イタリアの片田舎で、ワインジャーナリスト地福芳子が出会ったのは、愛すべきゴーイングマイウェイなイタリア人たち
この度、連載で「私の出会ったマイウェイを行くイタリアの友人たち」をご紹介することになりました、イタリアの人々とワインをこよなく愛する地福芳子です 。
イタリア・ロンバルディア州のオルトレポーと呼ばれる地区の小さな町で20年ほど過ごしてから、日本に帰国し現在は“JFKワインズ”というワインの輸入会社の代表として、日伊の両拠点で活動しています。
当時イタリアに住んでいた頃から、ワインの極意はオルトレポーの人々に伝授していただいていますが、そんな彼らの愛と情熱に溢れるイタリア人の哲学を体現するエピソードに、ワインを添えてご紹介していきます。
Profile 1: Renato Percivalle (レナート・ペルチヴァッレ)
イタリアのワイナリーといえば、オーナー一族とともに従業員みんなでワイン造りに一丸となって精を出す…という光景が思い浮かぶでしょう。その中の「長(おさ)」はワインに負けないくらい個性的だったりします。
オルトレポー・パヴェーゼ地区でビオワイン造りを行うワイナリー「ペルチヴァッレ」社のオーナー一族の中で、長であるレナート・ペルチヴァッレさん。78歳となった今も現役で畑に出て、丹精を込めてブドウを栽培。それほどに、ワインをこよなく愛しています。(特に自身の手がけるワインを世界一愛しています。)
例えば、私がペルチヴァッレのみんなに会いに行く時に、お土産でバローロなどちょっと高級なワインを持って行って、ひとしきりみんなでワイワイ楽しく試飲しても、最後に一人こっそり自分のところのワインを飲んで落ち着く姿の哀愁たるや・・・。
我が子のようなワインへの、真っ直ぐすぎる愛情に感服する他ありません。
そんなレナートの秘技は、時折ワイナリーに訪れる日本人に、イタリア語の名前をつけること。普段は寡黙なレナートは、相手の姿をじっと観察した後、突然意気揚々と「君はディエゴだ!」「あなたはジューリア!」など、次々にピタリ賞のイタリア語名をつけていきます。
実はそんなレナートを見ながら、自分がイタリア語名をつけてもらったことがないことを言えずにいました。私の名前は「ヨシコ=YOSHIKO」で、イタリア語には存在しないアルファベットのYとKがダブルで登場します。何度も間違えられながら、5年以上(!)かけてオルトレポーの友人たちには「ウシーコォ!」というちょっと惜しい名前で覚えてもらえていました。
ある日レナートに、「私もイタリア語名をつけてもらいたいなぁ」と意を決して言ってみたことがあります。名前を覚えてもらいにくいし、長い付き合いだけどいまだに間違える人もいるし、いっそのことイタリア語名にしたほうが良いんじゃないかと考えたのです。
するとレナートが、手持ちのグラス越しに私をじっと見つめ、ボソッと一言…
「ウシーコは、ウシーコで良いんだよ。
俺たちが長年かけて覚えたんだから。このままで良いんだ。」
レナートは、彼なりに慣れない日本語の名前を受け入れようとしてくれていたんですね。ありのままの私のことを受け入れてくれたみたい…ちょっとくらい発音が違っても、それより大事なことってあるよね♡とジンとしましたが、もしかして「ウシーコ」ってハッピーな響きをわりと気に入ってるとか…?
そんなレナートを思い出すワインはこちら、まさに彼のワイナリーで造られた<カステッジョ D.O.C>です。
品種はバルベーラ。彼の畑のバルベーラを使ったワインは、フレッシュさの中に優しさのあるまろやかな果実味が存在感を放ちつつ、渋みが少なく食欲をそそるバルベーラ特有の酸味と相まって、日々の食卓で重宝されるでしょう。
以前は、毎晩のようにこのバルベーラを飲んでいたため、「ウシーコの身体を流れる血はバルベーラ(BARBERA)のB型」なんてペルチヴァッレの人々の賑やかしの対象になったことも…。
オルトレポー・パヴェーゼ地区の中心「カステッジョ」という街近郊で造られたバルベーラの品質と歴史が近年ようやく認められ、2010年の収穫より、一定の基準を満たしたものが「D.O.C.」という名誉ある称号を名乗れるようになりました。
カステッジョでD.O.Cとなるバルベーラを手掛ける生産者は少ないのですが、レナートおじいちゃん率いるペルチヴァッレ社ではビオロジコ&ヴィーガンに配慮した品質の良い「カステッジョ D.O.C.」を造っています。
イラスト:Lorella Malizia