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イタリア語が話せないイタリア人がいる【小林真子のイタリア通信】

私は今から6年前の2011年、「イタリアへ行こう」と思い立ち、勤めていたテレビ局を辞めてフィレンツェで暮らすようになりました。地元FMラジオ局のレギュラー出演は5年目を迎えています(2017年時点)。

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今でこそラジオでもイタリア語で冗談なんか言っていますが、イタリアに来た時はABCの読み方すら知りませんでした。ですから最初はまずイタリア語の語学学校に通ったのですが、その語学学校でとても驚いたことがあります。それは、生徒の中になんとイタリア人が混じっていたことです。「イタリア人がイタリア語の語学学校で母国語を学んでいる」という日本人の私にはシュールな状況。

15歳くらいのその学生は北イタリアにあるボルツァーノという街にすんでおり、普段ドイツ語で暮らしていると自己紹介しました。イタリアのパスポートを持つれっきとしたイタリア人であるもののドイツ語を話し、さらに見た目も性格も隣接するオーストリアの国民のよう。なにかと冗談を言ってはクラスの雰囲気を和ませようとするフィレンツェの先生たちと、笑顔ひとつ見せず真剣な眼差しで授業を受けるボルツァーノの学生を「彼らは本当に同じイタリア人?!」と不思議な思いで見つめたものです。

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私が住むフィレンツェの街は、皆さんご存知の通り美しい景観を誇る観光都市です。さて、そんな街に住むフィレンツェ市民はどうかというと、これまた日本人が思い描くステレオタイプのイタリア人とは少々異なります。

フィレンツェは京都と姉妹都市なのですが、この二つの都市はあらゆる面で実によく似ているのです。古都・観光地・盆地といった点が共通ですが、なにより市民性がそれはもうよく似ています。一見さんお断り気質がフィレンツェ市民にもあり、よそから来た人や新しく知り合う人たちになんとな~く壁を作ります。決して悪気はないようですが、無意識のうちについそうしちゃうようです。

ところで私は元々テレビ局の報道記者でしたので、毎日初めて会う人たちにインタビューや取材をする仕事をしておりました。一見さんお断りなどと言っていては仕事になりません。おかげで人見知りからほど遠い性格に鍛えられ、イタリアでも「チャオー! ピアチェーレー(初めまして)」などと誰とでも会話してしまうのですが、「君は親戚に南イタリア出身者でもいるのかね」とフィレンツェ市民に言われてしまいました。

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「あれれ、なんだかイタリアって最初に思っていたイメージと違うかも。イタリアって想像以上にいろんな性格をもつ国なんだ」と理解してからは、一層この国に興味を持つようになりました。「親戚に南イタリア出身者がいるのかね」なんて聞かれた日には、南イタリアの人たちにも実際に会ってみたくなっちゃうものです。

そんなこんなでイタリア20州のうち16州を周遊してきましたが、「彼らは全員、本当に同じイタリア人!?」と驚く出会いは増える一方。日本と同じように方言もご当地グルメも数えきれないほど存在します。市民性も食文化も地域文化も実にバラエティ豊かな国、イタリア。

この連載コラム【小林真子のイタリア通信】では、イタリア在住だからこそ伝えられるリアルなイタリア、「本当のところ、イタリアってどうなの!?」という読者の皆様が気になるようなイタリアの素顔をフィレンツェから楽しくお届けして参りますので、これからどうぞよろしくお願いします。

【初出:この記事は2017年10月12日、初公開されました@AGARU ITALIA】