INTERVIEW

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熊野の古民家でイタリアを体験する「Kumano Winery Guest House」|心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリア Vol.2

イタリア文化のアンバサダー、ティツィアナさんが、イタリアニタ(イタリアのスピリット)を探しに日本全国を旅する連載、「心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリア」。第2回は、和歌山県熊野のゲストハウス「Kumano Winery Guest House」を訪ねます。


熊野古道から徒歩15分ほどの山頂に位置する、築90年の古民家を改装した「Kumano Winery Guest House」。周囲をブドウ畑に囲まれ、美しい山並みと海のパノラマを望む素晴らしいロケーションです。ゲストは熊野の食材で調理されたイタリアンや、自家製の山羊のチーズ、鶏の卵などを使った料理を楽しむことができます。


Kumano Winery Guest Houseを切り盛りするのは、約10年前にイタリアから日本に渡ってきたジョバンニ・ダルさん。ジョバンニさんはイタリアで大学を卒業後、ビジネスの最前線で闘ってきた敏腕の銀行マンでした。そんなジョバンニさんが熊野でゲストハウスを始めた理由とは? ティツィアナさんがお話を伺いました。


シェフのジョバンニ・ダルさん

宮古島のチョコレート屋さん「in BLU,」|心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリア Vol.1
INTERVIEW

宮古島のチョコレート屋さん「in BLU,」|心の旅〜Tizさんと行く日本の中のイタリア Vol.1

Tiziana / 2022.08.15


農家の四人兄弟に生まれたジョバンニさん

――ジョバンニさんのルーツを教えてください。


ジョバンニ:私の両親は二人とも農業を営んでいました。父はいろいろな家畜を飼育したり、母は自分でフレッシュなパスタを作ったりと、自分の手で美味しいものを作るのが大好きでした。私は四人の子供の末っ子で、兄や姉たちよりよく両親の手伝いをしていました。ですから両親から受けた影響がとても大きいのです。


特に父の影響は大きいですね。彼は「なんでも自分の手でやる」という哲学を持っていました。というのも、父は六人家族の貧乏の家庭に育ち、農作業にせよ大工仕事にせよ、すべて自分の手でやってきた人なのです。ヴェネト(※イタリア北東部の州)地方を良くするために、父はずいぶん頑張っていました。


――「何でも自分の手で」。大事なスピリットですね。


ジョバンニ:16歳、17歳になる私の子どもたちにも伝えたいのですが、なかなか伝わないのがフラストレーションですね(笑)。

銀行マンのジョバンニさんが、ビジネスから農業へ転向した理由

ジョバンニ:父は(私に対して)社会の中で高い立場になってほしいという希望を抱いていましたから、私もただ漫然と高校へ行くのではなく、観光や料理などを学べる学校へ行くことにしました。


――若いときから料理の勉強をしていたんですね。


ジョバンニ:大学に入る前の夏休みも、ヴェネトのワイナリーでワインについて学んでいました。そこでワインへのパッションが芽生えたんです。大学の卒業論文もイギリスのワインソサエティについて書きましたよ。

――大学卒業後に農業の道へ?


ジョバンニ:最初は銀行に就職したんです。両親の世話になるのは嫌だったので、両親を幸せにできるように一生懸命学んで働きました。ただ銀行で働いている間も、ワインと料理への情熱は忘れませんでした。



卒業してから、イタリアトップの銀行で高いポジションにつき、一流のビジネスマンたちと仕事をしてきたジョバンニさん。しかし彼は徐々にコーポレートバンキングの仕事に疑問を抱き始めます。


ジョバンニ:銀行の仕事も嫌いではありませんでした。ヴェネトで夢を持って頑張っているたくさんの起業家たちに出会い、彼らのスピリットに触れることができたのは幸運だったと思います。けれど銀行は、社会のためではなく、エリートがより資産を増やすためのシステムになってしまっているんです。


それは果たして社会のために真に価値のある仕事なのでしょうか。毎日額に汗して自分の手で価値を生み出す、リアルなエコノミーに貢献したいと思うようになったのです。


――ビットコインなどで儲けたり、TicTokのセレブリティになったりして、高い車に乗るのではなく。


ジョバンニ:そういったイメージのほうが若い人にとってはインパクトがあるのでしょうが、自分の子どもたちにはリアルな仕事を伝えたいですね。


――お父様の「自分の手で何でもやる」というフィロソフィーが、ジョバンニさんにも受け継がれているのですね。


何でも自分の手でやってしまうジョバンニさん。古民家のリノベーションもジョバンニさん自ら行っています。

ローカルなコミュニティに還元するアグリツーリズム

――ジョバンニさんはいつ来日されたのですか?


