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むかし懐かしの日本アニメセル画展「Anime: Ricordi d’infanzia」レポート

前編では、展覧会のキュレーターであるアレッサンドロさんが、日本のアニメに恋に落ちたきっかけや、日本アニメに対するイタリア社会の反応、イタリアで日本文化がどのように捉えられているのか、をご紹介しました。今回の後編では、展覧会の様子をご紹介します!


日本アニメはなぜイタリアで愛される?セル画コレクター、アレッサンドロ・カヴァッツァが語る魅力
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日本アニメはなぜイタリアで愛される?セル画コレクター、アレッサンドロ・カヴァッツァが語る魅力

須飼 真理 / 2022.07.14


テレビの前でアニメを待ち望んでいた頃にタイムスリップ

今回、会場を埋め尽くしたのは、アレッサンドロさんが所有する600点以上のコレクションの中から厳選された95点。若干、複製やファンアート(ファンによって描かれたイラスト)もありましたが、ほとんどの作品がオリジナルでした。展覧会場には、懐かしのテーマソングや映像が流れていて、一気にブラウン管テレビの前にかじりついていた幼少期にハートを引き戻してくれました。


まず、イタリアに最初に入ってきた日本アニメということで、アレッサンドロさんが紹介してくれたのがこちらの作品たちです。


展覧会「Anime: Ricordi d'infanzia」風景(撮影:須飼真理)
展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」風景(撮影:須飼真理)

1つ目は、1974年にイタリアで放映された日仏合作の『バーバパパ(Barbapapà)』。フランスの漫画ですが、アニメ化したのは日本なのだそう。次に『小さなバイキング(Vicky il vichingo)』。スウェーデン人作家の物語を日独合作で1974年に制作したアニメで、イタリアには1976年に入ってきました。そして、1978年には、『ハイジ(Haidi)』や『ゴールドレイク』がやってきて、松本零士さんの『惑星ロボ ダンガードA(Danguard)』が続きました。


自分が子どもの頃に大好きだった『キャッツ・アイ(Occhi di gatto)』のセル画もオリジナルと聞き、瞬時にテーマソングが口から飛び出してきます!


展覧会「Anime: Ricordi d'infanzia」より『キャッツアイ(右)』(撮影:須飼真理)
展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『キャッツアイ(右)』(撮影:須飼真理)

日本アニメーション「世界名作劇場」

続いて、目に飛び込んできたのは、80年代日本アニメの特徴の一つとしてあげられる「世界名作劇場」の作品たち。日本アニメーションが、世界の著名な小説をアニメ化し、フジテレビ系列で毎週日曜日の夜に放送されていたものです。


展覧会「Anime: Ricordi d'infanzia」より『世界名作劇場』の作品(撮影:須飼真理)
展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『世界名作劇場』の作品(撮影:須飼真理)
  • 『赤毛のアン(Anna dai capelli rossi)』
  • 『愛少女ポリアンナ物語(Pollyanna)』
  • 『母をたずねて三千里(Marco dagli Appennini alle Ande)』
  • 『トム・ソーヤーの冒険(Tom Story)』
  • 『ふしぎな島のフローネ(Flo la piccola Robinson)』

幼少期の生活を豊かにしてくれていたテレビアニメの原画たちに、何十年もの時を超え、日本から遠く離れたイタリアのボローニャで出会える奇跡に感動してしまいました。きっと、葛飾北斎の版画を、ヨーロッパのコレクターのところで見た日本人たちも、同じような気持ちになったのだろうな、と想像します。


『宇宙海賊キャプテンハーロック』

松本零士さんによる『宇宙海賊キャプテンハーロック』(Space Pirate Captain Herlock)も、イタリアで大変人気のあるアニメです。


展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『宇宙海賊キャプテンハーロック』(撮影:須飼真理)

今回の展覧会では、ハーロックが宇宙海賊になってからのセル画に加え、興味深い作品がいくつかありました。1つ目が、緑のアルカディア号です。


展覧会「Anime: Ricordi d'infanzia」より『宇宙海賊キャプテンハーロック』のアルカディア号(撮影:須飼真理)
展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『宇宙海賊キャプテンハーロック』のアルカディア号(撮影:須飼真理)

