Copy link
bookmarked-checked-image

マネスキンを育んだイタリアのイカシタ夏のRock特集!

よしお アントニオ

2021.07.30

平均年齢20歳のイタリアのバンドMåneski(マネスキン)が5月にユーロヴィジョン・ソング・コンテストでイタリアとして31年ぶりの優勝を果たしたことで、一躍世界のメインストリームに躍り出て、久々に英語圏でも英語以外の歌詞の楽曲に注目が集まることとなりました。

<ITALIANITYでのMåneski(マネスキン)紹介記事>
世界で人気急上昇中のバンド「マネスキン(Måneskin)」とは!?
サンレモ音楽祭2021驚愕の結果発表!優勝はロックバンド、マネスキン
もうひとつの人気タレント発掘番組・X Factor
“化粧”をアイデンティティにしたイタリア人ミュージシャン

英語圏が反応したことをトリガーに日本でも話題を集めており、10/13(水)に日本盤が発売されることとなりました!

大ヒットアルバム『テアトロ・ディーラ Vol. I』の日本盤CDが遂にリリース決定! | マネスキン

そこで今回は、マネスキンを育んだイタリアのRock界から、夏にぴったりの楽曲をピックアップして紹介したします。4時間弱に及ぶプレイリストを聴いていれば、あなたの夏は終わらない!

Buon ascolto!(ブオン・アスコルト / 意:聴いてね!)

プレイリスト収録曲詳細

1. Spotifyでもすっかりトップヒット曲となったマネスキンの2021年のサンレモ音楽祭&ユーロヴィジョン優勝曲です。日本語字幕入りMVも公開されています。

2. マネスキンの10/13発売の日本盤アルバムの中で、一番激しいロックサウンドの楽曲。「父の名において」という意味のタイトルが付いていますが、肉親の父ではなく、歌詞の中では“父と子と聖霊の名において”とカトリックの三位一体説の概念が繰り返し歌われています。そして放送禁止用語のオンパレード!日本盤には対訳が付く予定ですのでどのように訳されるかお楽しみに。

3. おそらくマネスキンが登場する道筋を切り開いたのがザ・コロルス(2014~)。彼らもオーディション番組出身です(マネスキンはX Fctor出身、ザ・コロルスはアミーチ出身)。フロントマンのStash(スタッシュ)の豊かな才能(ギター・ピアノなどのマルチプレイヤー)と190cmに迫る高身長&イケメンの風貌が人気を牽引しています。ザ・コロルスはほとんどが英語詞ですが、この楽曲はサンレモ音楽祭2018参加曲なのでイタリア語曲。

<ザ・コロルス紹介記事>
まもなく20周年を迎える若手タレント発掘番組・Amici(アミーチ)

4. ザ・コロルスの2020年発表曲で「本当じゃない」という意味のタイトルのイタリア語曲。スラップベースの響きがイカシタ楽曲で、次第にストリングスの響きなども乗ってくるゴージャスなアレンジが素敵です。

イタリアンロック音楽バンドのザ・コロルスザ・コロルス

5. ピングイニ・タッティチ・ヌークレァーリ(意:戦略核ペンギンたち)のサンレモ音楽祭2020出場曲で、初出場ながら3位に上位入賞した楽曲。ビートルズのリンゴ・スターをモチーフに、凡才のままスターになった人々の生き方にスポット当てた楽曲。そのMVは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のあのシーンを再現した秀逸なものです。その意図は、映画でも使われていた1950年代当時のヒット曲(MVでも冒頭に流れています)を歌っていたのがアメリカの“ペンギンズ”だったため、イタリア語で“ペンギンズ”を意味する名のバンドとして踏襲するという判る人には判るという仕掛けが隠されています。

6. 同じくピングイニ・タッティチ・ヌークレァーリのさわやか系サウンドのRockチューン。「彼女をスクリーンに描く」という意味のタイトルです。

ピングイニ・タッティチ・ヌークレァーリピングイニ・タッティチ・ヌークレァーリ

7. 前出のピングイニ・タッティチ・ヌークレァーリとも仲良しのエウジェニオ・イン・ヴィア・ディ・ジョイア(意:喜びの道中にいるエウジェニオ / メンバーの名前の組み合わせで作られたバンド名)のサンレモ音楽祭2020新人部門参加曲で、日本語の“津波(つなみ)”をそのままタイトルにしています。(“つなみ”は世界共通語となっています)