ジョバンニ:10年前です。当時学んでいたロンドンの大学で日本人の妻と出会ったのがきっかけです。


ジョバンニさんと奥様

――そして熊野でKumano Winery Guest Houseを始めたんですね。


Kumano Winery Guest Houseでは、ジョバンニさんが調理した朝食、昼食やディナーを味わうことができます。熊野地産の食材のほか、ゲストハウスで飼育する山羊のミルクから作ったチーズや、鶏の卵をふんだんに使っています。山羊の世話ももちろんジョバンニさんの仕事です。


ジョバンニ:古民家には最初2匹の雌と雄の山羊がいたのですが、飼育しているうちにこの動物に興味を持つようになりました。イタリア人の私はチーズを作ってみたくなり、それでミルクを作ることにしたのです。


今では29匹の雌、4匹の雄がいます。一頭ずつ違う名前で呼びますし、性格もそれぞれ違います。こんなに愛らしい動物は滅多にいませんよ。家族のような、とても大切な存在です。


ジョバンニ:朝から晩まで手を動かして働きますよ。たとえば、朝はまず山羊のミルクを5、6リットル搾るところから始まります。そのミルクからチーズを作って、ゲストハウスのお客様にご馳走します。


ちなみにKumano Winery Guest Houseでは、山羊のミルク搾り体験もできますよ。



――大変なお仕事ですが、ジョバンニさんのモチベーションはどういったものでしょうか?


ジョバンニ:ローカルなコミュニティとつながって、この地の伝統を守りつつ、サステナブルな価値を生み出していきたいのです。


たとえば、この地方に住むご年配の方々は、昔はよく山羊のミルクを飲んでいたそうですが、今はその習慣は廃れてしまいました。ですからここで提供するミルクをとてもなつかしがってくださいます。



ジョバンニ:古民家に泊まり、一生懸命作った山羊のチーズを使った素敵なイタリア料理を召し上がっていただき、熊野の文化について知る。こういった体験はすべてリアルなものです。ぜひゲストのみなさまにも楽しんでいただきたいと思います。



日本の若者にはアントレプレナーシップやチャレンジ精神を持ってほしい

ジョバンニさんの「リアルな仕事をしたい」という想いは、コミュニティへの貢献、ひいては日本の若者をインスパイアすることにもつながっていると言います。


ジョバンニ:このコミュニティは年配の方が多く、小学校も20年前に閉鎖してしまい、若い人たちはほとんどいません。ですが山の中まで若い方がボランティアによく訪れます。そんな彼らに夢を持ってほしいのです。


日本の若者に対して驚くのは、彼・彼女らの多くが一般企業への就職や公務員を希望することです。まだ20歳程度なのですから、自分の夢をもっとアグレッシブに追いかけて、チャレンジしてほしいと思うのです。


私もリスクを背負ってアグリツーリズムやワイナリーを始めました。ワイナリーはまだ軌道に乗っているとは言えませんが、ゲストハウスにはいつもお客さんがたくさんいらっしゃいますし、これからもいろいろなトライアルをしていきたいと思っています。


日本の若い方にも、アントレプレナーシップやチャレンジ精神をもっと持ってほしいと思います。


私の夢は、ローカルコミュニティを巻き込んで古民家を活用し、たとえばここはゲストハウス、もう一つはイタリアンベーカリーのお店、もう一つはイタリアンチーズのお店、といったように、いろいろな体験ができるヴィレッジを作ることです。自分でチーズを作ったり、パンを作ったりできれば、もっと深い経験を得られますから。


ジョバンニ:ここに来てくださるお客様は、イタリアが好きで、イタリアに行ったことがある方も多い。ですから、またイタリアに行ったような気分を味わえる場所にしたいと思っています。


