ART & DESIGN

ART & DESIGN

注目アーティスト、サイモン・フジワラ氏の素顔とインスピレーションの源に迫る

新型コロナ対策をしながら、ミラノのプラダ財団美術館で開催された、サイモン・フジワラ氏の展覧会「Who the Bær」に潜入!日本とイギリスをバックグラウンドに持つ注目アーティスト、フジワラ氏のアートと展覧会を紹介した前編に続き、彼の素顔とインスピレーションの源に迫った、ワカペディアお馴染みのカジュアルなインタビューで後編がスタート!

クリックして前編を読む

ワカペディア: チャオ、サイモンさん。初めまして!実は私達、今回の展示会を観るのはもちろん、あなたに会えるのをすごく楽しみにしていたの。日系イギリス人アーティストと聞いたけれど、私はイタリア育ちの日本人だから、なんだかすごく親近感を感じたの! 二つの文化の中で育った結果、私は思春期にはアイデンティティ・クライシス(自分が何者であるかわからなくなること)に直面したんだけど、あなたも経験したことはある?

サイモン: 僕は常にアイデンティティ・クライシスに陥っているよ! (笑)

ワカペディア:(これは同志で間違いないと直感)仲間が見つかって嬉しい!(笑)ところで、すごい経歴の持ち主だけど、今いくつなの?

サイモン: 僕は38歳だよ。

ワカペディア: ワォ!私たちは33 歳だよ!

サイモン: 若い時に心の準備をしといた方がいいよ。これから先、(アイデンティティ)クライシスはどんどん悪化することになるからね(笑)

ワカペディア: 肝に命じておきます!(笑)ところで、今回の展覧会「Who the Bær」に登場する、主人公クマの誕生秘話や、プロジェクトのコンセプトについて教えてもらえる?

サイモン・フジワラ Who the Bær

サイモン: このアイデアは、すぐに思い浮かんだわけではなかったんだ。昨年、ヨーロッパで最初のロックダウンが始まった時、コラージュとデッサンを始めたことがきっかけだよ。今思うと、僕にとっては、孤独を上手く乗り切る手段だったのさ。この時期、誰もが家でテレビや映像スクリーンをつけっぱなしにしていたと思うけど、その結果、大量の映像や画像が常に自分の頭の中に流れ込んで来たんだ。特にBlack Lives Matter運動や、人種・性差別問題に関連する映像や画像は、自分の社会における立ち位置を見直すきっかけになったし、そのお陰で沢山のアイデアが浮かんできたよ。

ワカペディア: まさかロックダウンがきっかけだったとは、ビックリ!

サイモン: そうでしょ?アイデアが浮かんだら、次にそれらを具体化するための「ボディー」が必要だと感じたんだ。そこで、「Who the Bær」に取り組み始めたというわけさ。「Who the Bær」の主人公であるクマは人間ではなく物体だし、どのように考えて行動するのかということや、アイデンティティについて心配する必要もないんだよ。過去には、漫画のキャラクターが男尊女卑や人種差別主義、至上主義者を反映していると捉えられたことがあるよね。だからこそ、僕はそういった構図から抜け出して、もっと別のビジョンを提案したかったんだ。

サイモン・フジワラ Who the Bær

ワカペディア: なるほど!「Who the Bær」の主人公は、いわゆる「キャラクター」と「シンボル」の中間の存在だとか。ところで、日本の漫画から影響は受けたと思う?

