夏の訪れを知らせる花の伝統行事
皆さんこんにちは。
6月になるとイタリアも初夏の花々が咲き乱れ、明るい太陽の光を受けて植物がますます輝きを増しますね。
そんな6月のイタリアで、伝統行事とともに夏の花の魅力を満喫できるのが、インフィオラータです。
これは復活祭のあとの第9日曜日である聖体の祝日(Corpus Domini)に、ミサのあとフラワーカーペットを敷き詰めた街中を聖体の行列が行進するというものですが、イタリアの小さな村々でも行われている伝統行事です。事前から村人が総出でこの季節の野の花や野草を集めておき、数日前から前日まで根をつめたフラワーカーペットつくりが街の至る所で行われます。
フラワーカーペットの絵のモチーフは様々で、もちろん宗教的な場面のものから現代的なテーマのものまでさまざま。その色の鮮やかさは本当に心躍る夏の色。今日は、そんなインフィオラータでも、中部イタリアでは花の街として知られるスペッロの素晴らしいインフィオラータをご紹介いたします。
緑の大地ウンブリアに咲く花の街スペッロ
イタリアで唯一海に接していない、緑の心臓とも呼ばれるウンブリア州。イタリアに存在した最古の民族と言われているウンブロ族が文化を切り開いた、とても歴史深い州です。スペッロもそんなウンブロ族が築いたと言われる街で、豊かな田園風景の広がるなだらかな丘の上に張り付くようにしてそびえています。一歩街に足を踏み入れると、いくつもの小路から覗くグリーンのパノラマと花々でしつらえられた旧市街地の落ち着きがありつつも華やぎも感じられる佇まいに、訪れる人は思わず笑みを溢すはず。人々の暮らしの呼吸を肌で感じられる、ゆるやかな時間が流れる街なのです。
この街の一大行事であるインフィオラータに合わせ、街は自治体を挙げてより美しい花のアングルを街中に作ることに尽力しているのですが、それぞれの住民がアイデアを凝らして庭先やテラスを飾りその美しさを競い合い、優秀者を決める、いわゆるガーデンコンテストもあります。興味深いのは大きな庭を飾ることではなく、あくまで市街地の小路にある一角や玄関先などの、生活に密着した小さなスペースを有効利用するところ。
街を散策するとぱっと目の前に現れる可憐この上ない小さな玄関先は、絵葉書のように思わずスケッチしたくなるアングルもいっぱいです!
ユニークなマヨリカ焼きタイルの表彰状
ガーデンコンテストで決められた優秀者に進呈される表彰状として、とってもユニークなものが使われるのですが、それは地元の職人が製作したマヨリカ焼きによるタイルなんです。
カラフルに絵付けされたタイルには、表彰文が書かれていますが、タイルそのものが可愛らしいので、表彰された方々は家の壁面にタイルを貼り付け、外壁の装飾に有効利用するとともに、表彰された庭先であることを宣伝できるという利点があるのです。なんとも良いアイデアですよね。
花の色があふれるインフィオラータ
さて、聖体の祝日のメインイベントであるインフィオラータのフラワーカーペット制作は、何日も前から花びらを摘む地道な作業から始まります。
大人も子供も総出で近郊の野山から摘んで来た花は、インフィオラータ直前になると作業中に風で花びらが飛んでしまわないようテントが設置され、下絵に合わせて花びらを並べていく根気の要る作業が夜中まで続きます。街のいたるところで住民が路地に集い花びらの仕分け作業をする姿が見られ、このイベントに対する地元人の情熱が伝わってくる、心温まる風景がまた、良いのです。
インフィオラータ当日は出来上がったばかりの美しいフラワーカーペットを一目見ようと、朝早くからテントが外されるのを待ち望む来訪客でいっぱい。スペッロの1年で一番活気のある1日が大聖堂のミサから始まり……聖体の行列の行進が始まるころには、路地は人と花とで溢れ、なんとも言えない爽やかな熱気と喜びに包まれた、本当に特別な時間を過ごすことが出来ます。
キリスト教徒ではない著者も、この信仰と街と花の美が一体になった晴れやかな1日を体験し、大きな感動を覚えたものです。
イタリアを旅すればするほど、魅力を感じるのは地方色のある伝統や、人々の暮らしの息使いが感じられる小さな街角だったりします。
そんな温かい街角が、花のカーペットで埋め尽くされる夏の特別な1日を、皆さんも体験してみたいと思いませんか?