――古民家で旅館のようなおもてなしを提供し、イタリアの高品質の食材やワインを味わっていただくというフュージョンがとても面白いと思います。


ジョバンニ:熊野全体でサステナブルな観光のコンセプトが流行れば良いと思っています。それは必ずコミュニティへのポジティブな貢献になります。そして若い人たちともどんどんコラボレーションをしていきたいと考えています。


ジョバンニさん独自のチーズ作りは、ヤギの繁殖から始まります。イタリア職人が持つ伝統の可能性だけではなく、シェフとして常に調理を念頭に置きながら、より美味しく、新しいチーズを作り出す可能性を広げました。多くの手間とこだわりを持って作った製品は、お客様にとても喜ばれています。


日本では、農家とシェフが一体となったあり方を理解してもらうのが困難でした。ジョバンニさんが たどり着いたのは、グルメをコンセプトとした360度のおもてなし。 生産者から消費者へ、情熱と愛をもってお届けしています。

ジョバンニさんとティツィアナさん

ジョバンニさんのイタリアニタは「エンジョイすること」

――最後に、ジョバンニさんのイタリアニタ(イタリアのスピリット)とは?


ジョバンニ:ヴェネト州のイタリア人と日本人に共通するのは、とても頑張り屋であること。けれど日本の方は、オフのときもあまりはっちゃけないというか(笑)。楽しんでいることを表に出しませんね。逆にイタリア人は、働き者でも、オフのときはスーパーカーでドライブしたり、美味しい料理を食べにいったりと、仕事と同じくらい目一杯エンジョイします。


このスピリットをぜひ日本の方にも持ってもらいたいですね。



トラベル情報

Kumano Winery Guest House
住所:和歌山県田辺市上野641
TEL:080-8511-6450
https://www.balsamicojam-nankiwakayama.com/



旅の目的地:白浜温泉から熊野大社までドライブ

東京から飛行機に乗り、金曜日の夜に白浜に到着しました。温泉旅館までショートドライブ。お風呂にゆったり浸かって、海と山、温泉に恵まれたこの素敵な町を探索する準備が整いました。


土曜日の朝、太陽が輝いていました。熊野古道の山に向かう前に、海岸を観光します。


最初の目的地は千畳敷と呼ばれる素晴らしい岩層。これは「千枚の畳」を意味しています。平らな畳のような岩の魔法の層を表しており、轟音を立てる海の波の近くを歩くことができます。座って瞑想するのに最適です。 


近くには三段壁があり、その 3 つの急な崖、息をのむような景色、水位にある巨大な洞窟網があります。


白浜は、神戸有馬温泉、松山道後温泉とともに日本三古湯の一つに数えられています。 日本最古の書物にも記される、千年以上の歴史を持つ海岸沿いの崎の湯で入浴したい衝動にかられます。


海岸の探索中に小さな宝石のような博物館を見つけました。日本最初のエコロジストで、サステナビリティの第一人者である和歌山県生まれの科学者/作家の南方熊楠の物語を伝えています。



山に向かう前の最後の停留所は、西海岸沖の円月島です。 特定の日や時間帯によっては、この独特の形をした岩の真ん中にある穴から沈む夕日を見ることができます。


夕方、2泊する熊野ワイナリーゲストハウスに到着。 なんて素晴らしい経験でしょう! この景色の前で翌朝目を覚ますことを想像してください。



日曜日の朝、ジョバンニと一緒にかわいいヤギの世話をした後、熊野三山の三大神社の一つであり、全国に3000以上ある熊野神社の総本宮である熊野本宮大社へ車で行きます。



神秘的な雰囲気が非常に強い場所です。 途中で出会った素敵な女性が、木霊(こだま)の本質を説明してくれました。それは神社をさらに力づける木の精霊だといいます。



神社のいたるところに八咫烏がいることにも魅了されます。 彼らは神の使者です。



 ゲストハウスに戻る前に、田辺の近くで 4 世紀から知られている有名な温泉スポットを発見したいと思います。


まず、参詣者が湯祓い、禊を行った湯の峰温泉。

そして、大東川と絶え間なく交わる70度の源泉が流れる川湯が最高でした。 あなた自身の温泉を掘って浸かることができますよ。


身も心もリフレッシュして、ゲストハウスに戻ります。ジョバンニが用意してくれたおいしいディナーをいただくハッピーな時間になりました。