サイモン: もちろんだよ、アイ・ラブ・ドラえもん!僕がクマの色に選んだイエローとブルーは、そこから来ているのかもね。でも漫画の世界で僕が魅了されるのは、絵の分析や、デザインやキャラクターの綿密な構成なんだ。ちなみに僕たちは、SNS上でエンターテイメントやマーケティング、セルフプロモーションができるような、(自分自身を)ブランド化できる時代に生きているよね。でもそれって何だか、違和感があるんだ。今回の展覧会では、僕らが抱く心の中の不安やモヤモヤを、この主人公のクマを通して表現することで、解放したいのさ。特定のアイデンティティや人種、年齢、性別を持たないことで、この「Who the Bær」の「Who(どこかの)誰か」はすべての人を指すことが出来るし、誰も排除されないんだ。誰にでもなり得るし、誰でもないこともある。何より、誰であっても構わないということなのさ。

ワカペディア: 面白い視点!確かに、SNSが急速に発達して以来、私達の抱く理想がより具体的にイメージ化したことで、現実とのギャップに苦しむ人が増えたような気がするよね。加工だらけのアイデンティティを量産することで、自分が誰であるのか分からなくなって、今では誰しもがアイデンティティ・クライシスを経験し得るようになったのかも。そんな時にサイモンさんの新しい視点は、自分達を見つめ直す良いきっかけになりそう!

サイモン・フジワラ Who the Bær

サイモン: そうだね。実はこの作品を描き始めたとき、今の社会が僕達に向かって「いかに多くのものに対して批判的であることを強いる」のか、あらためて考えたよ。例えば、「この水は買わない方がいい。それは貴重な資源である水の商品化を推し進めている、多国籍企業に運営されているから」とか、「この食品を食べない方がいい。それは有害な成分が含まれているから」なんて、とにかく言い出したら切りがないくらい、全てのものに問題があるんだ!意識するのは良いことだけど、過度に意識しすぎると僕らの自由が奪われるっていうことも、忘れちゃいけないよね。だから制限なく自由に選択できるキャラクターを想像しよう、って思ったんだ。それが本当の意味での『自由』だからね。

ワカペディア: 興味深いね!ところで、このクマはあなた自身を投影しているとも言えるの?

サイモン: 僕は人間として「制限」されているから、そういう意味でこのクマは、僕よりも優れているよ(笑)

ワカペディア: なるほど(笑)ちなみに、あなたのアート活動に影響を与えたり、インスピレーションの源になったものは?

サイモン: パンデミックは間違いなく大きなインパクトだったね。以前は、多くの共同プロジェクトやコラボレーションをするために、色んな国を旅行していたけど、全て休止した事で、あらためて自分に問いかけたんだ。そうして、絵を描いたりコラージュを作ったりと、自らの手でオブジェを作り始めたんだよ。多くの人がバナナブレッド作りやTikTokの動画に夢中になる中、僕は漫画づくりに没頭してたってことだね (笑)

ワカペディア: 沢山の被害や大きな影響をもたらしたパンデミックだけど、ネガティブなことだけではなかったってことだね!そういえば、日系イギリス人というルーツを持ちながら、このプロジェクトでは特に日本には触れていないけれど、何か理由があるの?

サイモン: もしかしたら、今後は日本に関連した『Who the Bær』の新しい作品を手掛けるかもしれないんだ。今回の展覧会は、僕にとってアペリティーボ(食前酒)の味見のようなものだからね。将来的に、このプロジェクトは新しい形で展開していくと思うよ。

サイモン・フジワラ Who the Bær

ワカペディア: 日本に関連した作品だなんて、すごい楽しみ!

サイモン: もしかしたら、将来は日本を代表するマスコットのようなものになって、色んな国際競技場や展示会で見かけることになるかもね (笑)

ワカペディア: 期待しながら待ってます!(笑)

楽しかったフジワラ氏とのインタビューがあっという間に終わり、いつものようにiPhoneを取り出したワカペディア。何気なくインスタグラムを開き、並ぶハートマークに目を通していた頃、柔らかな曲線とテクスチャーで描き上げられた、主人公のクマを思い出した。そうだ、あれは確かに、アーティスト自らが長年苦しんで来た「自分は誰なのか」という究極的な問いへの、究極的に優しい答えだったんだ。

クリックして前編を読む

イタリアの情報が満載のメールマガジン登録はこちらをクリック
-image