遥か二千年以上前の女性たちを華やかに彩ったエトルリアのジュエリー。古代人と同じ製法によるアクサセリーを、それも彼らが住んだ町で続けている工房を訪ねました。
丘の上に広がる古代都市
ピサ県にあるヴォルテッラは、海抜約530メートルの丘に築かれた古代エトルリアの面影を残す町です。Volterraの名は「Volare(飛ぶ)」と「Terra(大地)」に由来するといわれ、まるで風に舞う大地が積み重なってできたかのような壮大な景観で人々を迎えます。

現在のトスカーナ地方にはローマ帝国成立以前、エトルリア人と呼ばれる民族が暮らしていました。彼らは銅や錫、鉄といった豊かな地下資源を活かすとともに、地中海交易で繁栄を築きます。ヴォルテッラは紀元前8世紀から5世紀にかけて、その中心的な都市として栄えました。今日も周辺に残る遺跡や博物館では、彼らの生活の痕跡を見ることができます。


若き日の挑戦と情熱
エトルリア人は洗練された美意識をもち、宝飾品加工においても優れた技を発揮していましたが、文字が未だ完全には解読されていないこともあり、多くの謎が残されています。
そうしたなかで彼らが残した技術の再現を試みているのが、ヴォルテッラ旧市街の彫金工房「ファブラエトルスカ Fabraetrusca」です。製作に携わる職人のひとり、ルカさんに話を聞きました。

「今から40年以上前、ヴォルテッラ国立芸術学校の宝飾科を卒業したての私たちは、教師2名とともに工房を立ち上げることを決めました。目標はエトルリア時代のデザインに着想を得たジュエリーを製作することでした」
しかし第一歩は、ものづくりではありませんでした。地元の信用金庫に計画を提示して融資交渉し、開業資金を確保するという、学校を出たばかりの若者には大きな挑戦からでした。エトルリア・ジュエリーの復刻は、それだけ先人が少ない領域だったのです。しかし「自分たちの情熱を実現できる環境を手に入れたいという望みが強い原動力となりました」とルカさんは振り返ります。

エトルリアジュエリーの美とは
エトルリア時代のジュエリーは、その技術的起源とされるギリシアの金細工と比較して、どのような特徴がありますか? 「エトルリア宝飾が際立つ理由は、何よりもその精巧な技術と、身に着けたときに生まれる優雅な美しさにあります。繊細に作り込まれた装飾は、単なる装身具にとどまらず、女性の気品や存在感を引き立てるものでした」


エトルリア社会における女性の地位は、他の古代文明と比較しても非常に高かったとされています。彼女たちは豊かな人生を謳歌するとともに、家族内の決定事項や宗教儀式、さらには公共に関する事柄にも積極的に参加していました。
「女性たちは常に優雅に装い、衆目を引くことを目指していました。その魅力を鮮やかに際立たせたのが、粒金細工(グラニュレーション)と呼ばれる技法を施した装身具です。粒状の表面が光を乱反射することで、華やかさと存在感が一層強調されました」
粒金細工は、ごく小さい金の粒を緻密に配置して文様を描くもので、ギリシャにはみられないテクニックです。「技術的ルーツはフェニキアの金細工と考えられています。民族が交わるなかでエトルリアの地にも職人によって伝えられました。そしてヴォルテッラで大きく発展したのです」




古代人と同じ手の動き
「エトルリアの宝飾を忠実に再現することは、挑戦であると同時に大きな喜びでもあります」
というルカさん。こんなエピソードも披露してくれました。「あまりにも精巧に作られているため、本物の古代作品だと勘違いするお客様もいらっしゃいました!」
ヴォルテッラの地そのものも、活動を支える大きな要素です。地域では遺跡が今もたびたび出土し、博物館では遺品を間近で観察できるためです。インターネットや書籍ではなく実物を間近で見られる環境こそが、彼らに深いインスピレーションを与え続けています。
バーナーなど近代的な工具が無い時代、エトルリア人がどのように均一の粒の粒金細工をしていたかは現代の科学をもってしても謎とされています。それでもルカさんは「復刻しただけでも大きな成果といえます」と胸を張ります。

ルカさんと仲間たちは、古代の忠実な再現のかたわらで、独自のデザインにも挑戦しています。「エトルリア様式から逸脱しないようにしながら、新たな素材との調和を目指しています」。そうしたアイテムはエトルリア風デザインをベースにしながら唯一無二のデザインであることに価値を見出す顧客に人気とのこと。

芸術学校宝飾科や外国人の学生も研修生として受け入れるなど、後継者育成にも力をいれています。
エトルリアの宝飾技術は、この先百年後、二百年後も受け継がれると思いますか? その質問にルカさんは、こう答えます。「手工芸全体は規模が縮小したとしても、ファッションと結びついた金細工の分野は、今後需要が増えると信じています。日々使うあらゆるものが量産化され、個性を失いがちな現代において、私たちファブラエトルスカの宝飾品は、常に優雅さと唯一無二の個性の象徴であり続けたいと思います」

署名文化が発達するのちの時代とは異なり、エトルリア時代の装身具に作者の名が刻まれることはありませんでした。しかし今日、ルカさんをはじめとするファブラエトルスカの職人たちが金の粒を並べる指先を眺めていると、遥か二千年以上前の名工たちの姿が瞼に浮かんでくるのです。
ファブラエトルスカ https://www.fabulaetrusca.it