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栗、栗そして栗! ピアンカスタニャーイオの村祭りに潜入

それは主食だった!

秋の深まりと共に、イタリア各地で地域の食文化をテーマにしたお祭りが開催されています。町内会や自治体が主催する、こうしたイベントの多くは、イタリア語で「サグラ」と呼ばれます。Sagraの語源であるラテン語には「神聖な」という意味があります。その昔は、人々が収穫物を持ち寄って感謝をしつつ祝う、宗教的な行事だったためです。

今回は秋の味覚を代表する「栗」のお祭りをレポートします。

その前に、イタリア半島における「栗の木」について少々。古代ローマ時代に栗は、建物やワイン樽などの木材として重宝されていたとされます。

中世に入ると、栗は栄養価の高い食物として認識されるようになりました。7世紀にランゴバルド王国によって統治されていた地域では、「栗の木を無断で伐採した者に罰金を科す」という勅令が出ていたほどです。

人口増加による食料需要を受け、10世紀以降はアペニン山脈一帯などで本格的な栗の栽培が始まりました。小麦が採れない高地の人々にとって、栗は重要な代替食物となったのです。
貧しい農民たちは、栗の実を乾燥させ粉にしてパンを焼きました。そうしたことから、彼らは栗の木を「パンのなる木 L’albero del pane」と呼んでいました。

今日、イタリアの総森林面積1,050万ヘクタールのうち、栗林はその7.5%にあたる78万 ヘクタールに及びます。今日、イタリアの総森林面積1,050万ヘクタールのうち、栗林はその7.5%にあたる78万 ヘクタールに及びます。

イタリア流は「焼いて食べる」

トスカーナ南部アミアータ山の裾野にあるピアンカスタニャーイオ村では、毎年10月末から11月にかけて栗のお祭りが開催されます。そもそも村名のPiancastagnaioからして「栗の平野」という意味。一帯は、知る人ぞ知る栗の名産地です。

毎年お祭りが近づくと周辺自治体に貼られる、ほのぼのムード満点のポスター。中腰で栗拾いをする人が描かれています。1967年から続く伝統行事です。毎年お祭りが近づくと周辺自治体に貼られる、ほのぼのムード満点のポスター。中腰で栗拾いをする人が描かれています。1967年から続く伝統行事です。

村を象徴するアルドブランデスカ要塞(11〜12世紀築)の脇から、会場である旧市街へと入ります。村を象徴するアルドブランデスカ要塞(11〜12世紀築)の脇から、会場である旧市街へと入ります。

要塞の上から、煉瓦色をした村全体が見渡せます。要塞の上から、煉瓦色をした村全体が見渡せます。

メイン会場に赴くや否や、真っ先に目に飛び込んできたのは、焚き火の上にドーンと載せられた大鍋でした。
実はイタリアでは、栗は茹でるよりも、底に穴の空いた専用フライパンで炙る焼き栗が主流です。大鍋は、いわばその巨大版で、大人が何人も乗れるほどの直径です。
鍋の中には皮が破裂しないように切込みを入れた栗が放り込まれていました。それらを畑仕事に用いる鍬のような道具で混ぜながら煎っていきます。

そうしてできた焼き栗は一般的に「カルダッロースト」と言いますが、ピアンカスタニャーイオの方言では「クラスタータ crastata」と呼ぶのだとか。
そして大鍋で調理するこのお祭りは、「イタリア語で大きいという意味の接尾辞 -one をつけて、クラスタトーネ crastatone と呼ぶんだよ」と地元の人が教えてくれました。
よく見れば、前述のポスターにも“Il Crastatone”書かれているではないですか。

大鍋の中でこんがり焼かれた栗が芳ばしい香りを漂わせます。ちなみにイタリアでは、平らで小粒な栗はカスターニャ、丸くて大粒のものはマローネと呼ばれます。大鍋の中でこんがり焼かれた栗が芳ばしい香りを漂わせます。ちなみにイタリアでは、平らで小粒な栗はカスターニャ、丸くて大粒のものはマローネと呼ばれます。

