心と胃袋をくすぐる「まかない」をテーマに、料理の楽しさや奥深さを皆さまにお伝えする連載『イタリアンシェフのまかないレシピ』。
第4回となる今回は、新宿御苑のイル バッティクオーレ(第2回記事参照)にご紹介いただき、千駄ヶ谷の「マンジャペッシェ」に(お腹を空かせて)おじゃましました。東京メトロ副都心線の北参道駅から徒歩約3分、JR山手線の原宿駅からも徒歩圏内と、すれ違う人皆オシャレに見えるような好立地。東京で「海の幸のおいしいイタリア料理店は?」と聞かれたら、ここを挙げるイタリア料理ファンも多いであろう実力店です。
今回お料理を担当してくださるのは、この3月にマンジャペッシェの新料理長に就任されたばかりの泉地圭太(いずみち・けいた)シェフ。笑顔が素敵ですね。今回が料理長としての初取材ということですが、快くお引き受けいただきました。
お店の外壁に描かれたロゴマークや、マンジャペッシェ=「お魚を召し上がれ」という店名からも、魚料理への自信がうかがえます。
店内は天井が高く広々としており、高級感があります。とはいえギラギラした雰囲気ではなく、落ち着きのあるオトナの空間。普段使いだけでなく、デートや会食などキメたい時にも使えそうです。
マンジャペッシェのまかない「魚のお頭のズッパディペッシェ」
広く開放感のある厨房に入ると、そこに用意されていたのは新鮮な素材の数々。中でも圧巻は、何かのお祝いかしらと思うほど大きな真鯛のお頭!
泉地シェフによると、お店が忙しい時ほど魚のアラが大量に出るそうで、つまりまかないも豪華に。ダブルでうれしいですね。お客さまにお出しする食材には非常にこだわっているため、ホントは焼くだけでもすごくおいしいらしいです。タコもお客さまに出せない切れ端の部分を使用します。
今回作っていただくのは、ズッパディペッシェ=魚介のスープ。
まずはフライパンでオイルとニンニクを火にかけて香りづけを。ニンニクは皮付きのままだとやさしい香りがつけられるそうです。塩を振っておいた鯛は皮目からジュジューッと焼き付けます。野菜は芽キャベツなど固いものから投入。茸はちょっとほろ苦さのあるタモギタケです。
ふと気になったのが、あまり見慣れないオーバルのフライパン。アクアパッツアなど魚料理が多いマンジャペッシェではほとんどのフライパンが楕円形だそうです。どことなくかわいらしくてステキですよね。
「いい焼き色だな」と、鯛を裏返す泉地(新)料理長。その奥にチラリと見えるのは、清水明完(旧)料理長。
実は清水シェフ、恵比寿に6月オープン予定の新店「S(エッセ)」に移ることが決定。というわけで、マンジャペッシェではしばらく新旧料理長が揃い踏み。新店の「S(エッセ)」はカウンターでコース料理主体の提供になりそうとのことで、こちらも気になります!
いい塩梅に焼き色が付いた鯛はすでにおいしそう。そこに水を豪快に注ぎ入れます。
「ワインを入れることも多いと思いますが、素材そのものに旨みが豊富なので水だけを入れてその味わいを活かしてます。普段お客さまにお出しする料理でもワインはほとんど使いませんね」とは、泉地シェフの弁。
アサリを投入して煮込みます。「激しい味にしたいのでアクも取りません」とのこと。
トマトソース、エキストラバージンオリーブオイルを入れて味を調えます。最初にトマトソースを入れてしまうとスープの濃度が高くなるので、旨みがスープに出て行かなくなるそうです。スープに旨みを引き出すテクニックは、ご家庭の料理でも使えますね。
菜の花も投入。けっこう強火でぐつぐつ煮込んでいます。
火を止めたらお皿に盛りつけて、仕上げにイタリアンパセリをふりかけて完成!
【レシピ】
魚のお頭のズッパディペッシェ(2人前)
材料
魚の頭(真鯛)・・・1/2個
季節の野菜・・・適量
タコの足先・・・4本
アサリ・・・6個
ニンニク・・・1片
トマトソース・・・40g
水・・・600㏄
イタリアンパセリ・・・適量
EXVオリーブオイル・・・適量
作り方
①魚の頭に塩をし、5分ほど置く。
②フライパンにつぶしたニンニク、ピュアオイル(分量外)を入れ弱火にかけ香りを出す。
③魚の頭、野菜、タコを香ばしく焼く。
④両面焼きあがったら、水、あさりを入れ沸騰させる。そのまま5分ほど煮込む。
⑤トマトソース、EXVオリーブオイルを入れ味を調える。
⑥お皿に盛り付け、刻んだイタリアンパセリをかけて完成。
泉地シェフ自ら取り分けてくださいました。いただきます!
