移りゆく時や光の変化で、刻々と美しさが変幻していく鉄とガラスのアート。東京・白金台、アール・デコの装飾が美しい旧朝香宮邸で、現代美術の第一線で活躍する二人の作家の展覧会が開催されています。「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」では、青木野枝による鉄の彫刻とムラーノ島で創造される三嶋りつ惠のガラスという、まったく個性の異なる素材の作品によって、歴史ある空間が新しい光に満たされる唯一無二の瞬間を体験できます。
旧朝香宮邸を舞台に、時を超えて響き合うアート
庭園美術館本館の最初の住人である朝香宮夫妻は、フランスで目にしたアール・デコの様式美に魅了され、その精華を取り入れた自邸を1933年に完成させました。朝香宮允子妃殿下自ら下絵を描いたラジエーターカバーなど、ヨーロッパの最先端文化に触れたおふたりならではのセンスあふれる邸宅は、日本の洋館の中でも屈指の美しさで訪れた人を別世界へと誘います。
各室ごとにさまざまな素材を用いた装飾性ゆたかな旧朝香宮邸の空間で、アール・デコの造形のエッセンスを雄弁に物語るのが、鉄とガラスという二つの素材。フランスのアーティスト、ルネ・ラリックやレイモン・シュブらが手がけた歴史的な装飾空間に、青木野枝の鉄と三嶋りつ惠のガラスの作品が作家自身の手によって配置され、時を超えた特別な共演が実現しました。
二人が使用する「鉄」と「ガラス」という素材は、悠久の時を経て今日に伝えられた自然の恵みであると同時に、会場である旧朝香宮邸を彩る装飾として、シャンデリアやレリーフ、扉上のタンパン等にも多用されています。二人は幾度となくこの場所を訪れ、1930年代の装飾空間との対話を重ね、一期一会の展示プランを創り上げました。
ともに創作に火を用い、熱く輝く炎によって素材に生命を吹き込んできた青木野枝と三嶋りつ惠。そのプリミティブな力を宿したフォルムは、自然のもつエネルギーや循環を想起させ、見る者に驚きと気づきをもたらし、私たちを取り巻く世界を新たな光で包み込みます。
ムラーノ島で創られる無色透明のガラス
「私のガラスは無色透明です。そして周りの光や色を捉えて解き放つのです。」と語る三嶋りつ惠は、1962年京都に生まれ、1989年からヴェネツィアに移住。 2011年より京都にも住まいを構え、イタリアと日本の二拠点生活を送るアーティストです。
14世紀から17世紀にかけて栄華を極め、20世紀に入って復活を遂げたヴェネツィア・ムラーノ島のガラス工芸は、千年にわたり、いまなおマエストロの技を代々受け継ぐ形で伝わっています。ヴェネツィア・ムラーノ島において、工房のガラス職人とのコラボレーションにより作品を制作する三嶋は、無色透明なガラスにこだわり、光の輪郭を描き出す有機的なフォルムの作品を生み出してきました。
ヴェネツィアの国立パラッツォ・グリマーニ美術館など伝統ある古い建造物の中で作品を展示することも多く、空間の特性を意識したインスタレーションで高い評価を受けています。三嶋の作品は、そこに存在する場のエネルギーを汲み取り、それをガラスのフォルムや輝きによって増幅させ、周囲の空気を一変させる力を備えています。
都内では、COREDO室町テラスの吹き抜け空間などにガラス作品を常設。2010年の「Frozen Garden / Fruits of Fire」ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館(ロッテルダム)、2022年の「RITSUE MISHIMA – GLASS WORKS」国立アカデミア美術館(ヴェネツィア)など、海外の展覧会でも大きな反響を呼んでいるアーティストです。
流れる時と光で変化するガラスの美しさ
三嶋は、私たちの身の周りにあふれる光の表情に心を寄せて、自身のガラス作品を通して「光の輪郭」を描き出そうと試みてきました。光に思いを馳せて生み出された作品が、アール・デコの装飾を凝らした旧朝香宮邸という特別な空間に広がります。
朝のまぶしい陽射し、昼間のぬくもりを感じる陽光、夕暮れの穏やかな光と室内の灯り、日没後に灯る照明。アンリ・ラパンの描いた壁画のある部屋に展示された《宇宙の雫》は、一日の中でも、光の変化でまったく違う表情を見せる繊細なガラスのアート。筆者が訪れた時間は黄昏時だったのですが、初めはローズ色を帯びた透明感のあるガラスに見えた作品が、日没後に再び訪れると、まるでメタルのような冷たい輝きを纏い、ちょっと恐しいほどの幻想的な美しさに驚きました。
建物自体がアートの瀟酒な館で、鉄とガラスが描き出す光のアートと出会ってみませんか。
そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠
会期:2月16日(日)まで
時間:10:00-18:00(入館は閉館の30分前まで)
※1月22日(水)・29日(水)はフラットデー開催のため無料・割引対象者以外は要事前予約
休館日:毎週月曜日 ※ただし1月13日(月・祝)は開館、1月14日(火)は休館
会場:東京都庭園美術館 本館+新館
観覧料:一般1,400(1,120)円/大学生(専修・各種専門学校含む)1,120(890)円/中・高校生700(560)円/65歳以上700(560)円 ( )内は20名以上の団体料金
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