北イタリア、エミリア・ロマーニャ州はパルミジャーノ・レッジャーノやクラテッロ・ディ・ジベッロ、そしてバルサミコ酢などが生産される自然豊かな土地です。
今回はバルサミコ酢醸造所が併設されている、アグアツーリズモ・アチェタイア・セレ二を訪れました。
日本人の概念を変える孤高のバルサミコ酢
バルサミコ酢はスーパーなどで数百円から手に入り、物珍しく買ってはみたものの数回使ってそのままにされることが多いと思います。
ところがアチェタイア・セレ二のバルサミコ酢は、日本人のバルサミコ酢に対する概念を変えるのに十分と言ってもいいほど、他のバルサミコ酢とは違います。
モデナの豊かな自然が生み出す至高の味
ボローニャ空港から車で1時間弱の場所にアチェタイア・セレ二はあります。
フェラーリ、ランボルギーニ、バガーニといったスポーツカーやマセラティの工場も近く、車好きであればミラノ・リナーテ空港から約2時間、フランス・マルセイユ空港からモナコ経由もしくはスイス・ジュネーブ空港からモンブラン・トンネルを通って、7時間ほどの道のりもひとっ走りです。
情熱の誕生
アチェタイア・セレ二の始まりは20世紀初頭、セレ二家に嫁いだサンティナが家族のためにバルサミコ酢を作り始めたのが最初です。
バルサミコ酢は、古くから健康のために毎日スプーン一杯食べられていました。
その後、息子のアッティリオがバルサミコ酢に並外れた情熱を感じ、貯蔵のための樽を購入し、友人や農園スタッフなどのために毎年少しずつ作っては樽に貯めていきました。
そして1982年、三代目となるピエール・ルイージがバルサミコ酢の販売を開始しました。
21世紀初めに現在の地へ移り、妻のエリザベータ、息子のウンベルトとフランチェスコと共に1500個を超える樽を維持し、世界中にバルサミコ酢を輸出しています。
葡萄の栽培に適した高低差のあるヴィラビアンカの丘に広大な農地を得て、片時も休むことなく熟成するバルサミコ酢を代々見守り続けるセレニ家。
伝統を守りつつ、その美味しさを世界中に伝えようと新商品の開発に常に情熱を注いでいます。
厳格な審査をクリアしたものだけが与えられるDOP規格
アチェタイア・セレ二が得意とするのは、厳格な審査をクリアしなければならないDOP規格 (*注)のバルサミコ酢です。
DOPの樽の数ではイタリア屈指を誇ります。
様々な材質の樽に移し替えられながら、長年熟成されたバルサミコ酢の芳醇な香りと酸味、そして甘みのバランスが絶妙です。
この最高級のDOPバルサミコ酢以外にも、様々なバルサミコ酢やオリーブオイルも生産しています。
アグリツーリズモでここでしか味わえない体験を
2012年、農場内の丘の頂上にオープンしたアグリツーリズモは、レストランとプール、グラスハウスを併設し、醸造所を含む農場全体を見渡せる絶好のロケーションです。
レストランでは、自前の農園で育った野菜を使った伝統的なモデナ料理を、バルサミコ酢やオリーブオイルと共に味合うことができます。
希望すれば、醸造所でのテイスティングツアーで様々なバルサミコ酢のテイスティングが可能です。
今回は特別に、バルサミコ酢醸造に欠かせない樽を製造するレンツィ社訪問とクッキングクラスを用意してもらいました。
レンツィ社は創業470年を超える老舗で、今回は現トップのフランチェスコ氏直々にショールームや工場を案内してもらいました。
5年から20年乾燥させた木材を曲げ加工し、職人さんがパーツを組み合わせながら一つの樽が組み上げられます。
樽の材料の木材の乾燥時間も含めると、バルサミコ酢ができるまで相当な時間を要することがわかります。
クッキングスクールでは、ヴィラビアンカ近隣の街、ヴィニョーラでクッキングクラスを行う先生にパスタの生地作りから、トルテローニとトルテリーニの作り方を教わりました。
パスタの生地作りは実はかなり力のいる作業。
また手の温度が高い人は水分が飛んでしまうため、あっという間に生地が固くなってしまいます。
大きく伸ばした生地を使い、外周に近い部分はトルテローニ用の大きな正方形に、外周よりも湿り気のある中心に近い部分でトリテリーニ用のごく小さな正方形にカットします。
ここで中身登場。トルテローニはリコッタチーズとパルミジャーノ・レッジャーノ、トルテリーニはモルタデッラ・ソーセージ、パルミジャーノ・レッジャーノ、ナツメグといった美味しいものばかりが詰め込まれます。
2分ほど沸騰したお湯で茹で上げ、バターとセージで軽く炒めて出来上がりです。
バルサミコ酢をかけていただくと格別の味です。
地元モデナに限らず様々なイタリア体験も
アグリツーリズモでは「こんなことを体験したい」といった要望を伝えれば、地元モデナに限らず様々なイタリア体験を用意してもらえます。
最高の環境×最高の食事×誠実なセレ二家やスタッフの方々の心遣いが人の心に与える影響は大きく、1週間ほどの滞在でも自分の中の何かが変わることを実感しました。
そんな目に見えない力がバルサミコ酢やオリーブオイルの美味しさに影響していると思います。
ぜひ一度訪れて美味しさの根源を体感して欲しいです。
Via Villabianca, 2871 41054 Marano sul Panaro (MO) – Italia
https://acetaiasereni.com/en/
お問い合わせ Acetaia Sereni Japan(日本語可)
https://www.facebook.com/acetaiasereni.jp/
文、写真:大関秀樹
12年以上熟成させたバルサミコ酢について、何人もの専門家が、①ろうそくの火を使って、色が琥珀色かどうか確かめ、②口の中に含み、15~30分間味が持続するか確認し、③のどに通す、という検査を行う。その結果をその場で品質管理団体(第三者機関)が集計し、半数以上が合格を出せばDOPとして認められる。検査で承認された後は、保護協会の施設内にある作業場でジウジアーロデザインの専用の瓶に詰められる。
参考:2016年1月 日本貿易振興機構(ジェトロ)ミラノ事務所、パリ事務所、マドリード事務所、農林水産・食品部 農林水産・食品課による「EUにおける地理的表示(GI)~生産者・支援団体の取組事例~」の13頁から15頁より