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ペペロッソ今井和正の冒険「プーリア州チステルニーノのパン屋Panificio Palumbo(パーニフィーチョ・パルンボ)で修業してきました!」

1937年以来、三世代にわたりその地の伝統の味を守り続けるパン屋の一日を共に過ごす

愛されるからこそ残されてきた伝統の味の秘密にせまる。
イタリアでもとりわけ小麦の風味が強くて美味いパンがあると言われているプーリア州。イタリア郷土料理をやっているとよく耳にする言葉です。その真偽を確かめるべく、今回はプーリア州のチステルニーノへと足を運びました。

パン屋さんの朝は、日本もイタリアもめちゃくちゃ早いです。今回の待ち合わせ時間は朝5時半。ここからすでにパン屋さんの修行は始まっています。
前泊は食肉加工で有名なマルティーナ・フランカにいたので、誰もいない夜道を通って向かいます。マルティーナ・フランカからチステルニーノは車で15分程のすぐのところにありますので、行かれた際には周遊コースとしてもオススメです。かなり濃いキリがでますので、スピードの出し過ぎには要注意。

道中には、プーリア州といえばのトゥルッリもチラホラと。トゥルッリにはたくさんのストーリーが詰まっています。今日はその中でもポピュラーな物を1つご紹介させていただきます。

かつて、この町の領主が、治めている土地に建つ家の数に対して税金を納めなければいけませんでした。重い税制から逃れるために人々が考えたのが、なんと『解体しやすく、直しやすい家』でした。税金対策として、家を壊してしまうという大胆な行動にでたわけです。家を壊すといっても、全体を壊すのではなく、積み上げられた屋根を崩すといったものでした。独特な屋根の形には、そのような背景があったのでした。そのため、トゥルッリの屋根には接着剤のような物は使われていません。
この地に生きる人々の想いが強く込められた建物であることがわかります。

店主からエプロンを借り、いざパン作りに!

プーリア色強めの道を超えるとにパーニフィーチョ・パルンボ到着です。まずは店主のMichele(ミケーレ)さんにご挨拶。
早速着替えます。使い込まれたエプロンを貸してくださいました。何かこう受け入れてもらった実感がフツフツと湧いてくる瞬間です。エプロンのひもと共に気を引き締め直します。

パーニフィーチョ・パルンボではたくさんの種類の粉を、造るパンによって変えています。
日本にはあまり多くの種類のイタリア産の小麦粉は入ってきていないので、このような瞬間に立会ってしまうと料理人の血が騒いでついつい質問攻めしちゃいますね。

アルタムーラにある粉屋さんのセモリナ粉。アルタムーラはパンの町として有名。イタリアでもいち早くパンとして原産地名称保護をうけた筋金入りのパンの町なのです。そんなパンの町の粉屋さんのセモリナ粉。気になりすぎます。

こちらはLATTE SCREMATO IN POLVERE(ラッテ スクレマート イン ポルヴェレ)といい、いわゆる脱脂粉乳の事です。パンにミルクの風味を与えたり、コクを出したり、さらには焼き色をつけるといった目的で使われる事があります。イタリア好きの私からすると、イタリア産の脱脂粉乳ってだけでテンション上がってしまいます。

ほどなくしてパニフィーチョ・パルンボのマエストロであるCiro(チーロ)さんと合流しました。チステルニーノのパンの味を守り続けている偉大なパン職人さん。1933年生まれの大ベテラン。人柄の良さが表情にあらわれています。

勢揃いしたところで早速計量していきます。イタリアで修行した事がある人ならまずここでつまずくというか、ビックリするポイントだと思います。

レシピは“オッキオ”、見た目で判断せよ?!

多くの場合、どれくらい計量したらいいですか? と聞いたら“オッキオ”だよ!と言われます。オッキオとは? 目? なんだろう? と聞くと、見た目で判断するという事という答えが返ってきます。“見た目”というワードに、多くの日本人の方は困惑するでしょう。そこは“郷に入れば郷に従え”という言葉があるように、“イタリアに入ればイタリアに従う”というようにすれば大丈夫。基本面倒見のいい彼らなら間違ったらちゃんと教えてくれます。大切なのは挑戦する事だと思います。

この“見た目”的な計量基準というか価値観は、レシピ本にも大いに反映されて【q.b.】という表記になって記されています(笑)。その表記を見たときは、臆せず“だいたい”でまずは挑戦してみてください(笑)。

そんなこんなで計量完了です。今回の記事では、実際にイタリアのパン屋さんで使われている専門用語もご紹介していきたいと思います。現地で使われている【言葉】から地方性といった個性をお楽しみいただければと思います。

