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鎌倉のオルトレヴィーノには、イタリア人もレシピを聞きたくなるりんごのケーキがあった|東京ドルチェリレー【第3回】 | スイーツ

思わず誰かにおすすめしたくなるようなおいしいドルチェが食べられる東京都内のショップを、数珠つなぎのようにご紹介していく連載コラム「東京ドルチェリレー」。スイーツのプロがハマったツウなドルチェをぞくぞくご案内します!

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Kamakura

前回訪れた〈トラットリア 29〉の竹内さんが教えてくれたおすすめのショップ、〈オルトレヴィーノ〉があるのは、神奈川県鎌倉。「東京ドルチェリレー」なのに、東京を離れるというまさかの事態ですが、「本当におすすめ! 特にりんごのケーキはぜひ一度食べていただきたい」という竹内さんの熱いコメントに、これは取り上げないわけにはいかないと思い、さっそく向かうことにしました。

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由比ヶ浜駅から歩くこと5分程度で、〈オルトレヴィーノ〉に到着。こちらは、店内ではお食事やワインも楽しめて、お持ち帰りでお惣菜や食材も買える、エノガストロノミアというイタリアではポピュラーなタイプのお店です。お出迎えしてくれたのは、オーナーシェフの古澤一記さん。あがるイタリア編集部はさっそく、竹内さんおすすめの「りんごのケーキ」についてたずねてみました。

特別なことはしていないのに、なぜか美味しい

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—―古澤さん、よろしくお願いします!〈トラットリア 29〉の竹内さんから「りんごのケーキ」がとても美味しいと聞いてきたのですが、それは一体どういったドルチェなのでしょうか!?

イタリアではトルタディメーレと呼ばれるもので、私が作っているのはフィレンツェ風のりんごのケーキになります。いつごろから生まれたのかわからないくらい昔からイタリアにあるケーキで、家庭でマンマやおばあちゃんがよく作ったりしますよ。

—―へえ、そうなのですね。味としてはどういった特徴があるのですか?

とにかく素朴でシンプルな味です。作る人によってもちろんさまざまですし、私自身、りんごのケーキのレシピをいくつか持っていますが、中でもシンプルなものが私は好きです。

—―それは昔からの伝統や文化を守ろうというお気持ちからでしょうか?

そういった気持ちもあるにはありますが、単にシンプルなものが一番美味しいと思うからですね。

—―あれこれこだわったものよりシンプルなものの方が美味しいのですか?

そのレシピは私がイタリアで修業をしていた、フィレンツェで一番長い歴史を持つレストランで教わったものなのですが、素材にしても調理工程にしても特別なことはしていません。なのに、美味しいんですよ。

—―不思議だ…。そう言えば、〈トラットリア 29〉の竹内さんが、イタリアで修業していた時に、割と大雑把に分量する人が多くて驚いたと言っていたのですが、古澤さんが修業されていた時もそうでしたか?

ああ、あれはびっくりしました(笑)。

—―やっぱりそうだったんですね(笑)

「それは何グラム入れるの?」と聞いたら「私の手で2杯くらい」とか言われたり(笑)。

—―(笑)。

ただ、レシピをとにかく追う時よりも、ある意味「腑に落ちる」場合も結構あるんですよ。手で触った感じとか、目で見た感じとか、数字にはないものも多くありますからね。

—―ああ、なるほど。ではこのりんごのケーキも、そういったレシピにはない要素を多く含んでいるのですね。

まあでも本当に素朴なものですから(笑)。変に構えないで、気軽に食べてみてください。

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こちらがそのりんごのケーキ、トルタディメーレです。さっそく、いただいてみましょう。見た目は結構ずっしりとした感じと言いますか、りんごにしてもスポンジケーキにしてもボリューミーな印象ですが、一口食べてみるとその「軽さ」にびっくり。りんごは青森の紅玉で、古澤さんいわく、紅玉はオーブンの熱が入っても味がぼやけないのが魅力なのだとか。

確かに程よく甘くて、かつ心地よい甘酸っぱさが残っていて、とても美味しいです。スポンジケーキも思ったより全然パサパサしてなく、りんごから出た水分を含んで、しっとりとした食感に仕上がっています。レーズンに松の木、そして濃厚なバニラのジェラートなどと組み合わせることでさまざまな味を楽しめるのも良いですね。

いかにもエレガントな味わいではなく、古澤さんがおっしゃるように、味わいは確かに素朴と言えるのかもしれません。ただ、その一言で片付けられないほどにとても美味しいです。個人的にりんごを使ったケーキやタルトはあまり好きではなかったので、内心ドキドキしていましたが、その価値観を壊すほどの味でした。

“しみじみとした”おいしさがイタリアンドルチェの魅力

—―古澤さん、とても美味しかったです…! 感動しました。

ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです!