別の広場には、ハンドルで回す手動のロースターが据えられていました。日本における福引のガラポンを大きくしたようなかたちです。
若者が勢いよく回す様子が楽しくて、私は最前列に立ってかぶりつきで見ていました。すると「焼いてみるかい?」とハンドルを譲られました。

実際にやってみると、栗がたくさん入ったロースターは見た目以上に重く、焚き火の熱風が容赦なく私を襲います。次第に疲れて速度が緩んでくると、周囲の来場者から「回せ〜、止まったら焦げちゃうよ」と檄が飛んできました。

手動の回転式ロースター。カゴのなかに栗を入れて、こんがり焼けるまでひたすら回し続けます。手動の回転式ロースター。カゴのなかに栗を入れて、こんがり焼けるまでひたすら回し続けます。

中世には行政・司法機関が置かれていた時計台広場。生栗を売る屋台が並びます。中世には行政・司法機関が置かれていた時計台広場。生栗を売る屋台が並びます。

栗づくしに舌鼓

楽しみにしていた郷土料理も味わうことに。村内にある4つの町内会が、それぞれ栗を使った自慢のメニューを用意していると聞いていたからです。

道を行くたび「うちで食べてって〜」と声をかけられます。私が足を踏み入れたのは、ある町内会が仕切る、薄暗い穴蔵のような空間でした。とても日頃から食堂として使われる場所には思えません。聞けば、一般家庭の車庫や、ワインや生ハムを保管する地下の物置などを改装した、お祭り期間限定の臨時食堂でした。

アルドブランデスカ要塞脇のメイン会場。屋台で買い求めた郷土料理を味わう人々。アルドブランデスカ要塞脇のメイン会場。屋台で買い求めた郷土料理を味わう人々。

薄暗い空間の中、梁が通った天井を見上げると、しばし自分も中世人になったかのような感覚に。薄暗い空間の中、梁が通った天井を見上げると、しばし自分も中世人になったかのような感覚に。

冬の定番料理であるポレンタ(とうもろこしの粉を粥のように煮たもの)をオーダーすると、ミートソースに栗を混ぜ込んだソースが添えられていました。トスカーナの秋を代表する伝統菓子「カスタニャッチョ」やクレープにも栗の粉が使われています。

仮設のテーブルは隣席の人と肘がぶつかるほど狭いものでした。それでもお互いに赤ワイン片手に焼き栗をつまめば、出会ったばかりの人ともおしゃべりが弾みます。

私が最後に足を運んだ2019年、親しくなった町内会のメンバーと「来年また会いましょう!」と約束をしたものの、コロナ禍にあった2020年は開催中止を余儀なくされました。
いっぽう嬉しいことに2021年は再開が決まっています。

イタリアの秋祭りは、地域の人々の楽しみであるとともに、訪れた人と季節の恵みを分かちあうものでもあるのです。栗の村にふたたび芳ばしい香りと、人々の賑やかな笑い声が戻ってくるのが今から楽しみでなりません。

とうもろこし粉から作るポレンタには、焼いた栗を混ぜたミートソースが添えられていました。とうもろこし粉から作るポレンタには、焼いた栗を混ぜたミートソースが添えられていました。

「栗の粉のクレープ」は、栗の粉独特のもちもち感と甘さが楽しめます。「栗の粉のクレープ」は、栗の粉独特のもちもち感と甘さが楽しめます。

「ボルゴ」と名付けられた町内会が用意したカタニャッチョ。栗の粉から作る生地に松の実、レーズン、ローズマリーなどが加えられた郷土菓子です。「ボルゴ」と名付けられた町内会が用意したカタニャッチョ。栗の粉から作る生地に松の実、レーズン、ローズマリーなどが加えられた郷土菓子です。

INFORMATION
ピアンカスタニャーイオの栗祭り Il Crastatone (2021年は10/30〜11/1に開催)
*入場には新型コロナワクチン接種証明書またはPCR検査陰性証明書の提示が必要。
www.facebook.com/scopripiancastagnaio 

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