Tradizione e innovazioneつまり、伝統と革新を掲げるPietroberto社のパンミキサーで捏ね上げていきます。伝統と革新を三世代に渡って積み上げてきたパーニフィーチョ・パルンボにはピッタリのマシーンですね。

どんどん何種類もの生地を練りあげていきます。

spezzaturaまたはformaturaと呼ばれ軽くひとまとめにしていきます。

こちらは生地にオリーブオイルを塗って、焼きあがった時の皮面を柔らかくするという技。このまま発酵させていきます。発酵はLievitazione

こちらもまたspezzaturaまたはformaturaと呼ばれ、一個ずつのパンの大きさに切り分ける作業に入ります。

蓋を閉めれば一気に切り分けられる優れもの。

断面はこんな感じに。tipo 0タイプの小麦粉と、インテグラーレと呼ばれる全粒粉、ジェルマという名の小麦胚芽入りのセモリナ粉で出来上がった生地です。

1° formatura e 2° lievitazioneと呼ばれる1回目の軽い成形と2回目の発酵中です。【1°】1回目、【2°】2回目という意味になります。この絶妙な型を作るのがとても難しくかなり手こずりました。ポイントは、先端を少しとんがらせる事により、後々の成形をしやすくするというところにあります。生地に必要以上に触れない事に重きを置いています。

formatura finale integliamento e 3° lievitazioneクルクルと生地を巻き上げて最終成形をし、3回目の発酵へと移ります。発酵後は、いよいよ焼きに入ります。
置く場所によって熱の入り方が僅かですが異なるため、職人の経験を持って最終的な置き場所を決めていきます。いつもは優しい表情のチーロさんも職人の顔に。工房内に緊張感が漂います。

パニーニ用のパンとなって焼きあがりました。焼きたてのパンは音楽を奏でます。 “パチパチ”と弾けるような打楽器音が工房内を香ばしい香りとともに広がります。

こちは、編み込みタイプのTRECCEというパン。

焼きあがりました。焼く前にちょっとだけ粉糖をふっています。

ユダヤの伝統と深く結びつきのあるPANE AZZIMOです。無発酵のパンで、調理時間が短い事がら“逃亡者のパン”と呼ぶ人も。保存性が高いのも特徴の1つ。かつての歴史が見え隠れする味だけではないパン。

プーリア州といえばサクサクのTARALLI。こちらは胡椒入り。プーリア的アペリティーボには欠かせません。

量をたくさん焼く時には、親子二人がかりで釜入れをしていきます。チーロさんとミケーレさんにとっては当たり前の日常でも、私にとっては心が打たれた瞬間でもありました。

パンの焼き上がりを待つ二人の背中。伝統がしっかりと親から子へと受け継がれ、そしてまた次の世代へと繋いでいく。

朝早くから焼き上げた渾身の自慢のパン達を店頭に並べます。

オープンと同時に店内にこもっていた焼きたてのパンの香りが町へとでていきます。香ばしい香りにつられて地元の常連さんが早速やってきました。買うものはいつもと一緒。ミケーレさんと会話を楽しみに来ているそうです。
伝統を守りながら、地元に愛されるパニフィーチョ・パルンボ。
チステルニーノのパン文化だけでなく、【伝統を繋ぐ家族愛】の大きさに感銘を受けた旅となりました。

白く綺麗な街並みを有するチステルニーノには古き良き家族経営の形がありました。家族経営が多いイタリア。愛溢れる国と呼ばれるのも納得です。

さて、パンの風味ですが、南イタリアになるとセモリナ粉が入ることが増えます。このセモリナ粉がポイントで、一般的な小麦粉と比べると小麦の香りが強い事が特徴です。ですので、今回のプーリア州を含む南イタリアのパンの特徴の1つとして、小麦の香りが強いエリアだといえます!

ペペロッソではこの体験を取り入れて、プーリア州のパンを焼くときは、守られてきた【伝統】つまり、プーリア州のパンの掟をしっかりと守り日本にて伝統を継承していこうと思います。パンには、美味しさを楽しんだり、空腹を満たすためのも以外に、イースターや、お祭りといった日に焼かれるパンがあります。いわゆるイベントパンもその同じ日に焼く事で日本でもそのパンが持つ歴史や、本国イタリアでの行事の紹介を、1つの【パン】を通して普及していきたいと思います。

そのイベントパンを見たいが為に、本国イタリアまで皆さんが足を運んでいただけるようなきっかけになれれば、日本のイタリア郷土料理店としてイタリアへの恩返しに繋がるのでは?と考えております。ペペロッソはイタリアの食文化を発信するレストランです。皆様にとって食を通してイタリアと日本の架け橋のようなレストランとなれる事を1つの目標としています。

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