WINE

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オルネッライア2020。優美、力の年を経て「調和」の時へ

ワインは畑でぶどうを作る過程で巡る天候や気温によって、毎年味わいも個性も変化します。それは名門と呼ばれるワイナリーであっても同様です。その中でも変わらないのが、名醸造家が守り続けるワイン造りの「哲学」と「世界観」だといいます。


ワインナビゲーターの岩瀬大二さんが年ごとに違う個性を味わうために飲み続けているというのが、イタリア・トスカーナを代表する名門ブランドのワイン。その年のヴィンテージの特徴をテーマにアート作品も創られるという『オルネッライア』をご紹介します。


その年のドラマがボトルに詰まっている


ワインは農産物。でも、ただ自然がもたらしたものではありません。自然を生かし、時に戦い、抗い、その戦いそのものさえも愛して信じて生まれるもの。長年その地で、その自然と、自然が生み出す文化とともに歩み、そこから自分たちが最高だと高らかに宣言できるワインを生み出す。そのために施設・設備に投資を続け、匠のすべてを注ぎ込む。哲学を守るという気概の裏にある途方もないリスクと我慢と誇りと勇気。良きワインに出会うと改めて、ワインを生み出す人たちへの感謝に胸が熱くなります。加えて、そのワインの新しいヴィンテージを追い続けていると、より感謝が強まるのです。


名門と呼ばれるワイナリーは常に「哲学」と「世界観」を守る努力を続けます。名醸造家は長年のワイン造りから経験を重ね、その「哲学」と「世界観」を守り続けます。しかし、ワインは畑から生まれます。畑を巡る自然は毎年、毎年変わり、同じ体験は一度も訪れないでしょう。単に暑い年、寒い年が来るわけではありません。雨の量も風の強さも、その組み合わせもひとつとして同じ年はありません。それを培ってきた英知や技術で毎年変わらない価値に仕上げていく。



一方で毎年変わらない価値の中で、毎年の変化も味わいの中に表現していく。その1年の、その場所のドラマをボトルに詰め込むのです。しかもブランドの世界観は守ったうえで。絶妙なバランスの凄み。それこそが名門の凄みなのです。同じワイナリーの新しいヴィンテージを味わうこと。驚きがあり、納得があり、変わらぬ世界とこのシーズンだったからこその変化と英知を感じる瞬間。それは長年続く人気ドラマの新シーズンを迎える時の気持ちにも似ているかもしれません。


それを伝えたくて、定点観測を続けてきたワインがあります。『オルネッライア』。イタリア・トスカーナを代表するプレステージブランド。1981年創業以来、毎年至極のワインを生み出し、その名声はワインの世界において揺るぎないものとなっています。


ドラマの舞台は、名醸造地トスカーナの中でも特に優れたぶどうが育まれるというボルゲリ地区。この地の恵みは地中海気候の風、太陽、土。いかにエクストリーム(過酷で過激)な天候に襲われても、この地の風、太陽、土は耐え、最後にはさわやかに力強く微笑んでくれる。それを信じられるから戦えるし、戦い方もわかる。毎年のドラマをボトルに込めることができるのです。


Ornellaia 2020-750ml – Classic + Special Label

年ごとに個性の違う味わいを楽しむ

3年前、2018年のヴィンテージから振り返ってみましょう。オルネッライアにはリリースされるごとにその年のヴィンテージの特徴をイタリア語の一語に集約したテーマが冠され、ともにそのテーマをもとにしたアート作品が創られます。2018年のタイトルは「ラ・グラツィア」。日本語では「優美」。風格や威厳ではなく、優しく美しく。でも、ただ緩やかなのではない。奥底からのパワー、複雑さはしっかりあって、でもそれをひけらかすのではなく上品な笑顔を感じさせてくれました。


続く2019年は「IL VIGORE」(イル・ヴィゴーレ)。和訳すれば「力」。加えれば変革の力、活力、勢い。開けたてのアロマはどこか緊張感があって、どこまでも引きずり込まれるような深さ。そこから複雑ながらも溌溂としていて、明日への勇気をもらえるような明るい力強さを感じられるワインでした。


そして今年、「オルネッライア2020」。名は“LA PROPORZIONE”(ラ・プロポルチオーネ)。和訳は「調和」。調和といってもそれは妥協してまとまる、というものではありません。繊細さ、相反する強さ、さらにそれとは反する柔らかさが、それぞれしっかりと顔を出し、それらが静かに語り合っているような不思議な感覚。単純にバランスをとるのではなく、個性を引き出し合うことでこそ高いレベルで調和していく……という感覚です。


Ornellaia 2020 – 6x750ml

この年の自然は、恵みと不安が山と谷のように繰り返されたと言います。ぶどうの熟成を不安視させる温かい冬の雨から、3月、芽吹きの時期での氷点下の厳寒。その後、力を取り戻した太陽が力をあたえたものの、6月中旬には激しい雨。しかし、ボルゲリにはその反動か、それらを逆に力にさせるように温かい太陽と美しい風が吹き、8月には高温と乾燥、恵みの雨と魅惑の寒暖差を得て、素晴らしい収穫を迎えました。


2019年とも2018年とも違う自然。それを活かす。ブレンドの比率を変えるのも技術の一つですが、まず、この年をオルネッライアとしてどう表現するのか? その世界があって、そこから経験と匠を注ぎ込むのです。使用する醸造設備も熟成方法も同じ。どんなにその年の気候や状況が変わってもオルネッライアはオルネッライアであるという味わい、風格、哲学は変えないという意志があって。それがありながら、オルネッライアであることを明示しつつ、毎年変わる気候や状況も感じられること。今年のトスカーナの自然、今年のボルゲリの恵みを存分に感じられる。


だからワインの新しいヴィンテージを味わうのは楽しい。これまでと変わらぬものと、その年だからこそ変わるものを感じられるから。どうぞ、名門と言われるワインを定点観測的に飲み続けてみてください。味わいの中にテクニカルなことばかりではなく、ワインは自然のもの、そして人の力によって生まれるんだ、という発見があることでしょう。


左から会長のフェルディナンド・フレスコバルディ伯爵、CEOのジョバンニ・ゲッデス氏、最高醸造責任者のアクセル・ハインツ氏