8. 同じくエウジェニオ・イン・ヴィア・ディ・ジョイアの「探せ」というタイトルの楽曲。ナイロン弦ギターの響きを活かしたRockチューンというのも彼らの持ち味です。

エウジェニオ・イン・ヴィア・ディ・ジョイアエウジェニオ・イン・ヴィア・ディ・ジョイア

9. ボローニャのラジオDJたちが結成したバンド、ロ・スタート・ソチァーレ(意:社会主義国)のサンレモ音楽祭2021出場曲「コンバット・ポップ」。彼らが属するラジオ局の名は“ラジオチッタ・フジコ”で、フジコはルパン三世に登場する峰不二子から取られています。

10. ロ・スタート・ソチァーレの「今日も、明日ももっと良くなるよ」という意味の楽曲。

ロ・スタート・ソチァーレロ・スタート・ソチァーレ

11. グラムロックの流れを現代に受け継ぐアキッレ・ラウロのサンレモ音楽祭2020出場曲。「僕は気にしないよ」という意味のタイトル。

12. アキッレ・ラウロの「品のない女」を意味するタイトルの楽曲。

アキッレ・ラウロアキッレ・ラウロ

13. 24歳で2020年の年間アルバムチャートの首位を獲得し、自身の3枚のアルバム全てが年間チャート10位に入る快挙を果たしたウルティモは、イタリアで長らく続いていた熟年世代がチャートの上位を占める傾向を打ち破ることに貢献した逸材です。「これ全部が君だ」の意味の楽曲。

14. 同じくウルティモの「心気症」という不思議なタイトルの楽曲。

ウルティモウルティモ

<ウルティモ紹介記事>
今、イタリアで一番バズっているUltimo(ウルティモ)!

15. 2009年頃にブレイクし、人気&実力で時代をけん引し続けているトップバンド、モダー。ヴォーカルのケッコの曲作りの才能が開花し、今では他の歌手にもたくさんヒット曲を提供する売れっ子メロディメーカーにもなっています。「呪われた情熱」というタイトルの楽曲。

16. ロックテイストも持つ歌姫エンマをゲストに迎えたモダーの「映画の中のように」という意味の楽曲。

モダーモダー

17. 2005年公開の映画のサウンドトラックにたくさんの楽曲が採用され、一躍人気バンドとなったネグラマーロ。彼らもヴォーカルのジュリァーノ・サンジョルジが稀代のメロディメーカーの才能を発揮してイタリア音楽界をけん引し続けています。「全てが流れる間に」という意味のヘヴィーなロックサウンドがカッコイイ楽曲です。

18. 同じくネグラマーロの「雲とシーツ」という意味の、ギターとベースの響きがイカシタ楽曲。

ネグラマーロネグラマーロ

19. オーディション番組X Factorから躍り出たロック系ヴォーカリスト、マルコ・メンゴーニのカッコイイサウンドのロックチューンで「走る準備完了」の意味のタイトルです。初期にもカッコイイロック曲があるのですが、Spotifyには登録がありません。2013年にサンレモ音楽祭優勝者となった後は、バラード系の楽曲が多くなりました。

マルコ・メンゴーニマルコ・メンゴーニ

20. 21世紀初頭のイタリアには、ちょっとしたボーイズバンドブームがあり、その代表格がこのフィンリーです。本格的なロックサウンドと若さ溢れる雰囲気、全員イケメンとスター要素満載のバンドで、その流れはマネスキンにも受け継がれていると言えると思います。中年になった今でも現役で活動を続けています。ゴキゲンなサウンドの楽曲は、「君はスターになるよ」という意味です。

21. 同じくフィンリーの「アドレナリン」の意味の楽曲。

フィンリーフィンリー

22. フィンリーと同時期に台頭したもうひとつのボーイズ・バンド、レ・ヴィブラツィォーニは、イギリス風のサウンドが持ち味ですが、イタリアらしいメロディも魅力です。人気のヴォ-カリストがソロに転向して解散状態になってしまいましたが、5年後の2017に再結集して活動を再開。かつての魅力に円熟味を増して人気が戻ってきています。「こんな風に行く」という意味の楽曲です。

