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ポスト・コロナのイタリア散歩 | 美術館・博物館、レストラン、海と山

日本が梅雨に入るころ、イタリアはちょうど気温がぐんぐん上がり、サマーシーズンの到来を実感する時期です。外出制限が解かれ、太陽の眩しさにも誘われ、多くのイタリア人が家族や友人と外へ繰りだしはじめました。ナポリや近郊の町、レストラン、博物館、海や山へ出かけてみましたが、ポスト・コロナの様子はこれまでと少し異なっています。

すっきりとしたナポリ旧市街

町に出てみて気がつくことは、交通渋滞が大幅に減っていることです。ロックダウン解除後もリモートワークを続ける人がいることや、観光客がほとんどいないためです。しかし、6月も後半になってくると、僅かながらも欧州からの若い観光客をみかけるようになりました。
町中のバス停やレストラン、バールの入口には、行列の立ち位置が定められているところがあります。うっかり前の人に近づくと、イタリア人に「ソーシャル・ディスタンス!」と怒られてしまいます。
イタリアでは、6月22日からマスク着用は任意になりましたが、人が集まるところではマスクをつけている人がまだ大勢います。エチケットとしても、これからのイタリア町歩きにはマスクを忘れないように携帯しなければなりません。

ナポリ旧市街内を歩いているのは住民ばかりナポリ旧市街内を歩いているのは住民ばかり

バス停前に指定された立ち位置バス停前に指定された立ち位置

紳士服店ショーウィンドウに並ぶ、個性的な布マスク紳士服店ショーウィンドウに並ぶ、個性的な布マスク

アートや古代の遺構に触れる

文化施設再オープンのニュースを聞き、すぐにパエストゥム遺跡を見学してきました。アマルフィやサレルノよりさらに南に位置する古代ギリシア植民都市の遺構です。夕方に見学していたのは、イタリア在住とみられるアメリカ人家族と私たちのみ。
見学を終えたあと、遺跡のすぐ脇にあるエノテカでアペリティフをしました。本当は帰り道を聞くために入ったのですが、ワインとパニーノを楽しんで、お土産に地元産の鮪のオイル漬けなどを買ったら、お店のお兄さんたちがとても喜んでいました。苦労してお店をオープンしたばかりだったのに、すぐにコロナウィルスによる閉鎖。大変な時期ですが、頑張って欲しいものです。

ナポリ地下都市空間を見学しました。参加者はフランス人カップルと、イタリア人2人組と私たちだけ。ここでも、体温を測って入ります。ガイド案内の女性は、地下へ降りても、見学者同士1mは離れて見学するようにと念を押しました。人が少ないおかげで、質問もでき、待ち時間もなく、古代空間を独り占めです。

ポンペイからの出土品の所蔵で有名なナポリ考古学博物館へも行ってきました。しかし、チケットをオンラインで予約せずに直接行ってしまい、どうしても入れてもらえず、数日後に出直すことになってしまいました。当日では、どの時間帯の入場も満員だったのです。10人に付添い人がついて見学するのですが、じっくり鑑賞したい人は残ることもできて、規則一辺倒という訳でもないところがイタリアらしいところ。ガイドでもないのに、ちょっとした質問にも答えてくれます。イタリア美術が好きな人にとっては、ポスト・コロナのイタリアはまたとない鑑賞の機会といえます。

パエストゥム遺跡入場入口での検温パエストゥム遺跡入場入口での検温

再オープンして数日目、誰もいないパエストゥム遺跡のネプチューン神殿再オープンして数日目、誰もいないパエストゥム遺跡のネプチューン神殿

パエストゥム遺跡のすぐ脇にあるエノテカ・ジャンガレアッツォ(Giangaleazzo)でチレント地方のワインやハム、チーズでアペリティフパエストゥム遺跡のすぐ脇にあるエノテカ・ジャンガレアッツォ(Giangaleazzo)でチレント地方のワインやハム、チーズでアペリティフ

このエノテカでは小規模生産者のワインの品揃えが豊富。お店で出すチレント産牛乳でつくられるモッツァレッラチーズは、ミルトと呼ばれる葉の香りでいっぱい。このエノテカでは小規模生産者のワインの品揃えが豊富。お店で出すチレント産牛乳でつくられるモッツァレッラチーズは、ミルトと呼ばれる葉の香りでいっぱい。