キャプテンハーロックが乗船しているアルカディア号は、最初のシリーズではブルーでしたが、このセル画では第二シリーズで使用されていた緑色になっています。しかし、アルカディア号の形は第一シリーズのもの。背景が青だから、色を際立たせるために緑に塗ったのでは?という憶測もありますが、展覧会を訪れた松本零士協会(Associazione Culturale Leiji Matsumoto)の方達でさえ謎は解けなかったといいます。もし、ご存知の方がいらしたら、是非教えていただけるとアレッサンドロさんも嬉しいと思います!


そして『わが青春のアルカディア(Capitan Harlock – L’Arcadia della mia giovinezza)』のキャプテンハーロックのセル画です。


展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『我が青春のアルカディア』のキャプテンハーロック(撮影:須飼真理)

『宇宙海賊キャプテンハーロック』では、頭蓋骨が描かれた黒のユニフォームを着ていますが、海賊になる前、地球のために働いていた時代には、こちらの赤のユニフォームを着ていたのだそうです。ファンの方なら、この貴重さがよくおわかりになるのではないでしょうか?


『紅の豚』の主人公の名前

今回「これ話を知ることができただけでも、展覧会に足を運んだ価値があった!」と思った話を一つご紹介します。それは、宮崎駿さんの「紅の豚」の登場人物の名前に関する秘話です。


イタリアアニメ制作のパイオニアPagot Film(パゴット・フィルム)は、1938年、Nino Pagot(ニーノ・パゴット。本名:Giovanni Pagotto)と、13歳年の離れた弟のToni(トニ。本名:Antonio Pagotto)によって設立されました。


ニーノ・パゴットと、弟のトニ
ニーノ・パゴット(左)と、弟のトニ(右)

1970年以降は、ニーノさんのお子さん、Marco(マルコ)さんとGina(ジーナ)さんもアニメ制作に加わります。1980年代に、Rai(イタリアの公共放送局)と、宮崎駿さんがディレクションを務めていた日本のアニメ制作会社とのコラボによって作られた『名探偵ホームズ(Il fiuto di Sherlock Holmes)』では、マルコさんとジーナさんがキャラクターデザインを担当し、宮崎駿さんと深い友情を育みました。


展覧会「Anime: Ricordi d'infanzia」より『名探偵ホームズ』のカットされたイラスト。アレッサンドロさん曰く、色付けされてないカットされたものが残っているのは大変珍しいのだそう。(撮影:須飼真理)
展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『名探偵ホームズ』のカットされたイラスト。アレッサンドロさん曰く、色付けされてないカットされたものが残っているのは大変珍しいのだそう。(撮影:須飼真理)

そして、1990年代、宮崎駿さんはイタリアを舞台とした映画『紅の豚(Porco Rosso)』を制作します。


展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『紅の豚』(撮影:須飼真理)

この映画の主人公の名前は「ポルコ・ロッソ」として知られていますが、実は、ブダになる前の本名は「マルコ・パゴット」。そして、マルコの幼馴染で、物語のマドンナの名前は「ジーナ」。そう!もう勘のいい方はお気づきですよね。宮崎駿さんは、『紅の豚』の登場人物の名前に『名探偵ホームズ』でコラボレーションしたパゴット兄妹の名前をつけたのです!! こんなところに、日本とイタリアをつなぐ友情が反映されていたなんて、とっても素敵なお話ですよね!


