FEATURE
ART & DESIGN 05 Feb 2019

マルケ州にある小さな村の陶工房〜古き時代の道具と歴史が育んだ佇まい


皆さん、こんにちは。
私の住む中部イタリアの村は今一面の雪景色、まだまだ寒い日の続きそうなイタリアですが、そんな日でも心踊る美しい色の素朴な陶器で、温かいお料理を頂くのが私の楽しみの1つです。
素朴なテッラコッタの食器や色鮮やかな顔料で絵付けされたマヨリカ焼きは、イタリア各地で見られます。日本で言えば、民芸の焼き物に近い釉がけされたテッラコッタ類。食器だけではなく、昔の人々の生活には欠かせない水差しやチーズを作る型、ワインピッチャーなど沢山の雑器が昔からイタリア各地で生産されていました。

陶芸家でもある私、作るのはもちろん見るのも大好き、今まで沢山の陶器の工房を訪ねてきましたが、今日は私の中でのとっておきの工房をご紹介しようと思います。

時の止まった陶器の工房、チェラミカ ブオッツイ

pottery studio

ペルージャからアドレア海側へ160キロ、マルケ州南部の小さな村、モントットーネ。
国立自然公園でもあるシッビリーニ山の麓からも近く、丘の多い緑美しい地域です。

住人が1000人にも満たないこのモントットーネ村に、マルケ州では知る人ぞ知る陶器の工房が、村の外れにひっそりとあるのです。

pottery studio
所狭しと陶器が並ぶスペースがお客さんを迎えてくれる

ボッツイというちょっと面白い響きのこの名は工房を代々引き継いできた家系の名前。
現在はアンナマリア(姉)さんとエマヌエレ(弟)さんで6代目、150年も続いてきた工房だとアンナマリアさんにお聞きして歴史の深さを感じました。
古い建物は工房と住宅が合体したもので、一階には大きな薪で焚く窯と店舗、二階はろくろ場と釉がけ場、乾燥部屋になっており全体の作りはとてもユニーク。
歴史ある工房にしか宿らない独特の空気が漂っています。

ボッツイ工房作品の何よりの魅力は、土味とその素朴さ

イタリアの焼き物と聞いてすぐに思い浮かぶのは、テッラコッタ。
その名の通り、「焼いた土」、いわゆる素焼きの状態のものが総称してこう呼ばれます。
鉄分を多く含んだ粘土質の土は950℃前後で焼かれるときれいな煉瓦色に変化ます。
この素焼き状態のものに釉を施されたものが陶器。そして、素焼きに白い釉を掛け、さらに上に顔料で絵を施されたものがマヨリカ焼き、という分類になります。

ここボッツイ工房で作られているものの多くは、日用品の陶器。
唐三彩を彷彿とさせる飴色の釉や、深い森のようなグリーンの釉は代々使われてきた顔料の独自の配合から生まれてくる色。
どれも日用品の生活にしっくり馴染む落ち着きのある雰囲気のものばかりで、日本の民芸や用の美にも通ずるものを強く感じ…こんな寒い冬の日にはこの温かみのあるグリーンのお皿でスープを食べたいものだ、などとイマジネーションを掻き立ててくれるんです。

pottery studio

まるで迷路のような空間を、テッラコッタが埋め尽くす

この不思議な空間を楽しむには、店内だけではなく工房そのもの、ろくろの置かれた作業場や所狭しと皿や壺が並べられた乾燥部屋をぐるりと見て回る必要があります。
今では数少ない薪窯のある部屋や煤で真っ黒になった乾燥部屋は埃までもが年代を感じさせて、まるで古い絵画の中に入り込んだよう。
沢山の陶器の工房を訪ねていますが、顔料を摺る古い機械を見たのも、ここが初めてです。

pottery studio
植木鉢を乾燥させている様子

それはもちろんこの建物が1800年代に建てられた古いものである、というのもあるでしょうが歴代の先祖かはたまた焼き物の神様か、なにかが宿っているような…物語を感じさせるちょっとスペシャルな空間である事は間違いありません。
今ではイタリアでもめっきり見られなくなった薪窯。
周りの黒い煤が使われてきた年月を語っていました。

pottery studio
マルケ州の古くからある陶工房6代目アンナマリア(姉)さんとエマヌエレ(弟)さん二人三脚の工房

時と共に消えゆく生活道具

お話を聞けばここモントットーネは、その昔粘土質の土地を活かし多くの陶工が軒を連ねていた焼き物の村だったそう。
20軒近くあった焼き物工房が今では2軒。畑に水を運ぶためのブロッカという壺形の陶器を頭に乗せて水を畑に運ぶ女性の姿は、戦後までは普通に見られた光景だったけれども、時代と共に生活も道具も変わっていく。
陶器の洗面器で顔を洗う人も消え、ヤギの乳を絞り家庭でチーズを作るための型も必要なくなり、
手作りの道具たちは、もはや美術館や博物館に展示されるものに役割を変えつつあります。

けれどもボッツイ工房へ行けば、そんな時代の道具の魅力とノスタルジーだけではなく現代でも魅力あるものとして出会うことが出来ます。
エマヌエレが、不思議な形の陶器を手に取り”これは1700年代に使われていた道具、これは…”と嬉しそうに説明してくれると、その姿に本当にこの仕事を大切に思っているのだな~というのがひしひしと伝わって来て…まるでここだけ時間が止まり、その時代に飴色のこの陶器達を生活道具として使っている自分をふと脳裏に見たような不思議な気持ちになれるのです。

pottery studio

この本は、ボッツイ家の工房の歴史を辿って制作された本ですが、1800年代の終わりにメルカート(野外で開かれるマーケット)で焼き物を売っている様子が載っていて当時の様子がうかがえます。
帰り道、通り雨に濡れた路地を歩きながら、今度はどんな焼き物と会えるのかな、とわくわくしながらまたこの工房を訪ねてゆく日を思って、車に乗り込みました。

チェラミカ ボッツイ (Ceramica Bozzi)

Via Circonvallazione 6 Montottone(FM) ITALY
Mail: labottegadeivasai1851@gmail.com
Tel: (39)393 8869666 or (39)338 3489879

WRITER PROFILE
林由紀子

マルケ州、ウルビーノ近郊のカーイ(Cagli)在住。1999年渡伊、ファエンツァの国立美術陶芸学校の陶彫刻科を卒業後、現代美術アーティストBertozzi&Casoniのもとでアシスタントとして12年に渡ってコラボする。2003年にマルケ在住のイタリア人と結婚したのをきっかけに、マルケ州の郷土料理や工芸、美術文化に強く惹かれ、自らも陶芸家として活動する中、ウルビーノを中心とするマルケ北部や県境近郊の食文化、美術工芸文化を発信する(ラファエロの丘から)を立ち上げ、現地アテンドや料理教室、工芸体験などのオーガナイスや、ウルビーノを紹介する記事などを執筆。http://www.collinediraffaello.it/