LIFESTYLE 23 Oct 2020

あの人と出かけたいセラータ
—美しく装い、街へ繰り出す—


人が主役、街並みは背景

イタリアもすっかり秋。衣替えの季節です。長い夏の間は、コットンや麻などのさわやかな生地が中心でしたが、ウールやポリエステル混紡の布地でできた衣類に袖を通すことが増えてきました。

秋が深まるにつれて、素材だけでなく装いの色も変わってきます。黒や茶色など深い色合いの上着を着る人が路上に増え、街並みはより重みのある風景へと変わっていきます。
季節が変わってもずっと変わらないのは、装う人が見られることを常に意識していること。街の中心は人、街並みはその背景。舞台でいえば、主役と舞台セットのような関係です。

夏の色彩を彷彿させるドレスを身に纏った女性たち(ナポリ)夏の色彩を彷彿させるドレスを身に纏った女性たち(イスキア島)

街ゆく女性に見入る男性(イスキア島)街ゆく女性に見入る男性(ナポリ)

見られることを意識したポーズで電話中の男性(ナポリ)見られることを意識したポーズで電話中の男性(ナポリ)

個性的な装いでプールサイドパーティに参加する女性(ナポリ)個性的な装いでプールサイドパーティに参加する女性(ナポリ)

サルトリア、美しく魅せる追求

「装い」は、その人のスタイルやポリシーを表現する大事な手段。「自分」という素材を使ったプレゼンテーションです。特にナポリは、紳士服の発祥の地であることから、美しく「魅せる」ことにこだわる人が多い街。時にはちょっと過剰な人も見かけるほどです。

ナポリ市内のあちこちに、有名なサルトリア(仕立て屋)があります。ジャケット、シャツ、靴などを、顧客と話しながら何度も調整をして仕上げることをビスポーク(Be Spoke)といいます。こうしたビスポーク、いわゆるカスタムメイドの伝統が育ちやすかったのは、話好きな人の多いナポリならではだからでしょう。

こうした服飾文化が育った背景には、オペラ劇場がヨーロッパでいち早くナポリに誕生したこととも関係しているはずです。実際に、ナポリ市内には劇場衣装だけをつくるサルトリアが数軒残っています。

ナポリの有名なサルトリア、ルビナッチの看板息子ナポリの有名なサルトリア、ルビナッチの看板息子

熟練のサルトから次世代へ受け継がれる「装い」文化の伝統(ミラノ)熟練のサルトから次世代へ受け継がれる「装い」文化の伝統(ミラノ)

ナポリのサルトリア、キートンの女性向けのオーダーメイドのサンプルナポリのサルトリア、キートンの女性向けのオーダーメイドのサンプル

エレガントな装いでナポリのサンカルロ劇場で演劇鑑賞するご婦人たちエレガントな装いでナポリのサンカルロ劇場で演劇鑑賞するご婦人たち

オペラ専門の劇場衣装専門のサルトリア  (ナポリ)オペラの劇場衣装専門のサルトリア(ナポリ)

セラータと都市空間

お洒落をして夕食に出かけたり、演劇やコンサートに行ったりして夜の時間を楽しむことを、イタリア語でセラータといいます。

セラータは、待ち合わせ場所から既にスタートしています。広場や噴水前、カフェなどで友人を待ちます。南部の待ち合わせ時間は20〜21時。夏なら夕暮れ時、空の色がドラマチックに変わる時間。冬ならすでに街灯が灯されています。

劇場やレストランまで歩いてみれば、街の灯りに照らされた石畳や建物は、艶やかさを帯びてみえます。街並みがいつもの「装い」と違ってみえるのは、ランドマークとなる建築物だけでなく、普通の住宅街でも同じ。「あぁ、私はこの路地が好き」とか「ここから見える風景が好き」などと、普通のイタリア人が、都市空間にコメントすることがよくあります。
美しく装う人たちを引き立たせる都市の保存や修復、賑わいのある庶民のかいわいを守っていくことがいかに大切であるかを感じる瞬間です。

