリリース後の2018年、歌うトランぺッターという特異な存在であるRoy Paci(ロイ・パーチ)とコンビを組み、「Adesso(アデッソ / 意:今)」で2度目のサンレモ音楽祭に出場(ビッグ部門)しました。

Cosa Siamo Diventatiアルバムカバー

そして2020年、三度目のサンレモ音楽祭はソロとして参加し、見事な優勝を勝ち取りました。前出のようにこの時点まで、イタリア大衆の中での彼の知名度は低かったので、多くの下馬評を覆しての予想外の結果でした。さらに優勝よりも栄誉あると言われるMia Martini賞(ミア・マルティーニ賞 / 批評家賞)とLucio Dalla賞(ルーチョ・ダッラ賞 / 記者クラブ賞)も勝ち取りました。

事実、上位3組での決戦投票の結果、大衆票(=人気票)ではディオダートは最下位でしたが、プロ審査員やオーケストラ構成員の票を圧倒的に集め、プロの音楽家たちのお眼鏡にかなった結果です。

前出のサンレモ優勝曲や、映画大賞をW受賞した楽曲を収録した4thアルバム『Che vita meravigliosa』(2020)は、ヒットチャートでも自身の最高ランクとなる4位を獲得することとなりました。

Che Vita Meravigliosaアルバムカバー

つまりディオダートは本国イタリアでも2020年になってから広く知られるようになったばかり。今からディオダートを聴き始めても、本国のイタリア人たちに遅れを取ることはありません。

新しくて古い、まるで温故知新のようなディオダートの存在は、今後のイタリア音楽の指針を占う上でも押さえておきたい存在だと思います。

Diodato特集プレイリスト

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