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ワイン生産者の顔を持つビッグスターたち|アンドレ・ボチェッリとアル・バーノ


食と芸術の王国イタリアには、スターでありながら別の顔をも持つアーティストも多いのですが、今回はその中からワイン生産者でもある人物を2人紹介します。しかも両者とも世界的な名声を持つ超ビッグスターです。


アンドレ・ボチェッリ(Andrea Bocelli)

アンドレア・ボチェッリは、90年代にシーンに登場すると、まずドイツで人気に火が付き、瞬く間に世界的な知名度と人気を獲得した声楽家で、その音楽スタイルがクラシックとポップスに跨る“クロスオーヴァー”であるのが大きな特徴です。後にオペラティック・ヴォーカルとかクラシック・クロスオーヴァーと呼ばれるようになった分野の先駆者としてシーンを牽引し続けているのは有名ですね。日本公演も何度も行っており、日本でもっとも知名度のあるイタリア人歌手、と言っても過言ではないでしょう。



ボチェッリ一家の家業はワイン生産者であり、出身地トスカーナの肥沃な大地と温暖な気候に育まれたブドウから生み出されるワインは、度々ワイン業界の賞を獲得するほどの評価を得ています。



アル・バーノ(Al Bano)

60年代にデビューし、抜群の声量と歌唱力で瞬く間にスターとなったアル・バーノ。常にポップス畑に軸足を置いて活動していますが、そのパフォーマンスを聴けば、クラシックの素養をも充分に兼ね備えた実力を持っていることが感じ取れると思います。


イタリアに移住してタレント活動をしていた米国人、ロミナ・パワー(米映画スター、タイロン・パワーの娘)を見初めて結婚すると、Al Bano & Romina Power(アル・バーノ・エ・ロミナ・パワー)の夫婦デュオを結成し、70年代から80年代にかけて、ヨーロッパや南米でもヒット曲を連発して大スターになりました。


ロミナと離婚後はソロでも活動を続け、衰えを知らない歌唱力と天性の愛されキャラを活かして、その人気は今日も続いています。


2013年に18年ぶりにロミナとのデュオを復活すると、『イタリアの至宝の復活』とも称えられ、精力的に世界ツアーを敢行し、各地で大喝采を受けたのも記憶に新しいところ。
※初日のロシア公演がいきなり大成功して、全欧のトップニュースとして報じられました。


日本公演も何度か行っていますが(デュオでもソロでも)、直近は2019年に世界柔道のオープニングで賛歌を歌うために急遽来日。筆者はその来日中に密着取材を行いましたが、各国代表の若い柔道選手が、アル・バーノに出会う度に最敬礼をしているのを目の当たりにして、本当に世界的なスターであることを実感しました。普段の姿は単なる“おちゃめなオジサマ”で、“スター感”がまったく感じられないのですから。


ちなみにマイケル・ジャクソンが1993年に発表した「Will You Be There」が、アル・バーノが1987年に発表していた「I cigni di Balaka(イ・チーニ・ディ・バラカ)」に酷似していたため、著作権を巡って裁判となり、アル・バーノが勝利したことは世界的にはよく知られていますが、日本では圧倒的にアル・バーノの知名度が低いせいか、話題になることはほぼ皆無です。この記事に添えたプレイリストの29曲目にアル・バーノの元歌、30曲目にマイケル・ジャクソンの件の楽曲を入れておきましたので聞き比べてみてください。


ブドウの生育をチェックするアル・バーノ


そしてアル・バーノは本名のAlbano Carrisi(アルバーノ・カッリーズィ)の名義でワイン生産も行っており、故郷のプーリア州サレント地方の特産ブドウ銘柄などから生まれる芳醇なワインにも大きな評価が集まっています。



ワインのラベルにもしっかりアル・バーノが!

そのワインに貼られたラベルには実父への想いが刻まれています。
《子供だった頃、父ドン・カルメロは私をブドウ畑に誘い、「大地に施せば、大地は与えてくれる」と言って雑草の取り払い方を教えてくれました。こうして私はブドウ畑から知恵のひとすすり、ワインについて初めて学びました。愛情と年月の色彩を改めて教えてくれたこのワインを“私の古い賢者”に捧げます》 アル・バーノのアルバム・ジャケットには、ワイン生産者としての顔を覗かせた作品もあります。