エノテカの斜め向かいには、昨年地域産業の調査で日本の大学の先生グループをご案内した宿が健在。若い建築家夫婦が祖父の家を改修して運営(B&B Casa Rubini)エノテカの斜め向かいには、昨年地域産業の調査で日本の大学の先生グループをご案内した宿が健在。若い建築家夫婦が祖父の家を改修して運営(B&B Casa Rubini)

カポディモンテ美術館入口に設置されたマスク義務を告げるユニークな看板カポディモンテ美術館入口に設置されたマスク着用義務を告げるユニークな看板

ナポリ地下空間見学ツアーは、異例の3組のみで決行され古代空間を満喫ナポリ地下空間見学ツアーは、異例の3組のみで決行され古代空間を満喫

博物館員の付き添いで展示を見学する10名以下のグループ(ナポリ考古学博物館)博物館員の付き添いで展示を見学する10名以下のグループ(ナポリ考古学博物館)

主に男性だけで楽しそうなローマ期ポンペイの饗宴の様子を描いたフレスコ画(ナポリ考古学博物館)主に男性だけで楽しそうなローマ期ポンペイの饗宴の様子を描いたフレスコ画(ナポリ考古学博物館)

少ないテーブル席でゆったり食事:レストラン事情

2020年6月現在のイタリアでは、レストランに入ると、まずは体温を測定します。そして、入口に設置された感染防止用のジェルで手を消毒します。着席すると、A4の用紙に氏名と同伴者の名前を記入しなければなりません。これはクラスター感染が起きたときに、追跡することができるようにするためです。そして、ようやく注文に入りますが、メニューに触れるのを避けるためにQRコードがテーブルに準備されています。スマホでメニューを読みとってオーダーするという仕組みです。

レストラン側の対応準備やその経費を考えると、苦労をして再オープンしたのだと分かります。さらにソーシャル・ディスタンスを考えて、テーブル席は以前の半分ぐらいしか入っていません。南イタリアの庶民的なトラットリアやオステリアでは、知らないお客同士でもテーブルをまたいで会話をしたり、ワインを振舞ったりすることがあるのですが、そういう雰囲気は減ってしまいました。しかし、こんな状況だからこそ、美味しい食事と空間をお客さんに楽しんでもらおうというお店側の心意気は以前より伝わってきて、また来たいと思ってしまいます。イタリアでは、外食文化が絶えることはないと確信しました。

バールやレストラン、お店などの入口に設置された消毒用ジェルバールやレストラン、お店などの入口に設置された消毒用ジェル

人の動線を分けるためかテーブルごとに柵で仕切ったピッツェリア人の動線を分けるためかテーブルごとに柵で仕切ったピッツェリア

着席したら名前や電話番号、同伴者の名前を記入してサイン着席したら名前や電話番号、同伴者の名前を記入してサイン

テーブルに置かれたメニュー閲覧用QRコード、頼めば紙のメニューも健在テーブルに置かれたメニュー閲覧用QRコード、頼めば紙のメニューも健在

ロックダウン後のはじめてのレストランでの食事だと伝えると、通常よりたくさんワインを注いでくれた。ロックダウン後のはじめてのレストランでの食事だと伝えると、通常よりたくさんワインを注いでくれた。

以前は行列ができて市民には食べることが難しかった有名ピッツェリア店以前は行列ができて市民には食べることが難しかった有名ピッツェリア店

ソレント近郊ネラーノの海水浴場併設のレストランから、ビーチベットまで届けてもらったスパゲティ・アッラ・ネラーノソレント近郊ネラーノの海水浴場併設のレストランから、ビーチベットまで届けてもらったスパゲティ・アッラ・ネラーノ

海水浴場のバールであっても、1mのソーシャルディスタンスを保つようにカウンターにテープで表示海水浴場のバールであっても、1mのソーシャルディスタンスを保つようにカウンターにテープで表示

