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白トリュフ香る トスカーナの秋祭り

大矢 麻里 Mari Oya

2026.10.15

秋のトスカーナにおける食の楽しみは、ワインやオリーブオイルだけではありません。キノコも、季節ならではの心躍る味覚のひとつ。なかでも、芳醇な香りで知られる白トリュフは食卓を彩る特別な存在です。今回は、その名産地、ピサ県のサン・ミニアートを巡ります。


芳醇な香りに誘われて

フィレンツェから約50km、ピサから約40kmのサン・ミニアート。両都市からの日帰り旅に組み込みやすいこの町では毎年11月、「白トリュフ祭り」(2026年の会期は文末参照)が開催されています。


サン・ミニアートの白トリュフ祭り
サン・ミニアートの旧市街。白トリュフ祭りのテントが並びます。以下の写真は、2025年開催時の様子

期間中、丘の上の旧市街には100を超える出展者が屋台を連ね、トリュフそのものから、トリュフを使ったチーズやサラミ、オリーブオイルまでが揃います。多くの店では試食もできるので、気になるものを味わいながら、お気に入りを探すのも祭りならではの醍醐味です。


トリュフを練り込んだサラミやソーセージ、チーズ
トリュフを練り込んだサラミやソーセージ、チーズも
ゴルゴンゾーラ・チーズ×トリュフ
ゴルゴンゾーラ・チーズ×トリュフ!これはもう反則級のおいしさです
オリーブオイル工房「フラントイオ・サンミニアテーゼ」のクラウディオさん
オリーブオイル工房「フラントイオ・サンミニアテーゼ(Frantoio Sanminiatese)」のクラウディオさん。トリュフ風味やレモン風味など、個性豊かな商品が揃います
オイルを数滴垂らしした試食用パン
パンにオイルを数滴垂らして試食。ひと切れでは、とても足りないおいしさです

その場で茹でたパスタを販売するテントも。トリュフ風味のひと皿からふわりと立ち上る香りを楽しみながら、できたてを味わえます。


老舗パスタ工房「パスタ・モレッリ」のブース
1860年創業の老舗パスタ工房「パスタ・モレッリ(Pasta Morelli)」のブースにて。中央は創業家5代目のアントニオさん
サルデーニャ島の粒状パスタ「フレーグラ」
サルデーニャ島の粒状パスタ「フレーグラ」に、とろりとしたポーチドエッグをのせ、トリュフの香りを添えて

森の恵みから、町の名物へ

サン・ミニアートには、こんな古い言い伝えが残っています。「一帯には、フィレンツェやピサにも負けないほど価値のある“美しいマルゲリータ”がある」。マルゲリータとは、イタリア語でマーガレットの花のこと。地中に隠された貴重な宝物を、美しい花の名前で表したもので、この「美しいマルゲリータ」こそが、白トリュフを指していたのではないかと考えられています。


実際には、いつからトリュフが採られていたのでしょうか。記録が残るのは、19世紀末からです。当時、エミリア=ロマーニャ地方などから農作業に来た季節労働者のなかには、故郷ですでにトリュフ採りをしていた人たちがいました。サン・ミニアートでも豊富に採れると彼らが気づいたことが、トリュフ産業のきっかけのひとつとされています。


トリュフハンターと相棒のトリュフ犬をかたどった銅像
トリュフハンターと相棒のトリュフ犬をかたどった銅像
旧市街にあるトリュフ博物館「MuTart」
旧市街にあるトリュフ博物館「MuTart」。採取の様子を映像で学ぶことができます

4代続くトリュフ愛

20世紀に入ると、サン・ミニアートのトリュフは自家消費されるものから、次第に商品として流通するものへと変わっていきます。まさにそうした歴史を辿ったのが、老舗トリュフ商「ガッザッリーニ・タルトゥーフィ(Gazzarrini Tartufi)」です。


創業4代目のマッティアさんは「私の曽祖父エウジェニオは、1900年代初頭から地元の白トリュフをイタリア各地へ出荷していました。つまり私たちの家族は、120年以上にわたって携わってきたのです」と語ります。


マッティアさん自身も「幼い頃からトリュフの香りを嗅いで育ちました」と振り返ります。そう話しながら彼は、白トリュフをガラスのドームから取り出しました。その手つきは、まるで宝石商のように優しく丁寧そのもの。


私がそっと鼻を近づけると、最初に感じたのは硫黄や生にんにくを思わせる刺激的な香りでした。ところが、まもなく驚くほど優美で華やかなアロマがゆっくりと広がっていきます。その様子を見たマッティアさんの顔には、「ほらね」と言わんばかりの誇らしげな笑みが浮かびました。


いっぽう、気候変動はトリュフの生育にも影響を及ぼしているといいます。「以前は9月初旬に始まっていた採取シーズンが、近年は約1か月遅くなりました。夏に雨が降り、その後、秋らしい気温になることがトリュフの成長には大切です。暑すぎると生育が難しくなってしまうのです。このままでは、将来トリュフが採れなくなるのではないかと心配しています」


ガッザッリーニ創業家4代目のマッティアさん、バルバラさん、そしてベネデッタさん
 「ぜひ香りを楽しんでいって!」。左からガッザッリーニ創業家4代目のマッティアさん、バルバラさん、そしてベネデッタさん

トリュフ探しの名パートナー

白トリュフは地中で育つため、目で見て探すことはできません。そこで頼りになるのが、優れた嗅覚を持つトリュフ犬です。「タルトゥーフィ・ナッチ(Tartufi Nacci)」では、その頼もしい相棒について話を聞くことができました。


彼らによると、トリュフ犬として最も活躍するのが、ラゴット・ロマニョーロという犬種とのこと。子犬の頃からトリュフの香りを覚えたり、森で人と一緒に探したりする訓練を受けます。成長には個体差があるものの、1歳半頃になると自分で見つけられるようになり、6〜7歳頃には一人前になります。そうした過程を経るなかで、人と犬との間には、言葉を超えた信頼関係も築かれていくのだとか。


タルトゥーフィ・ナッチでは、犬を連れたプロハンターと森へ入り、トリュフ探しを体験するツアーも企画しています。犬が見つけ出す瞬間を間近で見られるのは、産地ならではの貴重な体験です。


収穫した白トリュフ
2025年の取材時に聞いた白トリュフの価格は1kgあたり約2500〜3500ユーロ(その時点の日本円換算で約45〜63万円)
「タルトゥーフィ・ナッチ」のブース。
「タルトゥーフィ・ナッチ」のブース。白トリュフ・黒トリュフをはじめ、それらを使ったソース、オイル、チーズなども販売しています

何代にもわたって“地中のマーガレット”探しに携わってきた家族と接することができるサン・ミニアートの秋。そこには高級レストランで味わうのとは異なったトリュフの愉しみがあるのです。


「白トリュフ祭り 2026」のポスター

INFORMATION|第55回サン・ミニアート 白トリュフ祭り
開催期間:2026年11月14・15日、21・22日、28・29日
公式ウェブサイト:https://www.sanminiatopromozione.it/

期間中、会場周辺は車両進入不可。郊外の臨時駐車場からシャトルバスを利用のこと。