23. 同じくレ・ヴィブラツィォーニの「風と共に話す」という意味の楽曲です。

レ・ヴィブラツィォーニレ・ヴィブラツィォーニ

24. ツウ好みのハードなロックテイストと確かなテクニックで定評のあるマルレーネ・クンツは、同業者に信奉者が多い、まさにミュージシャンズ・ミュージシャン。「天才」という意味の楽曲です。

25. 同じくマルレーネ・クンツの「誘惑」を意味する楽曲です。

マルレーネ・クンツマルレーネ・クンツ

26. マルレーネ・クンツと並んでブラステマもツウ好みのバンドです。

ブラステマブラステマ

27. ブラステマの「2の後」を意味する楽曲。

28. ペルトゥバツィォーネは90年代から活動を続けるバンドで、女性チェロ奏者を配した変わった編成。サンレモ音楽祭2014出場曲で「唯一の女性」という意味の楽曲で知名度を高めました。

29. 同じくペルトゥバツィォーネの「ブドウの感覚」という意味の楽曲。

ペルトゥバツィォーネペルトゥバツィォーネ

30. ニューウェーヴ風のヘンテコサウンドでカルト的人気を博したブルーヴェルティゴ。中心人物モルガンはソロ活動に転じるも、気が向くと再結成しては活動中止を繰り返しています。

31. 同じくブルーヴェルティゴの「アブサン(ニガヨモギ)」の意を持つ楽曲。

ブルーヴェルティゴ(左から2番目がモルガン)ブルーヴェルティゴ(左から2番目がモルガン)

32. 熱いロッカーの象徴のような存在ピエロ・ペルー。2020年に50代後半でサンレモ音楽祭に初出場を果たし、歌った「巨人」という意味の楽曲はロングヒットとなり、彼の新たな代表曲となりました。

33. そのピエロ・ペルーがソロになる前に所属していたのがリトフィーバという名のバンド。イタリアではカルト的人気があります。2009年からピエロ・ペルーが復帰しました。スペイン語で「悪魔」の意味の楽曲です。

リトフィーバ(右がピエロ・ペルー)リトフィーバ(右がピエロ・ペルー)

34. かつてハードロックバンドの人気ヴォーカリストだったフランチェスコ・レンガがソロとなり、この「天使」を意味する楽曲でサンレモ音楽祭2005優勝。名実ともに人気&実力を兼ね備えたトップスターの仲間入りを果たしました。この“天使”とは愛娘のことを歌っています。

35. そのフランチェスコ・レンガが所属していたバンドがティモリーア。当時はハードロックバンドらしく、全員がかなりのロングヘアでした。「風ナシで」という意味の楽曲。

ティモリーア(右端がフランチェスコ・レンガ)ティモリーア(右端がフランチェスコ・レンガ)

36. このプレイリスト冒頭に光り輝くマネスキンの直接の師匠とも言える存在なのが、アフターアワーズ。マネスキンのメンバーが生まれる前から活動していた、オルタナ系バンドで、カルト的人気を誇って現在も活動中です。彼らの最大のヒット曲と言ってもよいメロウな楽曲で「永遠じゃない」という意味の楽曲です。

37. アフターアワーズ本来のアングラ的オルタナサウンドの楽曲。「ハチミツの悪」という意味の楽曲。

アフターアワーズアフターアワーズ

38. 90年代終わりごろに登場したスブソニカもカルト的人気を誇るバンドで、来日歴もあります。サウンドの要となっているシンセ奏者ブースタは、今ではプロデューサーとしても活躍しています。「全てオレの過ち」という意味の楽曲。

39. スブソニカの「新たな悪夢」という意味の楽曲。

スブソニカスブソニカ

40. レゲエ調のサウンドとロックテイストのツインギターでイタリア人に人気があるネグリータ。奇跡の来日公演も果たしています。彼らの楽曲の中で一番キャッチーな楽曲がこれ。「果てなき喜び」を意味するタイトル。

41. ネグリータのカッコイイRockチューン「原子ごとに」という意味の楽曲。2人のギタリストのうち、リードギターを担当することの多いドリゴは、なんとピックを使わないマーク・ノップラー的なスタイル!