—―スポンジケーキが思った以上にしっとりしていて食べやすく、あっという間にいただいてしまいました。

女性のお客さまでも、食事後のデザートにペロッと食べられるくらい軽いですからね。

—―ただ、軽いからといって物足りない訳ではなく、味もボリュームも大満足でした。

りんごのケーキは、やっぱりシンプルで素朴なものが一番美味しいと思うんです。イタリアにいた時も、イタリア人のパティシエやシェフからよく「このりんごのケーキのレシピを教えて欲しい」と言われました(笑)。

—―イタリアの方が思わず聞いてしまうのもわかります(笑)。

ただ、レシピも別に変わったものではありません。レシピは普通でも、生地の立て具合など細かいところの違いで最終的な仕上がりが変わってきているんですよ。

—―では、たとえ同じレシピだとしても、このりんごのケーキに必ずなる訳ではないのですね。

その通りです。

—―シンプルって、奥深いなあ…。ところで、古澤さんはイタリアのドルチェのどのようなところに魅力を感じられますか?

そうですね、りんごのケーキに限らず、やはり素朴でシンプルなところにとても惹かれます。例えばイタリア菓子とフランス菓子を比べると、技術的にはフランス菓子の方が技をたくさん駆使しているものが多いです。ただ、必ずしもそれが良いという訳ではなく、それぞれに良さがあります。テクニックはそれほど使っていなくても、時代に流されないような、昔からずっと変わらない“しみじみとした”美味しさがイタリア菓子の魅力だと思いますね。

—―なるほど。古澤さんがドルチェに感じる魅力は、まさにこのりんごのケーキに詰まっていますね。

流行にとらわれないで、自分の好きなものやスタイルを確立していて、シンプルだけど上質といったものが、イタリア人の暮らしで良いなあと思うところなので、そのような考え方を食やこの空間を通じてご提案できればと思っています。

古澤さんが東京でハマったドルチェは?

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—―最後に、古澤さんおすすめのドルチェが食べられる都内のショップを教えていただけますか?

渋谷にある〈タロス〉というイタリアンはいかがでしょうか。そちらのオーナーである馬場圭太郎シェフが手がける「セアダス」というサルデーニャのお菓子が特におすすめです。私がこのお菓子を知ったのは馬場シェフのおかげで、イタリア修業に行く1年前の1999年、当時働いていたトラットリアに、イタリアでの修業を終えて帰国されたばかりの馬場シェフが就かれたのです。私はそこでセアダスを初めていただき、他にも馬場シェフが作られたさまざまなお料理をいただいたのですが、もう全てが美味しくて、とても衝撃的でした。私も2000年にイタリアに行き、2003年にはサルデーニャ島のオリスターノへ修業に行きましたが、サルデーニャに興味を抱き、魅力を感じたのは馬場シェフの影響もあったと思います。

—―そうだったのですね。

ちなみに、私がサルデーニャで修業していたころ、帰国後も毎年のようにイタリアに行かれていた馬場シェフが、私のもとにもよく訪れてくださいました。私のおんぼろフィアットに乗って、二人でサルデーニャをまわらせていただいたのは、とても楽しく、大切な思い出です。

いかがでしたか? 素朴でシンプルなのに、イタリア人パティシエも思わずうなるほどにおいしいりんごのケーキ。この一品のために鎌倉へと足を運ぶ価値があるものなので、2018年のはじまりにぜひ、訪れてみてはいかがでしょうか。次回は古澤さんがハマった、〈タロス〉のドルチェをご紹介したいと思います!

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INFORMATION
OLTREVINO(オルトレヴィーノ)
神奈川県鎌倉市長谷2-5-40
TEL:0467-33-4872
営業時間:(イートイン)12:00〜18:30(LO)
(ショッピング)12:00〜19:00
定休日:水曜日
http://oltrevino.com

【初出:この記事は2018年1月3日、初公開されました@AGARU ITALIA】