自然は、ときに試練を与え、ときに思いがけない贈り物をもたらします。
2026年、イタリア・ボルゲリの名門オルネッライアを待ち受けていたのは、厳しい暑さと、ブドウの木が見せた驚くべき生命力でした。サッシカイアと並び、世界に名を馳せるスーパータスカンのひとつ。そのワイナリーを所有するのは、700年の歴史を誇るフレスコバルディ家です。社長のランベルト・フレスコバルディ氏のもと、畑を率いるチームが自然と向き合い、8月10日に始まった収穫は、9月23日に終了。歴史上、最も早い収穫のひとつとなりました。
その背景にあったのは、古木の生命力、長年培われた経験、そしてブドウの木の声に耳を澄ますことでした。
古木が見せた、驚くべき生命力
ワイン造りに、決して同じ年はありません。
2026年のオルネッライアも、自然の変化と向き合いながら、ブドウの木が持つ力を改めて実感するヴィンテージとなりました。
11月から2月にかけて降った雨は約250mm。土壌に蓄えられた水分は、その後の乾燥した季節を乗り越えるための重要な備えとなりました。
春は非常に乾燥し、温暖に推移。5月には雨と気温の低下があったものの、6月には再び日差しが戻り、気温が上昇しました。夏を前に、ブドウの木には厳しい状況が予想されたのです。

「夏に入ると、ブドウの木にとって非常に厳しい状況になる可能性があることに直面しました」
そう振り返るのは、オルネッライアのテクニカル・ディレクター、マルコ・バルシメッリ氏です。
ところが、畑で目の当たりにしたのは、予想を超える回復力でした。なかでも注目すべきは、オルネッライアに数多く存在する古木です。長い年月を生き抜いてきたブドウの木が、厳しい気候条件に見事に対応したといいます。
もちろん、古木の力だけではありません。土壌が水分を保持する力に加え、土壌や葉が茂る樹冠(キャノピー)を丁寧に管理してきたチームの努力も、ブドウの木を過度なストレスから守りました。
そして8月。畑が良好な状態を保つなか、待ち望んでいた雨が2度、絶妙なタイミングで降りました。
「まさに適切なタイミングに、適切な量の雨が降りました。そのコンビネーションにより、オルネッライアのブドウ畑は、最高の状態で成熟期を迎えることができました」

8月10日、異例の早さで収穫スタート
収穫は8月10日、白ブドウ品種から始まりました。
これほど早いスタートにもかかわらず、品質に妥協はありませんでした。バルシメッリ氏が期待を寄せるのは、フレッシュさ、輝き、そして豊かなアロマを備えた白ワインです。
続いて8月24日には、最初のメルローを収穫。その後も、それぞれの区画の成熟度を見極めながら、着実に作業を進めていきました。
すべてのブドウを一律に扱うのではなく、区画ごとに最適なタイミングを見定めること。収穫を急ぐだけではなく、ブドウが本来持つ個性を引き出すための判断が求められました。
そして9月、ヴィンテージの行方を左右する大きな変化が訪れます。

9月の雨が、ヴィンテージを変えた
転機となったのは、9月10日から11日にかけての降雨でした。
雨の後、夜間の気温は目に見えて下がり、日中は晴天に恵まれました。気温が28℃を超えることもなく、ブドウにとって理想的な成熟環境が整ったのです。
とりわけ、この変化を味方につけたのがカベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランです。フェノールとアロマの成熟をゆっくりと完成させるための、絶好の条件となりました。
現在、セラーのワインには、すでに品種ごとの個性が表れ始めています。
メルローは力強く、予想以上に生き生きとした表情を見せています。カベルネ・フランはクリーミーな質感とエレガンスを備え、カベルネ・ソーヴィニヨンからは深み、旨味、そしてしっかりとした骨格が感じられるといいます。
厳しい夏を乗り越え、9月の気候変化を経て、それぞれの品種が個性を発揮する。バルシメッリ氏の言葉からは、2026年のワインへの期待が伝わってきます。

早さだけでは語れない、2026年のオルネッライア
収穫は9月23日に終了しました。8月10日に始まり、わずか1カ月半ほどで幕を閉じた、オルネッライアの歴史上でも最も早い収穫のひとつです。
しかし、このヴィンテージを特徴づけるのは、収穫の早さだけではありません。
早く始まったからこそ、刻々と変わる天候とブドウの状態を見極め、必要なときに決断し、時には待つことが重要でした。
「この収穫を通じて、私たちは、あらかじめ決められたパターンに頼ることはできないということを改めて実感しました。そして、ますます複雑化する気候条件に直面したとき、私たちのブドウ畑には、自らバランスを見つける力があるのです」
バルシメッリ氏の言葉には、自然を思いどおりに操るのではなく、その変化を受け入れ、ブドウが持つ力を最大限に引き出そうとする造り手の哲学が表れています。
偉大なワインは、畑の土壌やブドウの木だけで生まれるものではありません。自然を観察する目、積み重ねた経験、そして決断すべき瞬間を見極める感性。そのすべてが重なり合って、ひとつのヴィンテージが形づくられます。
2026年のオルネッライアが示したのは、自然の変化が激しい時代だからこそ、ブドウの木の声に耳を澄ますことの大切さです。
早く収穫することと、急いでワインを造ることは違います。自然のリズムを読み、その年にしか生まれない個性を引き出す。そこにこそ、オルネッライアの真価があるのです。

オルネッライア公式サイト
https://www.ornellaia.com/ja/