混雑しすぎていない海と山を満喫

日光を浴びるのが好きなイタリア人は、すでに週末は海や山へ出かけて余暇を満喫しています。
ソレントよりさらに南のマッサ・ルーベンスというところにある友人の別荘に滞在しました。ミシュランのガイドブックに掲載されているような有名レストランが数軒あることから、実は日本人もよく来るところです。ホテルも多数あり、7月にはほとんどがオープンするとのこと。
ソレントからアマルフィ海岸にかけての海水浴場は、以前は狭い砂浜にビーチベットが隙間なく並べられていました。水着で雑魚寝のように並んで寝るのは、日本人にとっては気恥ずかしい場所でしたが、現在はすっきりしてちょうどよい感じです。ネラーノという海水浴場に併設されているレストランでは、ポストコロナ後に料理をビーチサイドまで運ぶというサービスをスタートしていました。

山の方はどうでしょうか。世界遺産で有名なカゼルタ王宮近くにある山のトレッキングをしました。現在のイタリアは、どのトレッキングツアーもソーシャルディスタンスを考えて10人以下のグループでしか登ることができません。マスクを着用して、間隔を空けて登るように指示されましたが、高低差のある斜面を登ると息切れがしてしまい、参加者全員が外してしまいました。

フニクリ・フニクラというカンツォーネで有名なヴェスヴィオ火山にも登ってみました。チケットはオンラインのみで購入可能で、ここでも体温を測ってから登山道に入場することができます。係りの人によると、現在の訪問客は通常の20分の1程度。バールのお兄さんは、「目の前にある茶色い塊がポンペイ遺跡で、その向こうはソレントですよ。人にぶつからずに歩けるから、あなたたちはラッキーですよ!」とマスクをつけたまま教えてくれました。

ポスト・コロナのイタリアは、想像以上に感染予防に気をつかっています。飛行場や機内では気をつけなければなりませんが、イタリアの国内移動は専用車やレンタカーを利用するようにすれば、むしろポスト・コロナの現在の方が、快適に観光ができています。      
以前より面倒になったことといえば、全ての博物館や遺跡などの観光名所は、オンラインでチケットを事前購入し、入場時間も指定しなければならないことです(場所によってオンライン購入のための手数料が、最大2ユーロほど追加されているところもあります)。

ナポリだけでなく、イタリアの主要観光都市はどこも同じ状況です。8月のバカンス先として、イタリアのより小さな町での予約が増加しているといいます。その一方で、美術や建築が好きな人にとっては、今年は都市に滞在してじっくり鑑賞できるまたとない機会でもあります。大きな町も、小さな町も、世界の状況に合わせて生まれ変わりつつあるイタリア。風光明媚な景色や美味しい料理、イタリア人の暖かいおもてなしの基本は変わらず、柔軟に美しく成長していくポストコロナのイタリアの姿、またお伝えしていきます。

自家用ヨットやボートで遊ぶイタリア人をみていると、本当にロックダウンがあったとは想像しがたい高級リゾート(ソレント近郊ネラーノ)自家用ヨットやボートで遊ぶイタリア人をみていると、本当にロックダウンがあったとは想像しがたい高級リゾート(ソレント近郊ネラーノ)

ソーシャルディスタンスを十分とって並べられたビーチベットソーシャルディスタンスを十分とって並べられたビーチベット

山頂でも距離をとってパニーニを食べる山岳会のイタリア人山頂でも距離をとってパニーニを食べる山岳会のイタリア人

ヴェスヴィオ山頂からみえるポンペイ遺跡(写真ほぼ中央の緑に囲まれた茶色い部分)。バールのメニューには、ヴェスヴィオ近郊の有名なワインラクリマ・クリスティ・ディ・ヴェスビオもあった。ヴェスヴィオ山頂からみえるポンペイ遺跡(写真ほぼ中央の緑に囲まれた茶色い部分)。バールのメニューに並ぶのは、ヴェスヴィオ山麓でつくられる有名なワイン「キリストの涙(ラクリマ・クリスティー デル・ヴェスーヴィオ)」。

ヴェスヴィオ火山で出会ったのは北部イタリアからの若者が数組のみヴェスヴィオ火山で出会ったのは北部イタリアからの若者が数組のみ

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