ネグリータのフロントマン3人ネグリータのフロントマン3人

42. 売れっ子のプロギタリストという安定の道を捨てて、ソロ・シンガーソングライターの道を選んだアレックス・ブリッティ。もちろんイントロのそそるギターソロは自分で弾いていますが、あくまでも歌と楽曲のアレンジに心血を注いでいて、ギターバカあるあるの独りよがりの楽曲になってないところが素晴らしいです。「7千杯のコーヒー」という意味の楽曲。

43. 「バスタブ」という意味のアレックス・ブリッティのヒット曲。

アレックス・ブリッティアレックス・ブリッティ

44. 抜群のギターテクニックと作曲の才能を持つ女性シンガーソングライター、カルメン・コンソリの「生意気な女の子」の意味を持つ初期の楽曲。今ではイタリア音楽界で重要なポジションのアーティストとなっています。

45. カルメン・コンソリのファンキーなチューンで、「私にキスして、ユダ」という意味の楽曲。キリスト教では13人目の使徒ユダが裏切りの際、イエスにキスをして「誰がターゲットであるか」を反勢力に教えたという聖書に書かれた物語がモチーフになっています。

カルメン・コンソリカルメン・コンソリ

46. ベーシストでもあり、ソロ歌手でもあるという変わったスタイルのマックス・ガッゼ。来日公演経験もあります。ベース脳と歌手脳を分けてプレイしていると語ってくれました。「夏の風」という意味の楽曲。

47. マックス・ガッゼのスピード感溢れるタイプの楽曲「音楽はできる」という意味のタイトル。

マックス・ガッゼマックス・ガッゼ

48. イタリア初のエスノロックバンドと呼ばれたタゼンダはサルデーニャ出身で、しばしば難解なサルデーニャ語歌詞で歌い、この曲ではザンポーニャ(バグパイプ風のサルデーニャ郷土楽器)の音色も入っています。初代ヴォーカリストは成人男性ながらボーイソプラノのままのような天使の歌声が唯一無二の存在でしたが、ガンで亡くなってしまいました。

49. タゼンダのハードテイストな楽曲。

タゼンダタゼンダ

50. 現代のイタリアンロック界の頂点に君臨するトップアーティストのひとりがリガブエ。61歳にしてこの魅力と精力的な活動がいかにもイタリア。来日公演も映画監督としての来日経験もありますが、まだまだ多くの日本人に知られていないのが残念。「人類」というタイトルの楽曲。

51. リガブエの「世界の終わりは何時に?」という意味のハードなチューン。

リガブエリガブエ

52. 布袋寅泰との共演&来日公演で日本でも知名度が少し上がったズッケロですが、まだまだその世界的な知名度からすると、全然足りていない日本での認知度が残念。基本的にはブルース系シンガーなのですが、ロックテイストなゴキゲンなチューンも多く、そのひとつがこの「やかましいくちばし」という意味(方言)の楽曲。

53. ズッケロ「オレの中の悪魔」という意味のキャッチーなロックチューン。

布袋寅泰(左)とズッケロ(右)布袋寅泰(左)とズッケロ(右)

54. 現代イタリアで“ロックの帝王”“司令官”の異名を取り続けているのがヴァスコ・ロッシ。単独アーティストによる有料コンサートの集客数世界記録を持つほどの圧倒的な人気に支えられています。世界から最高のミュージシャンを集められる求心力と財力があるので、いつも最高のサウンドを届けてくれます。「オレは無実だが…」という意味のハードなロックチューン。

55. ヴァスコ・ロッシの「一番シンプルな男」という意味の楽曲。タイトなサウンドがカッコイイ。

ヴァスコ・ロッシヴァスコ・ロッシ

56. サンレモ音楽祭史上初のロックな優勝曲で「神秘」という意味の楽曲です。エンリコ・ルッジェーリが1993年に披露しました。

エンリコ・ルッジェーリエンリコ・ルッジェーリ

57. そのエンリコ・ルッジェーリがかつてパンクロックバンド、デチベルで活動していた時代の楽曲で、「僕のショウ」という意味。

58. 1980年前後にアヴァンギャルドなサウンドの楽曲をたくさん発表し、特に業界筋やツウに一目置かれることとなったエウジェニオ・フィナルディ。なんといってもカッコイイ曲のうち、まずは「反逆の歌」。ドラムとベースのリズム隊がこんなにエキセントリックな演奏をしているのに、ヴォーカルを邪魔していない妙をお楽しみください!