鯛に振った塩だけとは思えない、深みがあり、しっかりと骨格のある味わい。魚介や野菜など食材一つひとつの旨みが一体となって広がり、鯛はふんわり、芽キャベツはやわらかく、蛸はクニュクニュと、多様な旨みと食感のシンフォニーを奏でます。鯛のアラには(残り物なのに!)意外とたっぷり身が付いていて、骨まわりからごっそり取れた身を頬張れば、口福のベクトルが振り切れそう。
スープはフォカッチャでぬぐって残さずに。これまた至福。ただのトマトスープとは一線を画す、滋味あふれる贅沢なおいしさに満ちたスープです。
マンジャペッシェのひと皿「2種類の海苔と柚子ごしょうのクリームソース 自家製コンキリエ」
2品目は、マンジャペッシェのスペシャリテ「2種類の海苔と柚子ごしょうのクリームソース 自家製コンキリエ(Conchiglie della casa alle arghe con panna)」を作っていただきます。
まず取り出したのは、海苔2枚。このメニューは2種類のノリを組み合わせるところがミソなのです。さて、この海苔の違いが分かりますか? ・・・正直、素人目には違いがまったく分かりませんが、こういった素材一つひとつへの飽くなき探求がマンジャペッシェらしさでもあるのでしょう。ちなみにお値段をお聞きしたところ、なかなかの高級海苔でした。
そして2つめの特選素材が、生の自家製柚子ごしょう。大分県在住の調味料マイスター、神谷禎恵さんの作るフレッシュな柚子ごしょうに出会ったシェフが感動して使用することになったそうです。この柚子ごしょうは、青柚子と青唐辛子の旬が重なる9月の数週間にしか作ることができませんので、こちらは冷凍保存していたもの。作りたての鮮烈な風味はないそうですが、それでも市販のものとはまったく異なる十分に豊かな香味。ほどよい苦味があるところも特徴です。このままお酒のつまみにもなりそう。
最後のこだわり素材はパスタ。貝殻の形状をしたパスタ「コンキリエ」を手づくりします。まずは強力粉で打ったパスタの生地を小さくカット。
親指でグニーッ。スダレのような板の上にパスタ生地を押しつけます。
するとコロンと貝殻のような形状ができあがります。見ていると指先からパスタが出てくる魔法のようで面白いですが、これを何度も繰り返すわけで、かなり地道で大変な作業ですよね。
では、いよいよ調理に移ります。まずはコンキリエを塩水で3分ほど茹でます。
フライパンに少量の水を入れて海苔を溶かし、生クリームを追加。そこに茹であがったコンキリエを和えます。
高い打点から塩で調味。さらにパルミジャーノレッジャーノもふりかけます。
調理自体はいたってスピーディ。お皿に盛りつけて、柚子こしょうを散らせばできあがりです。
マンジャペッシェのスペシャリテ「2種類の海苔と柚子ごしょうのクリームソース 自家製コンキリエ(Conchiglie della casa alle alghe con panna)」です。
この独創的なメニュー、実は全くのオリジナルというわけではありません。マンジャペッシェは現在では独立したお店ですが、1996年のオープン時は「アクアパッツア」の日高良実シェフが監修していたのです。そして、この「海苔と柚子ごしょうのクリームソース」は日高シェフが考案したレシピが元になっています。もっとも、現在のレシピは当時とはかなり異なる点も多く、マンジャペッシェ流のおいしさに昇華されています。
ワインと一緒にいただきます!
パスタに合わせてセレクトしたワインは、イタリア中部ウンブリア州のロッカフィオーレ社の「フィオールフィオーレ」。使用されているグレケット種は通常ワイン造りで主役になる品種ではないそうですが、造り手がブドウのポテンシャルを最大限に引き出しているとのこと。樽熟成されており美しい黄金色、ほどよい重さがあります。しっかりとした磯の味わいにしっくりと寄り添う、濃密で懐の深い1本です。エチケットもキュート!
パスタもパクッとひと口。調味は海苔と塩、生クリーム、パルミジャーノだけということで味の想像ができていたにも関わらず、その想像を軽々と超えてきました。泉地シェフすごい。口に含むと海苔の香りがブワッと立ちのぼり圧倒されます。コクのあるソースに対し、柚子ごしょうの辛み、そして苦みが、オトナの舌を飽きさせないアクセントに。コンキリエのくぼみには、ソースが良く絡んでおり、クニュクニュと愉快な食感に食べ進めるスピードは加速する一方。ワインで流し込めば、もう言葉はいりません。
レシピとしては非常にシンプルなのですが、ごまかしが効かないからこそ、このクォリティに仕上げるのは難しそう。それにしても写真でおいしさを伝えるのが難しいパスタです(笑)。
このパスタ目当てで来店される常連の方も多いというだけあり、他では味わったことのないクセになるおいしさ。この味を知らないなんてもったいないですよ。
(Trattoria MANGIA PESCE)
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-50-11 明星ビル1階
TEL. 03-3403-7735
平日ランチ 11:30~14:30(L.O.13:30)
土日祝ランチ 11:30~15:00(L.O.14:00)
ディナー 17:30~23:00(L.O.21:30)
店休日 月曜日(祝日は営業 翌火曜日代休)
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初出:この記事は2018年3月6日、公開されました@AGARU ITALIA