コロナ下はオープンエアーのテーブルで埋めつくされる路地空間(ナポリ)コロナ下はオープンエアーのテーブルで埋めつくされる路地空間(ナポリ)

庶民的な住宅街も保存され、ライトアップされれば、その街をもっと好きになれる(シラクーサ)普通の住宅エリアだって、店や照明が少し増えるだけで楽しくなる散歩(シラクーサ)

ランドスケープを生かした庭で開かれるパーティ(ナポリ)ランドスケープを生かした庭で開かれるホームパーティ(ナポリ)

夕暮れ時、いつも同じカフェに座る雰囲気のある男性(ナポリ)夕暮れに、回廊下にある同じバールに座る男性(ナポリ)

友達の友達

私のナポリの友人の多くは、出かける際に友人を連れてきます。その友人が別の友人を連れてきたりすることもあります。社交的な南イタリアの人は、一つのグループだけで社会的なネットワークが閉じてしまうということは滅多にありません。

その友人の友人と会うのは初めてでも、気があえば、電話番号を交換したり、名刺を交換したり、「遊びにきて」とか「また会おう」とダイレクトな言葉で伝えます。それが、単なるコネ目当てで近づいてくる人だったとしたら、細かいことは気にしないフリをすればいいのです。イタリアでは、みな役者ですから!
美しい空間と夜の灯りの下で、セラータを共にしながら、新しい友だちが増えると、しあわせ感で心がいっぱいになります。

シックに装い、ワインも飲んでセラータを楽しむ若い女性たち(リヴォルノ)シックに装い、ワインも飲んでセラータを楽しむ若い女性たち(リヴォルノ)

ドリンク1杯だけに集まる若者のセラータの目的は、みんなと一緒にいること(モノポリ)「友だちに会いたい」と、ドリンク1杯だけに若者が集まるセラータ(モノポリ)

友人グループと共に、路上パフォーマンスに見入る女性(ナポリ)友人グループと共に、路上パフォーマンスに見入る女性(ナポリ)

家主のコーディネート力が試される知らない人同士が招待される夕食会。人数が多いと、ケータリングや出張シェフを呼んで開催。主催者のコーディネート力が試される、知らない人同士が招待されるホームパーティー

セラータと社会を守る

自分たちの街で、好きな装いで、好きな仲間とセラータを過ごす。美意識が似たもの同士で、集まって何かをするのは極上の時間です。そのために生きているといってもいいほど。
そして、音楽や演劇などの文化イベント、都市空間やランドスケープ、美味しい食事は、家族や仲間と過ごす時の市民の幸福度や自己肯定感を高めてくれる重要な要素です。

コロナウィルスの第二波がやってきたイタリア。イタリアらしいセラータを続けることが難しくなってきました。
パンデミックの影響で都市生活が制限されるなか、自分たちの都市文化や社会性が途絶えてしまうことのないよう、子供から大人までデモに参加したり、市民が何だかの意思表示をする秋がスタートしたところです。

ナポリっ子の待ち合わせによく使われるジェス広場ナポリっ子の待ち合わせによく使われるジェス広場

コロナ化、多くの制限下で開催される演劇(ナポリ)コロナ禍、多くの制限下で開催される演劇(ナポリ)

中橋恵さんの記事をもっと読む
イタリアの情報が満載のメールマガジン登録はこちらをクリック
WRITER PROFILE
中橋 恵 Nakahashi Megumi
中橋 恵 Nakahashi Megumi

1973年岐阜県生れ。ロータリー財団、イタリア政府奨学金生としてナポリ大学工学部に留学の後、法政大学大学院工学研究科修士課程修了、ナポリ大学建築学部博士課程単位取得退学。地域再生に関するコーディネート、調査・執筆を行う。共著に『イタリアの小さな村へーアルベルゴ・ディフーゾのおもてなしー』、『世界の地方創生―辺境のスタートアップたちー』、『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』など。https://www.meguminakahashi.com/  https://www.instagram.com/creso.me/