59. エウジェニオ・フィナルディの「地球外生命体」の意を持つ、超人的ベースラインがイカシタ楽曲。

エウジェニオ・フィナルディエウジェニオ・フィナルディ

60. イタリアロックの女王の座に君臨し続けているのはこの人、ジャンナ・ナンニーニ。「アメリカ」は今でも人気のある代表曲のひとつ。このイントロが始まるとおとなしくしていられないなら、間違いなくあなたはイタリア人!

61. ロックの女王ジャンナ・ナンニーニの「フォトロマンツァ」は80年代らしいロックサウンドのヒット曲。

ジャンナ・ナンニーニジャンナ・ナンニーニ

よしおアントニオによるイタリア音楽記事をもっと読む

イタリアの情報が満載のメールマガジン登録はこちらをクリック

【Series】「ミラノデザインウィーク」から見る、安西洋之のデザイン考③

Hiroyuki Anzai 安西 洋之

2025.04.28

長年にわたりミラノを拠点に活動するビジネス&カルチャープランナー・安西洋之氏による連載シリーズ。世界最大級のデザインイベント「ミラノデザインウィーク」では、未来のトレンドが街全体を巻き込みながら発信されます。そして、シリーズ第3弾では都市型イベントの現場から、「文化の盗用」について考察します。

サローネが市内に進出している例。デザイン書籍を売るスタンドがスカラ座前の広場に仮設され、多くの人が書籍や雑誌を買っている (photo:Hiroyuki Anzai)

デザインの街から生まれたウィークイベント

ミラノの人は関心があろうがなかろうが、1年に一回は必ず「デザインに巻き込まれる」。有無も言わせず、である。ファッションにも年数回「巻き込まれそう」になるが、デザインほどには影響を受けない。

巻き込まれるのは、ミラノデザインウィークが街をあげての大規模イベントだからだ。今年は4月7日週の1週間だった。


郊外の見本市会場で開催されるミラノサローネ国際家具見本市、同時に市内およそ千のイベントや展示を称するフオーリサローネ、これらの2つを総称したミラノデザインウィークは市をあげての大イベントである。


もともとは家具、雑貨、照明器具といったインテリア分野のみのイベントであったが、20数年前くらいからフオーリサローネに関わる分野が家電や自動車などまで広がり、量と種類、それに動員数から「巻き込まれる」率があがったのである。今や、ミラノのデザインエコシステムの重要な要素として機能している。


普段、デザインについてあまり語らない人も、街のなかのイベントを覗くことで何かを語るようになる。もちろん、デザインに仕事で関わる人はさらに語る。今年、デザインに関わる他人の語りをどう解釈すると良いのか?を考える機会があった。友人の自宅で夕食会があり、その場でデザインに関わる人が指摘したのは、次のようなことだった。


マイケル・アナスタシアデス「Cygnet」(photo:Nicolo Panzera)

文化の盗用か?マイケル・アナスタシアデスの照明をめぐって

「ロンドンを拠点に活動するマイケル・アナスタシアデスが発表した照明をみてくれ。和紙を使っていてフレームはメタル。展示の支柱には竹だ。これは日本文化ブームにのっかった文化の盗用ではないか?」と写真を見せながら語った。

「文化の盗用」とは先進経済圏にある企業が経済的劣勢にある文化圏のモチーフをビジネス目的で利用した場合に指弾する表現だ。アフリカの民俗モチーフをヨーロッパのファッションに適用するー旧宗主国の企業が元植民地の文化遺産をお金儲けのために利用している。こうした例がひとつだ。

