イタリアでは毎年11月頃から、ベーカリーやスーパーなどで販売され始める「PANETTONE(パネットーネ)」。
イタリアの北部、ロンバルディア州発祥のクリスマスシーズンの菓子で、最近は日本でもクリスマスシーズンを中心に、少しずつ見かける機会が増えてきました。一方、常温で1ヶ月〜2ヶ月と日持ちもすることもあり、イタリア本国ではシーズンに関わらずパネットーネを買い求める観光客が増えたことから、一年を通じて作るメーカーや、ロンバルディア州だけでなくイタリア各地でパネットーネを作る菓子店やベーカリーが増えています。そう、イタリア人だけでなく、パネットーネが大好きな人は多い!!でも日本での認知度はまだ低い・・・。
そんな美味しいパネットーネを、もっと知ってほしい、食べてほしい、そして、作ってほしいと願ってきたパネットーネを愛する3人によって作られた任意団体「PANETTONE SOCIETY」が今年11月1日、日本に発足しました。
メンバーはイタリアに魅了され、イタリアを愛し、イタリアにまつわる仕事をしているイタリア食文化の達人!
イタリアではいくつかのパネットーネコンテストがあります。そんなコンテストに毎年足を運んでいる八木理江さんをはじめ、イタリア食文化に詳しい柴田香織さんとイタリア在住の池田愛美さんの3名が発足した本団体。イタリアを、そしてパネットーネを愛してやまない3人が、パネットーネの普及と啓蒙を目的に立ち上げたのが、「PANETTONE SOCIETY」なのです。
●パネットーネの認知拡大と試食機会の拡大を目指します。
●イタリア本国のパネットーネ啓蒙団体とも連携し、日本国内でのパネットーネの知識を作る側、食べる側、両面から 広め、深めていきます。
●パネットーネの定義を明らかにして、食文化としてのパネットーネの保護に務めます。
●パネットーネと共に周辺のカルチャーを楽しむ活動も行います。
●コロナ禍で厳しい状況にある日伊の飲食業界の賦活のために、パネットーネを共有財産として、業界がその発展に 協力する環境作りに尽力します。
本物のパネットーネには定義がある!
現在のパネットーネは、クラシックなタイプからコンテンポラリーと言われるような独創的なものまで、バリエーションが豊かになり、パネットーネを普及する団体による国際的なコンテストも行われるようになってきました。
しかし、伝統的なパネットーネには、厳密な定義が決められているんです。
①クラフト・パネットーネ・トラディショナル
パネットーネ発祥の地とされるロンバルディアで、トラディショナルまたはクラッシックと呼ばれる伝統的なパネットーネは、紙の型で焼いて作られます。
基本となる材料は、小麦・水・砂糖・バター・サルタナレーズン・オレンジピール・チェードロ(シトロン)の砂糖漬け・塩・発酵種(粉と水から起こした自家培養発酵種)・その他自然の甘味料など。ビール酵母やインスタントイースト、植物性油脂、添加物などは使用してはなりません。
②クラフト・パネットーネ・コンテンポラリー
トラディショナルで使用してはいけない材料をのぞき、作り手の自由な発想で生地の質感、風味をアレンジし、混ぜ込む副素材もオリジナリティを表現したもの。レストランなどで作られることが多いとか。
③セミ・クラフト・パネットーネ
クラフト・パネットーネの基本に則りつつ、製菓メーカーが、規模の大きな作業場で製造したパネットーネ。トラディショナル、コンテンポラリーのどちらも含みます。
トラディショナルという決められた枠の中で作られたパネットーネでさえも、店によってさまざまな味わいや風味があり、同じ素材を使っているのにまったく違うものになります。ましてやコンテンポラリーともなれば、その枠は開放され、例えばトリュフや生ハムを使ったしょっぱい食事系からチョコレートを使うなど無限に発想が広がり、楽しさが何倍にも広がるパネットーネ。どこに美味しさを見いだすかは、自分次第というわけですね。
発足2ヶ月で3つのイベントを実施!
11月1日に発足した「PANETTONE SOCIETY」は、スタートアップイベントとしてオンラインセミナーを実施。「パネットーネって何ですか?」というテーマのもと、ミシュランガイド東京2021でも1つ星を獲得している麻布十番の「ピアット・スズキ」の鈴木弥平シェフが講師として招かれました。初めてのイベントでしたが、既にパネットーネのポテンシャルの高さと手応えを感じたとか。
第二弾は、中目黒の「Clandestino 41(クランデスティーノ41)」で開催された「イタリアカクテルとパネットーネ&パンドーロ」。料理研究家のアンドレア・コッコさんがアレンジしたパネットーネとパンドーロ、そしてフィレンツェのシークレットバー「ラスプーチン」のコラボレーションが展開されました。
Clandestino 41
Instagram @clandestino_41
そして、第三弾は、池上の「PepeRosso(ぺぺロッソ)」で行われた、「比較テイスティング」イベント。全10種類のパネットーネとドリンクペアリングによるテイスティングイベントで、ソーシャルディスタンスをとっての開催でした。各自テイスティングノートを取りなから、好みのパネットーネやペアリングをチェツク。今年最後のイベントとなりました。
PepeRosso
https://www.peperosso.co.jp/
「マンダリン オリエンタル 東京のパネットーネ×Franciacorta×PANETTONE SOCIETY」で新たな魅力を発見
日本橋にある「マンダリン オリエンタル 東京」でも、パネットーネに力を入れており、「PANETTONE SOCIETY」の発案でロンバルディア出身のフランチャコルタと同ホテルのパネットーネとのマリアージュを楽しむ集まりが開催されました。
お菓子として食べられることの多いパネットーネですが、フランチャコルタと楽しめる新たなシーンや楽しみ方を提案してくれました。
