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シチリア産ワインの特徴とは?〜イタリアワインソムリエ藤本のワインとペアリングの話 〜

地中海に浮かぶイタリア最大の州「シチリア島」。

シチリア島は地中海世界の要として長きに渡りいくつもの民族に支配されてきた、言わば「文明の十字路」。

時代を経て吸収した様々な文化が混ざり合い、今日までに独特なシチリア文化を形成し、訪れる者を魅了しつづけています。

今回はそんなシチリア島原産のワインとペアリングをご紹介します。



ワイン産地として歴史と多様性を持つシチリア島


ワインにもっとも適した葡萄のカテゴリー「ヴィティス・ヴィニフェラ」が、ギリシャからがシチリア島へ渡り、ローマ帝国の拡大と共に北上していったことを考えると、ワイン用の葡萄のオリジンのほとんどは一度シチリアを通り過ぎていると言えるかもしれません。


イタリア半島に向き合うようにそびえ立つエトナ火山は標高3,000mを超え、最西端のパンテレリア島はチュニジアとほとんど変わらない緯度に位置します。ブドウ畑は海抜0mから標高1,200mまで広がり、葡萄の収穫時期は7月半ば〜11月半ばと3ヶ月半にも及ぶなど、様々なミクロクリマ(微気候)が混在します。



これだけのワインの歴史とバラエティの豊富さを持ちながら、戦後は北産地のワインのアルコールを高めるためのブレンド用ワインを大量に造りバルク売りしていた時代などもありましたが、1990年代にリリースされたリッチな味わいのシチリアのシャルドネが世界のマーケットで一躍注目。


それを皮切りに、温暖な気候で造られる国際品種のワイン=シチリアワインのイメージとなっていきますが生産者たちは徐々にそのブームから脱却。シチリアの土着品種のワイン造りへとシフトしていきます。


その結果、現在では数多くのシチリア古来の土着品種が見直され、高品質なワインを生み出すエリアへと変貌を遂げました。


そんなシチリアの中で、今回は2つの産地にフォーカスしたいと思います。


【産地1】Etna(エトナ)|火山性土壌と日照量、冷涼さがもたらす味わい


まずは2000年代前半頃から世界中のワインラバー達を魅了し続ける「Etna」(エトナ)を紹介していきましょう。


ヨーロッパ最大の活火山・エトナ|標高1,200mまで点在する葡萄畑

イギリスのマスター・オブ・ワインであるジャンシス・ロビンソンはこう言います。

「イタリアで注目すべきワイン産地は北ピエモンテとエトナ火山だ」と。



標高3,326m(2018年観測時)、今なお活動を続ける火山「エトナ」。

シチリアの人々から「彼女」を意味する「Idda」と呼ばれ、彼らを見守り続けるようにそびえ立ちます。この山の葡萄畑は標高1,200mまで点在し、これは南イタリアとはいえ雪が積もる高さです。

畑の傍らにはサボテンが花を咲かせる風景も見かけたりします。



エトナワインのパイオニア的醸造家、Salvo Foti(サルヴォ・フォーティ)のワイン

Nerello Mascarese(ネレッロ・マスカレーゼ)Nerello Cappuccio(ネレッロ・カップッチョ)2種類の土着品種から造られる赤ワインは、葡萄の成熟度の高さ・デリケートな果実風味・強いミネラル感・豊富な酸味が特徴。

火山性土壌と日照量、冷涼さの組み合わせによりもたらされる味わいは、「シチリアで造られるブルゴーニュのピノノワール」と呼ばれるほどの優美さを魅せてくれます。


そんな中でもエトナ山で育ちエトナの葡萄を熟知するエトナワインのパイオニア的醸造家、Salvo Foti(サルヴォ・フォーティ)のワインは別格です。

彼がそれまでのエトナワインの在り方を一変させたと言っても過言ではないでしょう。


彼が手がけてきたエトナのワイナリーは、


  • Benanti (ベナンティ)
  • I Vigneri(イ・ヴィニェーリ)
  • I Vigneri(イ・ヴィニェーリ)

などどれも素晴らしいものばかりです。


Salvo Foti(サルヴォ・フォーティ)が手がけるワイン

私も出演しているこちらのYouTubeで更に詳しく紹介してますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。



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エトナワインのペアリング

デリケートでエレガントな味わいが特徴のエトナ。赤ワインのペアリングは、まずは生の鮪や戻り鰹がおすすめです。ワインのもつ火山由来の鉄分のようなニュアンスは赤身の味わいに合わせやすいです。



さらに魚介とトマトの煮込み。トマトの味わいとベリー風味のワインの果実味が合わせやすく、濃厚な出汁の旨味を受け止め邪魔しない滑らかな渋みが相乗効果をもたらします。



これからの季節であれば夏鹿もも肉のローストにフレッシュのイチゴのサラダ添え。夏鹿の癖がなく優しい赤身肉の味わいと、複雑味を帯びたワイルドストロベリーのようなワインの味わいがうまく重なります。


その他、肉じゃがやサバの味噌煮をご自宅で合わせてみるのもオススメです。


【産地2】Noto(ノート)|マスカットから生み出される香り高き辛口

2つ目に紹介するのはエトナから更に南下したシチリア島の東南端「Noto」(ノート)



季節風のシロッコが吹き荒れるこの場所は、シチリア全土で栽培される土着品種の黒葡萄、Nero d’Avola(ネロ・ダーヴォラ)の卓越した産地であり歴史的中心地でもありますが、注目したいのはMoscato(モスカート)で作る白ワインです。


イタリアで北から南まで様々な種類が栽培されるモスカートは、別名マスカット、皆様も生食として馴染みのある品種です。


元々この土地ではモスカートで伝統的に甘口ワインを造っていますが、近年辛口も造り始めました。


Planeta|石灰土壌の畑で栽培されるモスカート(マスカット)で作るワイン

近代シチリアワインを代表する生産者「Planeta」(プラネタ)


彼らのモスカートは、シチリアの強い陽を浴びてキラキラと輝く白亜の石灰土壌の畑で栽培されます。ジャスミンやバラ、シトラスの香りを帯びたセミアロマティックな香りですが、飲んでみるとグリップの効いた酸味と舌に広がるミネラル感が特徴です。



辛口モスカートのペアリング

そして料理とのペアリングですが、僕はセミアロマティックな香りと、ワサビのツンとした香りが混ざり合った時に魅せてくれる表情がとても気に入っています。


西洋料理を合わせるなら西洋わさびを効かせたソースの冷前菜……もいいんですが、僕はこのワインは断然和食が合わせやすいと思います。


にぎり寿司の本ワサビの風味とも合わせやすいです。白ワインと合わせると生臭さを感じやすい生魚も、このワインのもつ香りの複雑さのおかげでネガティブな印象になりません。豊富な酸は、口の中の魚の風味や酢飯の甘味をリフレッシュしてくれるでしょう。



辛口な味わいの中に塩っぽいミネラル感もあるので、和の合わせ出汁との相性もいいでしょう。


ヴェジタルな青い香りの野菜と合わせやすいので、暑い季節に夏野菜のつめたいおでんと合わせるのもオススメです。


この夏はぜひシチリアワインを!

駆け足でお届けしてきたシチリアワインの魅力、ほんのひと握りですがいかがでしたでしょうか?

あまり口にすることがないという方は、今年の夏、是非チャレンジしてみてください!