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【連載コラム】私が出会った愛すべき超マイウェイなイタリア人たち Vol.02

イタリアの片田舎で、ワインジャーナリスト地福芳子が出会ったのは、愛すべきゴーイングマイウェイなイタリア人たち

連載「私の出会ったマイウェイを行くイタリアの友人たち」第2回目となりました。イタリアの人々とワインをこよなく愛する地福芳子です 。


イタリア・ロンバルディア州のオルトレポーと呼ばれる地区の小さな町で20年ほど過ごしてから、日本に帰国し現在は”JFKワインズ”というワインの輸入会社の代表として、日伊の両拠点で活動しています。

当時イタリアに住んでいた頃から、ワインの極意はオルトレポーの人々に伝授していただいていますが、そんな彼らの愛と情熱に溢れるイタリア人の哲学を体現するエピソードに、ワインを添えてご紹介していきます。


Profile 2: Conte Alberto (アルベルト伯爵)

飛行機で郵送されたワインをチェックする伯爵

イタリアへ渡って間もない頃、仕事で行ったワインの合同展示会。1日何社とも商談を進め、慌ただしいスケジュールの中ブースを駆け回っていました。そんな中、とあるブースで友人に紹介されたワイナリーオーナーに「はじめまして」と挨拶すると、私の右手をとるやいなや…スッとご自身の口元へ持っていき頭を下げ…


こ、これは映画で目にする貴族の挨拶…と、動揺したことを今でもよく憶えています。


これが今回ご紹介する「コンテ・ダッティミス・マニアーゴ社」(フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州)のオーナー・アルベルト伯爵との出会いです。


そう、彼は400年以上の歴史を誇るコンテ(伯爵)の血筋を引くワイナリーのオーナーでした。

とはいえ、私は「イタリアの伯爵家とは何か?」なんて、知っていたわけではありません。鮮明な出会いの記憶とともに、漠然と抱く高貴でエレガントなイメージの彼。しかし、付き合っていくうちに知ったのは「猛烈なこだわり派」という性格。

こだわって造ったワインなんて、どこにでもあるキャッチコピーですが、彼のこだわりはその遥か彼方を行きます。 


例えば、以前彼の手掛けるワインがイギリス・エリザベス女王の昼餐会(ちゅうさんかい/ゲストをもてなす公式昼食会)で振舞われることになった時…。


空輸でワインがイギリスに届けられるため、「味の変化」にリスク有り!と判断したアルベルト伯爵。


ワインの品質が、

上空の気圧の変化や航空機の振動により損なわれないだろうか?


それを検証するために、昼餐会の前にワインをイギリスで空輸し、再びそれを自身のもとに戻して試飲。味の変化の状態を厳格に確認してから、本番用のワインを再び空輸したのです。


リスクを感じた時は、前例を知ってなんとか自分を安心させるよりも、ワイン造りに培われた自身の感性を信じ抜くこだわり伯爵


彼の情熱はワインを基軸に多方面に及び、イタリアの農業相からはサステナブルな農法を用いた生産者として、経済開発省からは歴史とともに発展するワイナリーとして、認定を受けるほど。それらの肩書きに捉われることなく、一族の築いてきた歴史や誇り、携わってきた全ての人々、何よりコムーネ(地域)全体からの情熱を、ワインが消費者の口に入り、五感を経て味わいを感じるその瞬間まで、しっかりと最高な状態で伝わるよう、徹底に徹底を重ね続けているのです。


彼を知れば知るほど、その強すぎるポリシーを自然と受け入れられるようになるのは、そのワイナリーのスケールの大きさ故でしょう。


今回、「あなたのことについて、雑誌で紹介するつもり♪」とアルベルト伯爵に伝えると、翌日ワイナリーの哲学について1通のレターが送られてきました。いつだって皆の期待を裏切らない伯爵、日本に自らのワインの魅力を伝えるための、直々のメッセージです。


手紙を書いている伯爵

「1585年、ラヴィニア・フレスキ・ディ・クッカーニャが私たちのマニアーゴ家に嫁いだ際に献上したブットゥリオのワイナリーから、私たちのワイナリーの歴史が始まりました。


それから、長い年月をかけて培ってきた“伝統と経験”という財産は、“力と教え”を当然生み出すことでしょう。しかし、本来私たちが邁進すべき道“高品質のワインを長く生産し続けること”への一族の情熱こそが、私たちの財産です。歴史は懐かしむためのものではなく、時代の3歩先を行くための原動力なのです。ぜひコンテ・ダッティミス社のワインを、心ゆくまでお楽しみください。」


最後はあたたかな一言で締めくくるあたりが、やっぱりエレガンテですね。


止まらないこだわりを繰り広げるアルベルト伯爵は、時代を先導し、ワインを進化させることに余念がない様子。フリウリの地からワインの歴史に、新しいストーリーを刻むであろう、彼の長〜い旅はまだまだ続く…。


アルベルト伯爵渾身のワインはこちら▽


「北イタリアの宝石」と称されることの多いピコリットは、「王様のワイン」との呼び声が高い、並外れて洗練された希少なワインです。

フリウリ地方の限られた畑でしか育たず、2〜3年に一度しかワインにできる品質のブドウが採れないという、貴重なピコリット種から造られた甘口ワインです。


ピコリット 500mlのボトル

輝く黄金色、フローラルな中にドライなアプリコットやイチジク、続けてそれらのフルーツが砂糖漬けになったような深い甘みと、蜂蜜の甘美な香りが広がり、余韻が長く続きます。

味わいはエレガントで、柑橘系・アーモンドペーストのセンセーションがいっぱいに広がり長く持続します。


このワインは熟成が進むと(10年以上)更に完熟度が増し、独特の高貴さを増していきます。


イタリアで「瞑想ワイン」と表現され、ワイン自身そのままでも深みのある濃厚な味わいをお楽しみいただけるワインですが、ブルーチーズなどのスパイシーなチーズや、スイーツ、デザートとの相性もとても良いので試してみてください。


ちなみに、アルベルト伯爵のオススメは、30分前に抜栓し約8℃の状態とのこと。ぜひ。


イラスト:Lorella Malizia