そして、フランチャコルタとパネットーネの共通点は産地だけではありません。発酵期間の長さから生まれる「酵母の旨味、質感、複雑性」と共通点が多くあります。パネットーネの柔らかな質感とフランチャコルタのきめ細かな気泡が同調し、共鳴し、長く心地よい食感を演出してくれる、とても相性の良いコンビなんです。
今回パネットーネを焼いてくれた、マンダリン オリエンタル 東京のシェフベーカーの中村友彦氏さんもパネットーネに魅了されたひとり。中村さん曰く「パネットーネは、発酵や焼成、酵母、そして素材や味の構成とベーカリーの技術を総結集したようなもので、難易度が高いのですが、作るのがとても楽しい」と、とても愛おしそうな眼差しで語ってくれました。そんな一流のシェフベーカーもハマるのがこのパネットーネなのです。
総料理長がイタリア人だったことも好環境を作ったようで、度々味をチェックしてもらい、アドバイスをもらいながら自身でたねを起こし作ってきたとか。パネットーネの工程は長く、3日間の発酵と本ごねやリフレッシュを経て作ります。中村さんは、日本の強力粉を使うなど、独自のこだわりを持って作り上げています。今回、そんな中村さんが作った3種のパネットーネとシェフソムリエの野坂昭彦さんのフランチャコルタペアリングが実現しました。野坂さんに伺ったペアリングのポイントと共に、中村さんが愛してやまないパネットーネをご紹介しましょう。
「パネットーネ・クラシコ」×「カ・デル・ボスコ フランチャコルタ キュヴェ プレステージ」
このパネットーネ・クラシコは、オレンジピールとレーズンという基本的なもの。香り高いオレンジを使用し、全体が均一にならないよう混ぜることで、食べた時に味わいが単調にならないように考えて作っているとか。
ペアリングのポイントは、「フレーバーとテクスチャー」。「カ・デル・ボスコ フランチャコルタ キュヴェ プレステージ」が持つ特徴的な柑橘系フルーツのフレーバーが、パネットーネのオレンジ風味と同調し、華やかで爽やかな余韻を感じさせてくれます。
「チョコレートとチェリーのパネットーネ」×「イル モスネル フランチャコルタ ブリュット ロゼ」
このパネットーネは、チョコレートの苦味とキルシュに漬けたドライサワーチェリーの酸味のバランスを生かして作られています。
ペアリングのポイントは「アロマ、酸味と渋み」。チョコチップの穏やかな酸味と渋味がロゼの持つ心地よい果実味、タンニン、酸味と相乗して優雅な味わいを与えてくれます。ドライサワーチェリーの酸味とアロマが余韻を牽引して華やかな印象を感じさせてくれます。
「栗とカシスのパネットーネ」×「モンテ ローザ フランチャコルタ “カボション” ブリュット ミレッジマート2013」
マロングラッセの食感がぽろっと砕け、口の中で印象深く感じられるパネットーネ。
ペアリングのポイントは、「苦味、複雑味と奥行き」。マロンの渋苦みとコクある味わいは、ロースト香や複雑な風味を呈した「モンテ ローザ フランチャコルタ “カボション” ブリュット ミレッジマート2013」と出会うことで、奥行きのある長い余韻を魅せてくれます。ドライカシスの酸味と風味がアクセントとなり、ワインのコクと共に抑揚のある味わいを楽しませてくれます。
新たな発見と魅力を感じさせてくれた、フランチャコルタとパネットーネのペアリングでした。ザ マンダリン オリエンタル グルメショップでは、今後一年間を通じてパネットーネの販売を計画中というお話も。日本でもパネットーネ熱が高まりつつあるようですね。
ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ
https://www.mandarinoriental.co.jp/tokyo/nihonbashi/fine-dining/cake-shops/gourmet-shop
フランチャコルタ協会日本事務局
http://www.franciacorta.net/ja/
食べやすくて、日持ちもする。どんなシーンでも食べられるパネットーネ。
日本にも専門店ができたり、鈴木弥平氏や中村友彦氏同様、パネットーネに魅了されているシェフたちも多いことがわかりました。
日本にパネットーネを広めたい、そして作る人と食べる人を繋ぎたい、そんなパネットーネ愛に満ちた3人が作り上げた「PANETTONE SOCIETY」。パネットーネが日本のクリスマスのお菓子の定番に仲間入り!そんな日も近いかもしれませんね。
PANETTONE SOCIETY
https://panettonesociety.org/
代表理事 株式会社RIDEA 八木理江
“美しいもの”“美味しいもの”をテーマに、クライアントのコミュニケーションをデザインする PR会社「株式会社RIDEA」を創業。食品、飲料、ファッション等のブランディング、PR、イベントプロデュースを手掛ける。イタリアのパネットーネコンテスト にも足を運んでいる。
プロデューサー 株式会社KOTODAMA PRESS 柴田香織
食の役立つ情報と体験の提供がモットーの株式会社KOTODAMA PRESSを設立。食分野のコンサルティン グ、ディレクション、編集執筆などを行う。イタリアのUniversita degli Studi di Scienze Gastronomiche(食科学大学) 修士課程修了第一期生。 2020年3月まで株式会社三越伊勢丹研究所で食品ディレクターを務め現職。
ディレクター OFFICE ROTONDA 池田愛美
1998年よりイタリア、フィレンツェを拠点に主に食の分野で取材執筆活動に従事。ジャーナリスト協会 Free Lance International Press (FLIP)、イタリア・オリーブオイル・テイスター協会 Organizzazione Nazionale Assaggiatori Olio d’Oliva(ONAOO)所属。著書に「イタリアの地方菓子」(世界文化社)、など。イタリア現地の食事情を発信する saporitaweb.com を共同主宰。