上記の照明だが、マテリアルをどこまで文化固有のものとみるか、という問題がある。竹にいたってはアジア圏の各地にある。しかも、日本は先進経済国だ。この程度のことで批判がでるなら、日本の多くの製品は西洋文化を盗用していると言われかねない。

1958年のブルーノ・ムナーリの作品「折り畳みできる彫刻」(photo:Hiroyuki Anzai)

実際に展示をみて確かめようと、夕食会の翌日、私は会場にでかけた。イベントはジャクリーン・ヴォドズとブルーノ・ダネーゼ財団で開催されており、入口を入ると両側にブルーノ・ムナーリの作品がある。1958年の作品「折り畳みできる彫刻」、1965年の作品「竹」、これらが2つのガラスケースに収められている。

そして、その先にいった部屋に「文化の盗用」と批判された展示があった。竹が存分に使われている。そこで、私はその場にいたスタッフにデザインの動機や背景を聞いてみた。マイケル・アナスタシアデスのロンドンのスタジオで働く女性だった。


イメージの組み合わせだった

分かったことは、今回のデザインの条件は財団がもつブルーノ・ムナーリの作品アーカイブからヒントを得ることだった。アナスタシアデスは上述の作品と凧のイメージを組み合わせ、あの照明を考案したのだった。即ち、ヨーロッパで日本文化が話題のネタになっているから日本文化を想起しやすいマテリアルでデザインする、といったアプローチとは無縁である。


だが、私は夕食会の席で息巻いていた彼を非難するのも違う、と思った。まずもって、マテリアルと日本文化の流行を紐づけようと思うのは、極めて自然な流れであるからだ。デザインコンセプトの背景を彼が深く調べなかったのも普通の行動だ。デザインジャーナリストがレビュー記事を書くのではない限り、いちいち、すべての作品のバックグラウンドを確認する必要もない。

美濃和紙が透けて放つ光が空間をやさしく包み込みます。つぼみをモチーフにしたフォルム「RAI collection」。

ミラノデザインウィークに吹き荒れる「デザインの噂」

私がこの一件で関心をもつのは、上述のようにして誤解が拡大していくのだ、との現場をみたからだ。実は、「文化の盗用」と指摘した人はミラノのデザイン分野ではそれなりに知られている。このような誤解も含め、吹き荒れるように「デザインの噂」が広がるのがミラノデザインウィークなのだ、と再認識した。その噂に疑問があれば、私のように自分で確認すればすむことだ。


あえていえば、その確認作業がしやすいーこれもミラノのデザインエコシステムの特典かもしれない。デザインに関する議論をデザイン・ディスコースと称することがあり、その議論をしやすいプラットフォームが構築されている。


ミラノデザインウィークで考える、「文化の盗用」とデザイン

最後に文化の盗用について、一般的なことを書いておきたい。

多くはファッション分野が世界を騒がしやすい。自動車などはヨーロッパ誕生のジャンルであり、世界各地に別々にオリジンがあるわけでもない。現在、各地にデザイン拠点をもって活動しているので文化の盗用はトピックにあがってこない。


一方、食分野は頻繁にそれぞれの文化圏の素材や料理法を活用するのが普通であり過ぎるため、どこかの文化圏の知恵を活用することが非難の対象になりにくい。また、ひとつの料理が世界に大量に発信させることもない。それではミラノデザインウィークの主役である家具や雑貨はどうだろうか?


ほのかで温かみのあるヨーロッパ産のマツ材を使用したランプ。JAKOBSSON LAMP collection

他の文化圏の様式やテイストをインテリアのなかに入れるのはかなり敷居が高い。機能や形状をファッションのようには採用しづらいーキモノは日本の外で流通する一例だろう。


したがって、仮に日本を想起するようなヨーロッパ発のインテリアデザインがあれば、容易に叩かれるか、逆に大きな話題になるか、どちらかだ。ただ、叩かれにくい土壌がある。スカンジナビアのデザインと日本のデザインは同じ傾向にあると見られやすく、一括りにされる可能性があるからだ。

以上のようなことを深く考えられる機会がたくさんあるのがミラノデザインウィークである。