ヴェネツィアとウィーンで暮らし、ヴィジュアルアーティストでありヴァイオリニストとしても活躍するバルバラ・ルイージ。日本では7年ぶりとなる個展「Il Flusso Permanente ―A constant flow」が、日本橋小伝馬町のRoonee 247 fine artsで開催されています。
イタリア文化会館に響いたアートな音色
ガエ・アウレンティが設計・デザインを手がけたイタリア文化会館のアニェッリホールは、革張りのシートがスタイリッシュで美しい空間。舞台に姿を現したバルバラ・ルイージがJ.S.バッハの「サラバンド」を奏でると、詰めかけた観客たちは一瞬にしてその音色に魅了されました。

今回のイベントは、ビジュアルアーティストでありヴァイオリニストとしても活躍するバルバラ・ルイージの個展「Il Flusso Permanente – A constant flow」の開催にあたって企画されたもの。バルバラの作品の多くには「時の流れ」というテーマがみられ、透けるシルクを使った今回の作品は、絶えず揺れ動き、一瞬ごとにその表情を変えていきます。
展覧会で紹介する作品の映像上映とともにヴァイオリン演奏を披露することによって、時間の流れがさまざまな感覚に訴えかけることを繊細に表現するバルバラ。演奏の合間には、Roonee 247 fine artsのディレクター、杉守加奈子氏が作品に対する理解を深める解説を行いました。

数千年の時を超えて響く言葉
冒頭では、「時間は世界の性質を変える。一つの状態が別の状態へと移り変わり、宇宙全体に情報を与え、同じものは何ひとつない。すべてが変化し、自然はすべてを変え、変化を強いる」という、紀元前の詩人ルクレティウスの言葉が紹介されました。
「Dissolution 溶解」と題されたシリーズは、まさにこの言葉を象徴するような作品であり、紀元前の詩人ヴェリギリウスの「アエネイス」に登場する3人の人物がモチーフとなっています。時の流れの中で変化し、自然と一体となり、やがて消滅していく美。自然の中に溶け込む人の姿は、時そのものを物語っているかのようです。

さらに、バルバラの友人でもある作曲家、コンスタンティア・グルジ「新しい世界のための9つの子守歌」、ジュゼッペ・タルティーニのヴァイオリンソナタ ト短調「捨てられたディド」が奏でられたイタリア文化会館での一夜。「バルバラにとって、音楽と造形は分かち難く結びついている」と杉守氏は語りました。
移りゆく儚い美をシルクに映すアート
日本橋小伝馬町にあるRoonee 247 fine artsでは、現在、Il Flusso Permanente – A constant flow」を開催中。ギャラリーを訪れた人は、アーティストが奏でる音楽に包まれながら、その作品世界にひたれます。

バルバラ自らが壁面に吊るした「Dissolution 溶解」のバーを動かすと、作品ごしに向こう側が透けて見えてその姿と重なり、さらに溶けていくような儚い美しさに感動を覚えました。

自然と溶け合う身体の変化を表現するバルバラ・ルイージ。薔薇に自らの血液を混ぜてドローイングを施した作品も、圧倒的な存在感を放ちます。ギャラリーを訪れた人の中には、この作品に釘付けになった人も多いと伺いました。

人生における愛と美に隠された棘
「A bed of roses 薔薇のベッド」は、 薔薇の生涯のすべての段階を表現した作品。私たちが薔薇=美しさと愛情の上で眠っていることの象徴ですが、薔薇に棘があるように、私たちの生涯にも、幸せの中にも苦悩や哀しみが存在することを感じさせます。


スペースの都合上、ギャラリーでは全貌を見せることができない「薔薇のベッド」。その代わりに、ヘッド部分の布が立ち上がる様子がまるで天に向かって昇っていくように見えて、この場所ならではのインスタレーションになっています。

時の流れを自らに重ねるアート体験
「すべては変化し、私たちは一生の間に、自分の周囲、自分自身や自分の体に直接、多くの変化を経験します。自然はこれらすべての変化を反映し、夢はそれらを発見するのに役立ちます」と語るバルバラ・ルイージ。
アートと音楽が出会うイベントに参加した観客、ギャラリーを訪れた人々にも、日々変化が訪れることを実感させ、「今と向き合うことの大切さ」を想うきっかけとなりました。
Barbara Luisi
Il Flusso Permanente – A constant flow
会期:6月28日(土)まで 12:00-19:00
(月曜休廊 最終日16:00まで)

Barbara Luisi バルバラ・ルイージ
イタリアとオーストリアにルーツもつヴィジュアルアーティスト、ヴァイオリニスト。
ミュンヘン出身で、10年間のニューヨーク滞在後、現在はヴェネツィアとウィーンに暮らす。彼女の作品は、自然と人間の身体に対する詩的な視点を示している。これまで世界各地のギャラリーや美術館で展覧会を開催し、その作品は多くの美術館や個人コレクションに収蔵されている。
ヴァイオリニストとしては、バイエルン国立歌劇場管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル管弦楽団で活躍した後、現在は写真と並行してソロ活動に力を入れている。
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