イタリアで有名な日本の作家やアニメーターたち

会場には、イタリアで有名な日本の作家やアニメーターについてのパネルもありました。どんな方のお名前があがっていたかを、代表作のタイトル(日本語とイタリア語)と一緒にご紹介します。


展覧会「Anime: Ricordi d'infanzia」より『未来少年コナン』と『鉄腕アトム』(撮影:須飼真理)
展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『未来少年コナン』と『鉄腕アトム』(撮影:須飼真理)
  • 松本零士さん:『銀河鉄道999(Galaxy Express 999)』『宇宙海賊キャプテンハーロック(Space Pirate Capitan Harlock)』
  • 宮崎駿さん:『ルパン三世 カリオストロの城(Lupin III – Il castello di Cagliostro)』『アルプスの少女ハイジ(Heidi)』『風の谷のナウシカ(Nausiccä della Valle del Vento della Valle del Vento)』『千と千尋の神隠し(La città incantata)』
  • 手塚治虫さん:『鉄腕アトム(Astro Boy)』『リボンの騎士(La principessa Zaffiro)』
  • 永井豪さん:『UFOロボ グレンダイザー(UFO Robot Goldrake)』『マジンガーZ(Mazinga Z)』『グレートマジンガー(Il Grande Mazinga)』
  • 荒木伸吾さん(キャラクターデザイン):『聖闘士星矢(I Cavalieri dello zodiaco)』『キューティーハニー(Cutie Honey)』『魔女っ子メグちゃん(Bia – La sfida della magia)』
  • いがらしゆみこ『キャンディ♡キャンディ(Candy Candy)』『ジョージィ!(Georgie!)』

日本のアニメは、海外では別のタイトルや登場人物の名前が変わっていたり、テーマソングもオリジナルに変更されていたりすることが多々あります。イタリアのテーマソングがどんなふうになっているのか、タイトルを手がかりに調べて聞いてみると面白いかもしれません!


Spotifyで「絶対聞きたい日本製アニメのイタリア版」プレイリスト配信開始!
CULTURE

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よしおアントニオ / 2020.07.31


来場者の感想

--来場者の方々の感想はどうですか?


皆さん、大変満足されています。


展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」のビジターノートより(撮影:須飼真理)

「『キャンディ♡キャンディ(Candy Candy)』を見たから、私は看護師になったのよ」と、セル画の前で興奮気味に語ってくれた女性もいました。


展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」より『キャンディ♡キャンディ』(撮影:須飼真理)

また、「自分のクラスメートに、両親が『未来少年コナン』が大好きだったから「ラナ」と名付けられた子がいたわ」と語ってくれた人もいます。様々な人の人生に、日本のアニメが影響を与えていることを感じられる機会でしたね。


おわりに

--初めての展覧会の感想を教えてください。


当初の予想を上回り、多くの方がご来場くださっています。今、『ポケモン』や『ドラえもん』を見ながら育っている6歳くらいの子供たちから、『ゴールドレイク』を白黒で見ていた50代前後の世代まで、幅広い世代の皆さんに楽しんでいただけました。


また、RaiのTG3(イタリアの公共放送局Raiの地方版ニュース番組)も取材に来てくださって大成功したと思っています。


--今後はどのような活動をお考えですか?


今回、多くの方が大変喜んでくださいましたし、展覧会に足を運んでくださった様々な人と知り合うことができたので、今後、面白い展開ができるのではないかと思っています。ボローニャの企業とコラボして、コレクションのカタログを作ったり、僕以外の日本アニメのセル画コレクターと協力して、もっと大きな展覧会を企画するというアイデアもあります。


展覧会「Anime: Ricordi d’infanzia」よりイタリア未公開作品の『機動戦士ガンダムΖΖ』(撮影:須飼真理)

イタリアで未公開の作品などのセクションを設けての展示も面白いだろうなと思います。海外からの観光客が展覧会を訪問してくれたら「懐かしい」と思っていただける作品もあるでしょうしね! 在イタリア日本大使館などと一緒に何かできると、とっても素敵ですよね。夢はどんどん広がります!


今回、日本のアニメ文化を、イタリアのアレッサンドロさんから色々と教えてもらいながら、昔話にもいっぱい花が咲きました!「昔はビデオなんてなかったから、番組を見逃したら次の日学校で友達にどんな内容だったか教えてもらっていましたね!」とか、「テレビの上に立てるアンテナとかありましたよね!」とか、初めてお会いしたのにも関わらず、とっても楽しい時間を過ごさせていただきました。次回の企画が、今から待ち遠しいです。


この記事を読んで、少しでも私と同じような気持ちになった方がいてくださったら嬉しいです!